初めて、ある路線の全ての駅に降りたのは、「銚子電気鉄道阿房列車」の旅
であった。
その時は、とにかく元を取るために、フリー切符を使い潰そうという考えで全駅降り潰しを慣行した。
しかし、実際にいろんな駅に降りてみると、駅それぞれが個性を持っていて、それらを一つ一つ見比べるだけでも楽しかった。
鉄道に乗る楽しみと、駅に降りる楽しみを改めて感じた瞬間だった。
旅をする前と後では、全駅降り潰しをする趣が明らかに異なっていた。
今回の「ひたちなか海浜鉄道湊線阿房列車」の旅の目的も、全駅降り潰しだ。
そしてそれは、フリー切符の元を取る為よりも、全ての駅の顔を見たいが為だ。
勝田駅1番線にて既に発車を待っている、オリエンタルな印象のラッピングが施された1両編成の気動車をよく見てみると、顔に「3710」の文字。
この車両の型式は「キハ3710」。
「3710」は、湊線の「ミナト」をかけている数字だとか。
9時59分
キハ3710は、ディーゼルエンジンを唸らせて勝田駅を出発した。
列車は、ほんの少し常磐線の線路と並走し、左にカーブし始めたと思ったら、小さな駅に停車した。
勝田を発ってから、1分も経過していないのではないか?と思わせるほど、一瞬の出来事であった。
この駅は通過して、列車は真っ直ぐに伸びた線路に従って進み、次の駅で下車する。
「金上(かねあげ)駅」
勝田に金上、縁起の良い駅名が続く。
ホームの上に小さな駅舎があるが、駅舎の中に待合室は無く、あるのは自動券売機だけである。
列車の交換が可能な駅だが、湊線の時刻表を見てみると、この駅で交換が行われている様子は無さそうだった。
湊線の駅名標は、現代アートプロジェクトの「みなとメディアミュージアム」で制作されたアート作品であるというこだ。
漢字の中に各駅の名物や特徴を示したイラストが描かれていてユニークさを感じる。
(ひたちなか海浜鉄道オフィシャルHPより一部転記)
ちなみにここ金上の駅名標には、戦闘機と戦車が描かれている。
これは駅近くにある陸上自衛隊の勝田駐屯地にちなんでいる。
そういえばここまで来る途中、進行方向右側に大きな敷地があったように思う。
駅周辺は、閑静な住宅街が広がっている。
勝田行きの列車に乗り込み、今度は先ほど通過した駅に下車してみる。
「日工前(にっこうまえ)駅」
単式ホーム1面1線と、吹きさらしの待合室を有する小さな無人駅。
駅のすぐそばに「日立工機勝田工場」があり、駅名、及び駅名標のイメージはそこから取られている。
最初は日立工機の社員の為「だけ」に作られた駅だったらしい。
「だけ」と強調した理由は、15年程前までは通勤時間に合わせて、朝一本、夕方一本の電車しか停車しなかったということだ。
(現在は全ての列車がこの駅に停車する)
しかも当時は、時刻表にもこの駅の名前は書かれていなかったらしい。
俗に言う「幽霊駅」だったようだ。
駅の案内標の枠には、本物の線路が使われていた。
勝田から折り返してきた列車に乗り、次の駅に向かう。