ある路線の完乗を目指す者にとっては、旅のゴールは大抵終着駅となる。
当たり前の事だが、終着駅まで行くことが完乗の絶対条件であるからだ。
しかしある路線の全駅下車を目指す者にとっては、そうとは限らない。
もちろん後者の場合でも、終着駅をゴールと設定して何ら問題は無いのだが、終着駅以上に面白い途中駅が存在すると、楽しみを後にとっておく心理が働いてしまい、終着駅への到達を先回しにしてしまうケースもあるだろう。
今回はそのケースに当てはまってしまった。
外川
を発った桃鉄列車で、一気に銚子の一つ手前の駅までさかのぼる。
「仲ノ町(なかのちょう)駅」
この駅のホームに降りると、真っ先に独特の匂いが鼻を衝く。
駅のすぐそばにはヤマサ醤油の本社と2つの工場があり、醤油を精製する際に発せられる匂いが漂ってきているらしい。
しかし私には、味噌の匂いとしか感じ取れなかった。
(どちらも原料は大豆である)
単式ホーム1面1線と、駅の構造としては最低限の施設しか取り揃えていないが、ホームの向かい側には側線と倉庫を有する。
木造駅舎には銚子電鉄の本社も同居しており、いわばこの駅が、銚子電鉄の本拠地となる。
とは言っても、全く派手な印象の無い駅で、知らない人は、この駅舎が銚子電鉄の本社だとは気付かないだろう。
駅の窓口は、笠上黒生
や外川と同じような、懐かしさを感じさせる窓口を有し、そこで乗車券を購入できる。
銚電のぬれ煎餅は、この駅で買うことも可能である。
しかしこの駅の最大の話題は、車庫の入場券(150円)を窓口で購入すれば、車庫の中を自由に見学ができる事である。
さっそく私も入場券を購入する。
入場券は昔ながらの硬券だが、鋏は入れて貰えなかった…(希望すれば、入れて貰えたのかもしれない)
入場券を持って、早速倉庫にお邪魔してみる。
停留中の列車を間近に見ることができて、これは面白かった。
見学者は私一人だけだったので、倉庫の中を独り占めできたような優越感を感じた。
その中に、何とも可愛らしい、非常に小さな電気機関車が停留していた。
真横から見ると「凸」の字をかたどったような形で、全長は一般の自動車と大差無いように思える。
集電装置はひし形のパンタグラフではなく、路面電車などでよく見られるビューゲルである。
(2012年春には、生誕90周年記念として集電装置がビューゲルから登場時のポールに換装されたらしい)
これは「デキ3形」と呼ばれている電気機関車で、狭軌(1067mm)の電気機関車としては日本に現存するもので最少であるらしい。
あまりの車体の小ささに、ビューゲルや連結器が非常に大きく見えてしまい、その姿がとても滑稽に感じてしまった。
姿とは裏腹に、製造は1922年、ドイルのアルゲマイネ社の手によって行われたという由緒正しき機関車なのである。
戦時中から昭和の末期近くまで、醤油工場へ材料を運ぶために活躍していたということだ。
ちなみにこのデキ3は、銚子電鉄が有する唯一の電気機関車らしい。
敷地内をうろついていると、一際目立つオレンジとブルーの塗装の車両に目が付いた。
さらにその車両をよく見ると、車両の顔の部分に、今日の日付と漫画のキャラクターが描かれていた。
実はこの日(2011年9月3日)、漫画「鉄子の旅」の主要メンバーと銚子電鉄がコラボして、一大イベントが開かれる予定であったが、台風の為に延期になっていたのである。
(そのイベントは後日9月19日に、無事に開催されたとの事)
もしイベントが予定通り行われていたら、こんなのんびりした旅もできなかっただろうし、それはそれで良かったかもしれない。
などと考えながら、心の奥底では、菊池直恵嬢やほあしかのこ嬢、編集長やカミムラ氏を一目見たかったなぁと悔しがる自分がいた。
(間違っても、横見浩彦だけは見たくないが…)
そろそろ次の列車の時間だ。
長いようで短く、しかし非常に充実した銚子電鉄阿房列車の旅も、残すところあと一駅となってしまった。
外川行きの列車に乗り込み、目的の駅に向かう。