本銚子駅を出た外川行き列車は、桃鉄のラッピング車両ではなく、白く塗装された2両編成の列車だった。
今日の銚子電鉄は、この車両と桃鉄ラッピング車両の2編成で運行されているらしい。
発車して林の中を少し進むと、とたんに景色は開け、住宅街の中に入ったかと思うと、またすぐに停車した。
一駅しか進んでいないが、この駅で降りてみることにした。
「笠上黒生駅」
少々難読な駅名は、「かさがみくろはえ」と読む。
相対式ホーム2面2線を有するこの駅は、銚子電鉄線で唯一、上下列車の交換が可能な駅である。
有人駅で、外川方面のホームには小さい駅舎がある。
この駅でも、銚子電鉄の名物を拝むことができる。
上下列車交換の際に、「スタフ」交換が行われているのである。
スタフ(「タブレット」という言い方のほうが一般的であるが、銚子電鉄ではスタフという言葉が使用されているらしい)とは、簡単に言えば通行手形の事である。
銚子~笠上黒生間を通行できる手形と、笠上黒生~外川間を通行できる手形を、この駅で運転手同士が駅員の手を借りて交換する。
自動閉塞化が進む今日の鉄道業界で、昔の習慣が今も残されている路線は貴重である。
と言うよりも、銚子電鉄は自動閉塞化に踏み切れるだけの予算が準備できない、というところが本音なのではないだろうか…
残念ながら、スタフ交換を行う瞬間をカメラに収めることはできなかった。
上り列車と下り列車はほぼ同時に出発し、それぞれの行先の駅に向け、散らばっていった。
上下線交換駅というのは、今乗ってきた列車と、逆の方向へ進む列車に乗っても時間短縮にはならない。
次の上りも下りも、30分待たなければやってこない…
仕方がない、列車がくるまでゆっくり駅観察でもしよう。
それにしても非常に味わい深い木造駅舎である。
窓口は昭和の時代にタイムスリップしたかのような、哀愁漂う雰囲気に包まれている。
「出札口」の文字が、右から左に書かれている。あの標識はいったいいつからあの状態で掲げられているのだろう。
銚子方面のホームにも、小さい待合室が設置されている。
跨線橋は無く、ホームの行き来には踏切を使用する。
その銚子方面のホーム側に引き込み線があり、そこに赤と黒にペイントされた車両が静態保存されていた。
このペイントには見覚えがある。
銚子電鉄の車両と言えば、確かこのペイントが主流だったような気がする。
鉄ヲタになる前から、何故かそれは知っていた。
もう現役は引退してしまっているのだろうか?
願わくば一度、このペイントの車両に乗ってみたいものである。
駅の出入り口は、住宅の間の小路を抜けなければならなく、非常に分かりづらい。
駅案内の看板は一応設置されているが、付近の住人以外の人が駅前の道を通っても、そこに駅がある事には気づきにくいのではないか?
一応、銚子電鉄の主要駅ではあると思われるのだが、このような地味な扱いにされて良いものかどうか、少々気の毒にさえ思える。
しばらく駅舎の待合室でぼんやりしていると、列車が来てしまったようだ。
今から銚子行き方面のホームに渡るのは少々危険だろう。
私は三たび、外川行きの列車に乗り込んだ。
今回の列車は、桃鉄列車だった。