T湖畔からH峠を登り切った所に展望台がある。
それを通り過ぎた所にH国立公園の木の看板がある。
ちょうど急カーブの手前にあるのだが、事故多発地帯である。
その場所には、ある噂がある。
小雨が降る夜、もしくは霧の深い夜には、カーブの所に女が立つ。
親切心で車を止めるが、車に乗り込んだ女はいつの間にか、
いなくなっているという。
似たような話は他でも聞いたことがあるけど・・・
当時、湖畔のホテルで働いていたので、町での買い物に
時間がかかり、予定を大幅に遅れて、寮への帰り道を
急いでいた。
フロントガラスにまとわりつくような小雨が降っていたので
嫌な予感がしていた。
ちょうど噂のカーブに差し掛かった時、ヘッドライトに手を上げる
セミロングのストレートヘアーの女性が浮かび上がった。
その時、運転していた彼が、何の断りもなく
スピードを落とし始めた。
私は「車止めないで!」と思わず怒鳴っていた。
私の声で我に返った彼は、訳もわからずアクセルを踏み込み、
なんとかその場を回避した。
彼女は進行方向(湖に向かって)左側に立っていた。
助手席側の窓から彼女の姿が見えなくなるのを確認してから、
彼を問いつめた。
あの噂を知っているのに、何で車を止めようとしたの?と・・・
彼が言うには、何故だか車を止めなければならないと思ったとか。
彼女が立っていた場所の反対側は、普段は緑に囲まれて
見えないが、ガードレールの向こう側は切り立った
崖になっていて、崖の下には1台の白い車が
落ちたままになっている。
急カーブを曲がれずに、ガードレールを突き破って
崖下に転落したのだが、あまりの高さにクレーンも使えずに
未だに放置されたままなのだという。
その事故で、若い女性ドライバーが死亡しているという。
彼女は、今でも助けを求めて通りすがりのドライバーを
呼んでいるのだろうか・・・