高校の文化祭の準備で帰りが遅くなった私は、
街灯の少ない林と空き地の間を自転車で走っていた。
1つ目の街灯を通り抜けたとき、嫌な風が吹いてきた。
途端に、何かが自転車の後ろの荷台に乗ったのがわかった。
とにかくこの暗い道を通り抜けたい。
早く明るい道へ出ないと・・・
そう思いながらペダルを踏んでいると、ウエストの辺りから
手が伸びてきて、後ろから私にしがみついた。
あまりの恐怖で、悲鳴さえも出てこない。
私は死にものぐるいでペダルを踏んだ。
私にしがみついているのは、間違いなく子供だ。
小さな手が、お腹の辺りに見えている。
モチロン、人間であるはずがない。
走っている自転車に飛び乗れる子供がいるとは思えない。
我ながら嫌になるのは、正面から見ているわけでもないのに、
相手の全身像が見えてしまうことと、時々、どういう状態で
亡くなったのかがわかってしまうことだ。
その時も、4~5歳くらいの男の子の顔がハッキリ見えていた。
水色の柄付のポロシャツと紺色の半ズボンをはいている
かわいい男の子だ。
空き地で遊んでいて、ボールを追いかけて道路に出たところを
ダンプカーに引かれたらしい。
そのうち、私は大きな道路に辿り着き、周りも
急に開けて明るくなった。
私にしがみついていた手も、気配もなくなり、
安心して自宅に向かった。
しかし、こんな日に限ってひとりなのだ。
自転車で、自宅近くまできたところで、いつものことだが、
犬が私の気配を感じてか鎖を引きずって玄関の方に
出て来るのがわかる。
私もほっとしながら、家の入り口をくぐったのだが、
途端に犬が私に向かって激しく吠えた。
直感で、さっきの子を連れてきてしまったことを悟った。
どうしようもないので、とりあえず家の中に入り、
家中の電気を付けて歩いた。
男の子は、少し距離をおいて後を付いてくる。
私は、無視していれば、いなくなるだろうと思っていたが、
その考えは甘かったようだ。
かわいそうだと思ったが、こればかりは仕方がない。
私はその子に向かって怒鳴った。
「帰りなさい。ここはあなたのいる場所じゃない。
あなたは死んだの。
待っていても、誰も迎えになんか来てくれないんだから、
自分から行きなさい」と・・・
その子は、ダンプカーにはねられて即死だったらしく、
自分が死んだことに気ずかずに、母親が自転車で
迎えに来てくれるのを待ち続けていたのだ・・・