蒲公英草紙―常野物語/恩田 陸 | mokkoの現実逃避ブログ

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ページ数:273P
発売日:2008年05月

青い田園が広がる東北の農村の旧家槙村家にあの一族が訪れた。
他人の記憶や感情をそのまま受け入れるちから、
未来を予知するちから…、不思議な能力を持つという常野一族。
槙村家の末娘聡子様とお話相手の峰子の周りには、
平和で優しさにあふれた空気が満ちていたが、
20世紀という新しい時代が、何かを少しずつ変えていく。
今を懸命に生きる人々。懐かしい風景。待望の切なさと感動の長編。
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常野物語の第2弾。

「光の帝国」のような短編集を連想していたんだけど
色んな常野一族が登場するのではなく、日露戦争を間近に控えた
明治の農村が舞台で、村の名家の末娘で体の弱い聡子の
話し相手に選ばれた峰子の追想録って感じです。

峰子目線で語られているんだけど、峰子は普通の人なので、
常野の不思議な力の話がメインではないです。
体が弱い聡子様と過ごす中で、槇村家の一員として
何か人の役に立ちたいと強く願う聡子様の優しさと強い意志と
外見だけではなく、その人のあるがままの姿勢をも見つめる
不思議な眼差しが峰子や村の人たちを魅了する。

肖像画を描いてもらった聡子様が、日本の絵と西洋の絵を
見比べた感想がドキっとしました。
日本の絵は聡子という人間の昔の時間やこの先の時間が描かれている
西洋の絵のように見たままのものを描くのが目的ではないと。
その言葉を聞いた峰子も絵を描いた二人も言葉をなくしていた。
時々、不思議な事を口にする聡子様を峰子は不思議に思っていたが
それに気付いたのは春田の子供だったりします。

光の帝国に出てきた春田一家のご先祖のお話が出てくるんだけど
そこが常野的には一番の見どころになってたりします。
あぁ~ここを訪れてたんだなぁ~とシミジミと思ってみたり。

普通とは違う能力を持っていると、それがいくら人の為になっても
人はそれを恐れ排除しようとする。
迫害から逃れる為に、一か所にとどまることが出来ない常野一族。
常野の未来を思って槇村家に願いを託す春田家のご先祖。
その最後が、槇村家の聡子様と重なってウルっとしました。
その切なる願いをずっと守り続けた槇村家が今もある事を
願わずにはいられない。
常野一族にとっては、立ち寄れる場所があるってことが
どれだけ幸せな事だろうと勝手に想像してみました。

聡子様に憧れた峰子の追想録。
タイトルに蒲公英を持ってきたところがステキです。
薔薇や大輪の花ではなく蒲公英。
読み終えて納得しました。

恩田作品から離れていたので忘れていたけど
エンドゲームがあるのでしたね。
読まなくっちゃ!