コバケン:プラハ響の「わが祖国」 | 木琴歩徒氏のブログ

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木琴歩徒氏の独り言ブログと、出かけたクラシック音楽のコンサートのレポートです。

○2024.1.11(木)19:00~ サントリーホール 2階P6-○
 小林 研一郎:プラハ交響楽団
  スメタナ:連作交響詩「わが祖国」全6曲
(会場入口のポスター)
 若き首席ブラウネルと5年振りに来日し、各地で8公演を行うチェコ
の名門プラハ響。このうち東京、いわきの2公演はコバケンが、生誕200
年を迎えるスメタナの代表作「わが祖国」を振る。オケは弦14・12・10
・7・7という変則編成。ヨーロッパのオケだけあって楽員の体格が、
一回り大きいのには改めて驚かされる。マエストロは暗譜でのタクト。
発売日に辛うじて確保した、Pブロック上手の最安席で聴く。
 この曲はチェコの人々にとって、民族の独立を象徴する特別な曲。し
かし歴史的背景を知らずに聴くと、長くてくどいローカルな交響詩集で
しかない(特に第3・5・6曲)。そのためか人気のほどは今一つで、
正面席両サイドにはまとまった空席が見られるのは残念である。プラハ
の春音楽祭のオープニングでは、欧米人以外で初めてこの曲を振ったマ
エストロの十八番。直近では4年前の日フィル定期で聴いているが、チ
ェコのオケでは1999年のチェコフィル来日公演以来となる。
(カーテンコール)
 第1曲「高い城」の出だしでは、マエストロは棒を振らない。2台の
ハープの美しいソロは、民族の歴史を語る吟遊詩人の竪琴を模したもの。
これぞチェコと言うべき、愁いを帯びた音色である。この主題がオケに
引継がれると、分厚く響く色彩鮮やかな音の奔流に。柔らかなホルン6
本のアンサンブルが実に素晴しい。続けて入った「モルダウ」は速めの
テンポ。川辺の情景が走馬灯のように、次々と描き出されて行く。月夜
の静けさは弦のピアニッシモが実に見事で、渦巻く急流はオケが全開で
凄まじい迫力。そして輝かしい凱歌のフィナーレとなる。3曲目は恋人
に裏切られた女性「シャルカ」が、男達を酔わせて皆殺しにする伝説曲。
速めのテンポで金管の迫力が物凄く、クラリネットのソロが上手い。前
半終了で20分の休憩となるが、ここでマエストロは本格的なコールを行
い、楽員を次々と立たせて行った。
 第4曲「ボヘミアの森と草原から」は緩急自在で、チェコの自然を思
わせる明るい響き。農民の踊りのようなコーダは、物凄い迫力である。
最後の2曲はカトリック教会の堕落に反旗を翻した、中世のフス教徒の
物語。チェコの歴史の原点と言うべきものなのだろう。繰り返し出現す
る旋律はフスの賛美歌とのこと。第5曲「ターボル」は反乱の中心とな
った町の名。金管の咆吼と打楽器の強奏が印象的である。終曲「ブラニ
ーク」は、闘いに敗れた騎士達が眠る山。冒頭は1音1音噛みしめるよ
うな曲想だが、徐々にテンポを上げて行く。そしてフスの讃美歌が回想
されると、オケを鳴らし切っての高らかなフィナーレ。民族の歴史の明
るい未来を、希求するかのような演奏だった。余韻を味わいたかったの
だが、知ったかぶりのフライング拍手が残念至極。
(多摩湖より望む富士)
 コールではマエストロは、顔をクシャクシャにしながら次々楽員を立
たせる。最後はマイクを取って、聴衆への謝辞と楽員への賞賛。「これ
だけの演奏の後、アンコールは勘弁して頂きたい。皆さまの大きな拍手
で、お開きにしたいと思います」。チェコの自然や歴史に疎い我々に、
この曲の素晴らしさを体感させてくれた名演。楽員一同四方の聴衆に向
かい、慣れない礼をして散会となった。