名演!音の魔術師ソヒエフ | 木琴歩徒氏のブログ

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木琴歩徒氏の独り言ブログと、出かけたクラシック音楽のコンサートのレポートです。

○2024.1.14(日)14:00~ NHKホール 3階L8-○
 トゥガン・ソヒエフ:NHK響(#2001定期)
  ビゼー(シチェドリン編):バレエ音楽「カルメン組曲」
  ラヴェル:組曲「マ・メール・ロワ」
   〃  :バレエ音楽「ラ・ヴァルス」
(会場入口のポスター)
 昨秋のウィーンフィル来日公演を、病気キャンセルとなったウェルザ
ー=メストの代役で、急遽指揮したロシアの俊英ソヒエフ。1月のN響
定期に登場してAプロではオール・フレンチ、Bプロではモーツァルト
とベートーヴェン、Cプロではオール・ロシアンと、得意とするレパー
トリーを並べた。この中から1つ選ぶとなると、日頃は進んで聴かない
フランス物に食指が動く。客足は良く天井桟敷も8割方と満員に近い。
オケは弦フル編成(第2Vnは1少ない13)。コンマスは伊藤亮太郎で、
マエストロは素手での指揮。3階下手最安席の前方で聴く。
 本日の3曲は何れもバレエで上演されるのが共通点。前半はカルメン
組曲のバレエ上演版で、旧ソ連の世界的プリマ・プリセツカヤのために、
夫君シチェドリンが編曲したものとのこと。初めて聴くが弦楽合奏と打
楽器のみで演奏される。弦の直ぐ後ろに奏者5名の打楽器群が居並び、
13曲40数分に及ぶスペイン情緒溢れる名旋律のオンパレード。「カルメ
ン」を材料としているが、通常演奏される組曲とは別の曲と言った方が
良い(冒頭・終曲ともに静かな弦楽合奏をバックに、チャイムが優しく
メロディを刻むなど)。管楽器が入らないため華やかな感じではないが、
打楽器が活躍するので非常にダイナミックな印象。弦のアンサンブルは
分厚く響きは豊かである。あまり期待していなかったが、フランス物の
エスプリを充分に堪能した佳演。N響では珍しくブラボーが飛び交った。
(カーテンコール)
 20分の休憩中に前半使われた打楽器は片づけられ、後方のヒナ段に置
かれていた管楽器用の椅子がセットされた。2曲目のマ・メール・ロワ
は、マザーグースの昔話によるピアノ連弾が原曲。今回はバレエ上演版
ではなく通常の組曲版によるとのことだが、素人に違いは分からない。
子供に添い寝しながらのお伽噺という、夢見心地の優しい演奏は趣通り
のもの。コンマスのソロが美しい。10数分の小ぶりな作品だが美女と野
獣の対話など、微妙なニュアンスの変化が際立つ名演だった。
 トリは4年振りに聴くラ・ヴァルス。これは編曲物ではなく、当初よ
りバレエ音楽として作曲されたものである。混沌とした巨大な渦の中か
ら濃厚なワルツが誕生し成長して行く。それが極限まで達すると、一瞬
輝かしい閃光を放って昇華する。そんなイメージを華麗に描き出した演
奏で、巨大なNHKホール(しかも天井桟敷)で聴いているのを忘れさ
せてくれた。前2曲に続き音の魔術師の本領が、存分に発揮された色彩
感に溢れる名演。マエストロは満足そうに笑みを湛えていた。
(大分の赤レンガ館)