最後の泣き顔 | そらいろ

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写真とガーデニングとワンコが好きで、そんな日々を綴っていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

小学生の時から高校まで10年間剣道を続けた次男は、残念なことに見事に私のDNAを受け継ぎ、かなりの運動オンチだ。小学生の頃、スポーツ万能の長男にキャッチボールの相手を無理やりやらされては、投げ方がおかしい!捕り方がおかしい!と好きなだけ言われ、「もう、やらない!」と怒っていたのを思い出すが、私が見てもそれは確かにおかしかった。それくらいに、どんくさいのだ。
 
小学生の頃は、試合に負ける度に声を上げて泣いた。面をつけたままで泣くから、涙を拭おうにも拭えず…指を金具の間から入れようとしてももちろん入らず、もどかしげな様子が哀しいようで可笑しいようで、可愛かった。
それでも、練習を休みたいとかもう辞めたいとか、そんな言葉を聞いたことは一度もなかった。どんくさいけれど細々と継続するのが次男の長所。俊敏さはないけれどなかなか負けない、そんな剣道だった。
 
最後の試合は、高校総体県大会。
剣道は、エントリー7名、試合は5名で闘う。次男たち3年生は7名、2年生のレギュラーも何名かいたから、補欠にすらなれない子も当然数名いた。
次男は中堅で出場、最後の試合は2本勝ちしたが、結局チームは2-1で負けた。
 
試合後、殆どの子が泣き顔の中で次男は淡々と表情を崩さなかった。悔しくない筈はなく、当然泣くと思っていた泣き虫の次男が泣かないことが不思議でならなかった。まさか自分は勝ったから…なんて思っているのでは、なんてことも少しだけ頭を過ぎった。
 
その日遅く帰宅した次男は、リビングの椅子に座るや、声を上げて泣き出した。
「あいつらを、どうしてもブロック大会に連れて行きたかったのに…」
あいつら、とは、もちろん、試合に出場できなかった3年生、一緒に頑張ってきた仲間の事だ。ブロック大会は勝っても負けてもそこで終わり、その上の大会はないから先生も3年生をもっと出してくれる筈と子どもたちは思っていたのだ。
久しぶりに声を上げて泣く次男に、私が掛けてやれる言葉は一つしかなかった。
「今までよく頑張ったね。おつかれさま。」
 
次男の泣き顔を見たのは、あの夜が最後。
その後は、泣くほどに一生懸命やったことはないからなのかどうなのか、泣いているところを見たことはない。今やシングルライフを充分過ぎるほどに満喫していて、それはもう呆れるほどで、あの頃の直向さはあの涙とともに体外へと流出してしまったのではないかと思えるほどだ。
もうすっかり忘れてしまったのかな…。
 
今年の県大会結果を聞き乍ら、あの頃の思いを今も心の片隅にそっとたたんで持っていてくれるといいな…と思う母なのでした。