席についた母と私に対して、青木さんと彼のお母さんは笑顔で会釈してくれ、打ち解けやすそうな雰囲気で迎えてくれました。
端に座っているお相手の仲人さんは年配で品があるものの、少しツンとした印象があり、こちらを品定めするように見ていました。
さて、お見合いの開始です。
進行は二人の仲人さんが進めてくれ、互いの自己紹介を行う事になりました。
緊張しつつも何とか今の勤め先や趣味(読書)などを簡単に話し、終わろうとした矢先の事です。
「ところで、さくさく太郎さんはお料理などはできるのかしら?」
相手方の仲人さんからの質問でした。
うわ…お見合いって本当にこんな事聞くんだと思ったのを覚えています。
10年ほど前の田舎町のお見合いです。
共働きであったとしても家事は女性という意識がまだ根強くありました。
特に私の親世代以上は。
例えば、私の家も親戚の家も、両親ともに働いていても夫は家事を一切しません。
ご飯の仕度は全て母が行い、父は何もせずに整えられた食卓につき、ドレッシングがなければ「ドレッシング」というと母が席を立ち横にそえます。
お風呂も父が好きなタイミングで入り、その間に寝間着を脱衣所に母が持っていきます。
本っ当~に家事は何もしません。
ですが二人の仲はとても良く、母は女性たるもの家の事は全て行って当然という考えです。
あ、共働きです。
私の世代、この地域はこんな両親がいる家庭が一般的でした。
盆や正月に親戚で集まると、男性は席で宴会を行っているのに、女性はずっと給仕係です。
でも、同世代の従姉妹達を含めそんな状態に不満はなく、これくらい気の効く女性が良い女性と言った感じです。
私も幼少の頃はそんな母を見て育ち、母のようにしっかり家事のできる女性になる!と思っていました。
家をしっかりと支える母が誇りだし、今も尊敬しています。
ただ、何か…おかしくないですか?
ていうか、いざ自分の身になるとこれって…
そんなモヤモヤがはっきりと具現化するのはもう少し後になります。
当時の私は、料理は全然できなかったのでただ焦っていました。
というか、まだ20代だし、実家暮らしだし結婚して家庭に入ったら徐々にできるようになるでしょ位の感覚でいました。
私が言葉に詰まったのを察したのか、お相手のお母さんが咄嗟に「まぁ、そんなの結婚してからよね」と笑顔で助け船を出してくれその場は収まりました。
ヒヤリとしたのはそこだけで、後は和やかな歓談が続き、一通り話終えた後、仲人さんが言いました。
「では、そろそろお二人でお話がてら昼御飯でも食べてきたらどうかしら?」
ドキッとしました、青木さんと視線が合います。
青木さんは和やかな顔でこちらを見ていました。
そして促されるまま二人で席を立ち、出口へと向かいました。