デヴィッド・リンチが亡くなった。

何というか…亡くなるというイメージがなかったんですよね。長らく映画は撮ってなかったけど、まだまだ元気で忘れた頃に何か届けてくれる気がしてた。

「フェイブルマンズ」にジョン・フォード役で出てましたね。アレもリンチにしかできない存在感だった。

 

 

デヴィッド・リンチは、僕にとって「いちばん好きな監督」でした。

ものすごくぶっ飛んでるのだけど常にアートだけに振り切らず、エンタメとして「面白い映画」でもあるという作風は、誰にも真似できないリンチだけのものだったと思います。

見たこともないようなビックリするアートと、ハリウッドの王道とも言えるくらいの娯楽性の両立。

そんな不可能とも思えるような離れ技を常に達成してるのがリンチでした。

 

最初に観たのは「デューン/砂の惑星」(1984)ですね。当時はリンチという名前を意識せずにSF大作の一つとして観てたけど。

後になってあらためて観てみると、これも極めてリンチ印の濃厚な作品なんですよね。

悪役のハルコンネン男爵の「皮膚病」描写とか、恍惚として祖父を殺す奇形少女アリアなどにリンチの美学が現れてます。

 

 

リンチという存在を強く意識して、「これは好きだ」と刷り込まれたのは「ブルーベルベット」(1986)ということになると思います。

暗闇の美しさ。ダークでダーティな美学。

ホラー的おどろおどろしさと、ノワール的暴力と、50年代ポップスの甘いメロディが同居する違和感。その違和感がもたらすドキドキするような心地よさ。

 

「ブルーベルベット」で印象的だったのは、「甘く優しく美しい見かけのたった一枚裏側に同時進行で潜んでいる、暗くて醜悪な(それでいて魅惑的な)悪徳」というイメージを視覚的に鮮明に映し出したことなんですよね。

緑の芝生、白い垣根、チューリップの花壇、青空。ニッコリ手を振る消防士さん。

でも緑の芝生の奥には切り取られた耳が腐っていて、地虫がびっしりたかっている…。

 

そういう強烈なビジュアルイメージを持ちつつ、物語も面白いのが「ブルーベルベット」の特徴で。

「耳」というマクガフィンをめぐる巻き込まれサスペンスなんですよね。

若いカイル・マクラクランローラ・ダーンも、妖艶なイザベラ・ロッセリーニも、怪しさ爆発のデニス・ホッパーも素晴らしい。

リンチの代表作と言えると思います。観たことない人はまずはこれから。

 

 

そして「ツイン・ピークス」(1990)。ハマりにハマりました。

「ブルーベルベット」にSFとオカルト風味を足したような先鋭的な作風なんだけど、ベタな連続メロドラマでもあって、これがテレビでやれちゃうというのがリンチの強味なんですよね。

「ツイン・ピークス」大ブームの中で公開されたのが「ワイルド・アット・ハート」(1990)で、これもリンチが一般に受容されるきっかけになりました。ニコラス・ケイジ!

テレビシリーズの映画版「ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間」(1992)は割と実直な作りで意外性には欠けたけど、テレビシリーズを補完するものになっていて、そういう真面目さもまたリンチですね。デヴィッド・ボウイ!

 

 

「デューン」以前の作品は後になってから観たけど。

デビュー長編「イレイザーヘッド」(1976)はノイズにまみれたモノクロの悪夢。リンチの真髄がそのまま出てるストレートな作品と言えると思います。

悪趣味で不気味なアートなのだけど、それでいてユーモアもふんだんにあるのがリンチ流なんですよね。実は笑えもするという。

 

 

 

 

「エレファント・マン」(1980)は公開当時はヒューマニズム溢れる感動大作みたいな扱いだったので観なかったのだけど、後で観てみたら人間の醜悪さを皮肉たっぷりに描き出したシニカルな傑作でした。

実は「イレイザーヘッド」並のインダストリアルノイズに満ちた尖った映画でもあるのです。サウンドデザインはリンチ自身。

感動大作に抜擢されて、割とそつなく感動大作に仕立てるのだけど、リンチらしさも失わない。

 

 

「ロスト・ハイウェイ」(1997)も最高に目眩く幻惑のサスペンスですが、音楽が印象深い作品でもあります。

リンチは自分でもバンドやるくらいで音楽も強いんですよね。デヴィッド・ボウイやラムシュタイン、マリリン・マンソンとか、トレント・レズナーとの絆もここからですね。

 

 

「ストレイト・ストーリー」(1999)はリンチの作品の中では異色ですね。僕はこれは公開時に1回観たきりだと思う。今観るとまた発見があるかもしれない。観よう。

 

 

そして「マルホランド・ドライブ」(2001)後期リンチの代表作と言えると思う。(後期になってしまった。中期と呼びたかった)

驚くのは、これはもともとテレビシリーズのパイロット版として作られたものなんですよね。映画になると決まった時点では結末もなかった。

でもそういう即興性が、上手い具合に働くのがリンチですね。投げっぱなしの伏線も、魅惑的な謎になってしまう。

6本の解説考察記事を書きました。よかったらどうぞ。

 

 

結果的に長編映画の遺作になってしまった「インランド・エンパイア」(2006)リンチ史上もっとも難解な3時間の究極アート。

これはいまだに自分の中で消化しきれてないです。新作が観られなくなった今、末長くしがむことのできる遺作があってよかった!

 

 

そしてそして、26年ぶりの続編となった「ツイン・ピークス The Return」。(サードシーズンとか、リミテッド・イベント・シリーズとか、いろんな呼び名があるようですが。)

これ、映画じゃないし長いシリーズの更に続編だしで、観てない人多いかもしれないのですが。

リンチ濃度MAXの超傑作!なので、リンチ好きで観てない人は絶対観るべきです。万難を廃して、今すぐ観て欲しい!

リンチは当時映画引退を宣言していたのだけど、こんな凄いものがテレビで観られるなら、もう映画じゃなくてもいい!と思ったものです。

 

前シリーズはリンチ以外の人が監督したエピソードも多かったのだけど、こちらは全エピソードがリンチ監督です。

前シリーズは本筋から外れてダラダラ続くメロドラマ的な部分も多かった(それはそれで味だった)のだけど、本作は全編核心。

前作の「夢のシーン」のようなリンチ得意のシュールなシーンが、むしろ多くを占めています。

 

前作キャストだけでなく、ローラ・ダーン、ナオミ・ワッツ、裕木奈江など、リンチ作品のオールスター揃い踏みの醍醐味もあります。

亡くなったキャストへも細かく言及されていて、感動的なんですよね。デヴィッド・ボウイとか。

最晩年のハリー・ディーン・スタントンの、めっちゃいいシーンも観れます。(歌まで聴けます!)

そしてリンチの旧友でもある丸太おばさんへの愛情も。泣かせます。

 

この「ツイン・ピークス The Return」に関しては、25本も記事を書いています。

皆さん是非ドラマ観て、良かったら記事も読んでもらえると嬉しいです!

本当にリンチの集大成のような傑作なので。

前シリーズ観てない人は、リンチが監督したエピソードである「序章」「第2章」「第14章」「第29章」「映画版」だけでも観ると、何となくついて行けるんじゃないかと思います。

 

 

 

今朝訃報を知って、じっとしていられず勢いでこの文章を書きました。

もっと映画観たかった。テレビでもいいから観たかった。なんでもいいから…「ジャックは一体何をした?」みたいなシュールな短編でもいいから、もっと観たかったというのが今の思いです。

 

 

本当に、残念。合掌。