The First Omen(2024 アメリカ)
監督:アルカシャ・スティーブンソン
脚本:ティム・スミス、アルカシャ・スティーブンソン、キース・トーマス
製作:デビッド・S・ゴイヤー、キース・レビン
製作総指揮:ティム・スミス
撮影:アーロン・モートン
美術:イブ・スチュワート
編集:ボブ・ムラウスキー、エイミー・E・ダドルストン
音楽:マーク・コーベン
出演:ネル・タイガー・フリー、タウフィーク・バルホーム、ソニア・ブラガ、ラルフ・アイネソン、ビル・ナイ、ニコール・ソラス
①「オーメン」シリーズについて
1971年、アメリカ人のマーガレット(ネル・タイガー・フリー)はローマの修道院で修道女見習いの教師になります。マーガレットはカルリータ(ニコール・ソラス)という少女と知り合いますが、ブレナン神父(ラルフ・アイネソン)から、カルリータは反キリストを産み出すために作られた「悪魔の子」だと知らされます…。
1976年の映画「オーメン」の前日譚。
「オーメン」は、「エクソシスト」によってもたらされたオカルト映画ブームの中で公開された作品でした。
反キリストになる運命のもと、6月6日6時に生まれた悪魔の子ダミアン。その周りで恐ろしい出来事が次々と起こっていく…。
「スーパーマン」や「グーニーズ」のリチャード・ドナー監督。「猿の惑星」や「エイリアン」のジェリー・ゴールドスミス音楽。そして名優グレゴリー・ペック主演。今思えば豪華ですね。
「オーメン」は悪魔の子ダミアン、体のどこかに刻まれた「666」の刻印など、魅力的なオカルト的ガジェットが満載で、大ヒットしています。そして例によってシリーズ化。
成長したダミアンを描く「オーメン2/ダミアン」、遂に大人になったダミアンをサム・ニールが演じた「オーメン最後の闘争」と続いていきますが、ダミアンが成長すればするほどショボくなっていった…ような印象が。
「Omen」とは「予兆」「前兆」の意味。物語の構造上、描かれる怪奇現象はすべて、まだ幼いダミアンがやがて反キリストになっていくことの「前兆」であると言えます。
だからこそ不気味さがあるし、シリーズが進んでダミアンが大きくなってしまうと「前兆」では済まなくなって、本来の構造が成り立たなくなる…というところがありました。
本作は「オーメン」の前。悪魔の子ダミアンが「産まれる前」を描くので、そういう意味では「予兆」にぴったり。
「オーメン」らしい物語が期待できそうです。
②70年代ローマの不穏なムード
本作の最大の特徴は、すごく実直に、まじめに、第1作「オーメン」につながる前日譚を作っていること。
なので、時代は1971年。第1作でダミアンが渡されるのがローマの産院なので、舞台はローマです。
従って、本作では1971年のローマを再現し、また全体のかなりの部分で英語でなくイタリア語が話されるという、本格的なことになってます。
これ、作り手にとっては極めて面倒くさいことでしょうね。お金もかかるだろうし。
このこだわりは素晴らしいなと思います。あえてのこだわりで、本格的オカルト映画らしさに繋がっています。
70年代のローマを舞台にしたホラーという点で、「サスペリアPART2」とか、往年のイタリア・ホラーを想起する部分もあります。
70年代初頭、カウンターカルチャーの時代で、若者たちがデモや暴動を起こし、その矛先は旧来の権威である教会にも向かっている。そんな時代背景。
政治や時代性からも不穏さを醸し出していくのは、ルカ・グァダニーノ監督版「サスペリア」の印象もありましたね。
③独自設定が導くどんでん返し
世俗的な部分と神秘性が入り混じった、当時の修道院の不気味なムード。
恐怖演出もジャンプスケアは少なく、不穏なムードと生理的に来るイメージで見せていく。
その中で、マーガレットの視点から、カルリータの謎を追っていくミステリ調の物語が展開していきます。
「悪魔の子が産まれる前の物語」と聞いたところで、それは「ローズマリーの赤ちゃん」なのでは?というのも頭をよぎるんですよね。
「オーメン」自体、発想の元は「ローズマリーの赤ちゃん」のその後なんじゃないかとも思えて。当時のオカルトブームの火付け役は「ローズマリーの赤ちゃん」と「エクソシスト」だった訳だから。
でも本作では、「ローズマリーの赤ちゃん」は想起させない、まったく別の物語になっていました。
そのポイントになるのが、悪魔の子を産む役目の母親もまた悪魔の子であるという、ちょっと複雑な設定です。
この設定によって、上手く終盤のどんでん返しを導いていましたね。
④そして続編へ…?
どんでん返しと書いたけど、でもまあこれはホラー映画を見慣れてる人だったら予想はつくとは思います。
前日譚の宿命で、ラストがどうなるかはあらかじめ予想がついてしまう。ダミアンが産まれる結末は動かせない訳だから。
なので、どうしても若干の作業感というか、予定調和を感じてしまうところはありました。
結末が見えた状態でもなお、ゆったりじっくり描いていくので、やや冗長な感じもあります。
それでもなお見せるのは、マーガレット役のネル・タイガー・フリーの熱演。
出産にまつわるシーンは「MEN 同じ顔の男たち」を思わせる生理的な気持ち悪さもあって、あれほどのグロさはないものの、見ごたえあるものにはなっていましたよ。
最後はグレゴリー・ペックの写真まで見せて、実直に第1作に繋げます。
その上で、本作の主人公マーガレットやカルリータが存在して、ダミアンに対抗する力になっていく…ことが仄めかされる。
続編睨んでますね〜。ここから後は、パラレルワールドになっていく感じでしょうか。
しかし、悪魔に対抗する善の力みたいになってるけど、最後のシーンで集まっていた人たちもみんな悪魔の子なのでは…?
何となーく、シリーズを続けるほど設定の無理が露呈してきそうな気はしますが。
全体を通してB級感のあまりない本格オカルト映画で、なかなか見応えはあったと思います!