Talk to Me(2022 オーストラリア)
監督:ダニー・フィリッポウ、マイケル・フィリッポウ
脚本:ダニー・フィリッポウ、ビル・ハインツマン
製作:サマンサ・ジェニングス、クリスティーナ・セイトン
撮影:アーロン・マクリスキー
編集:ジェフ・ラム
音楽:コーネル・ウィルチェック
出演:ソフィー・ワイルド、アレクサンドラ・ジェンセン、ジョー・バード、オーティス・ダンジ、ミランダ・オットー、ゾーイ・テラケス
①ドラッグ/ネットの暗喩としての憑霊
女子高生のミア(ソフィー・ワイルド)は、2年前の母の死のトラウマを抱え、父に反発。友達のジェイドの家に入り浸っていました。ジェイド、その弟のライリーと共にパーティーに参加したミアは、仲間内で流行っていた「90秒憑依チャレンジ」を体験します。それは呪物の「死者の手」を使って、死者の霊を自らの体に憑依させるというもの。ただし90秒以内にやめないと、霊は出ていかなくなってしまうという、危険な遊びでした…。
オーストラリア製のホラー映画。アメリカではA24による配給で、思わぬ大ヒットを記録した作品です。
(なので、A24の名前を冠した宣伝がされてますが、配給しただけです。アイスランド映画をA24が配給した「LAMB/ラム」と同じパターンですね。)
カンガルーも出てきて、オーストラリアらしい映画としても楽しめます。
パリピと降霊術の組み合わせはなかなか新鮮ですが、本作における憑依はドラッグの暗喩ではあるんでしょうね。
興味本位で手を出して、心も体もボロボロになり、人生台無しにしてしまう…。
なんでわざわざこんな気持ち悪い死霊に自分から取り憑かれようとするのか…と思うけど、そもそも若者は意味のない危険なことを好きこのんでやりたがるものです。
悪ぶってみたり、酒やタバコ、ドラッグもそうですね。今だと自己顕示欲のあまりSNSで暴走したり、ネットで炎上しちゃうのも、似たような心理なのかもしれない。
「死ぬなんて怖くない」と粋がって見せるのは、自分からもっとも遠いものである(と思える)死への関心の現れでしょうか。
でも実際には死は思いのほか近くにあって、直面して初めてビビることになるわけですが。
②世界が反転するホラーらしいオチ
本作は「オチのあるホラー」。
「ミステリーゾーン」的というか、「世にも奇妙な物語」的というか。
全体のプロットに絡めたからくりがあって、どんでん返し的な逆転があって、最後に皮肉の効いたブラックなオチが決まって、スッキリする…(あるいはホラーなのでいや〜な気分になる)のを楽しむ、そんな作品です。
具体的にどういうオチかは、書きませんが!
上手いですね。最後にグルンと、世界の見え方が反転する。
因果が閉じて、闇に落ちる。そこで初めて、それまで見ていたすべてが伏線だったことに気づく。
非常にホラーらしいダークで気の悪いオチで、これはなかなか良かった。ホラー映画として満足のいく「いや〜な後味」を味あわせてくれました。
終盤はオチへ向けて一目散に、主人公がひたすら悪手を引いていく展開になります。
そこはやや一本道というか。オチへのつなぎっぽい感もあったかな。
願わくばオチまでにもう一捻り、別の展開があっても良かった気がする。あるいは、逆にもっとテンポ良く切り詰めてしまうか。
③垣間見える死後の世界の怖さ
「死者の手」を握って合い言葉を唱えれば、誰でも確実に死霊に会える。本作の基本設定はお手軽で、いかにもインスタントなものではあるのだけど。
呼ばれる死霊の側、そして死霊がやって来る「向こう側の世界」に関しては、ほとんど説明されない。
そこは僅かに垣間見えるところから、想像を促すものになっています。
ミアはお母さんが帰ってきたと思い込んで、その意思に操られてしまうのだけど。
アレは実際には、お母さんじゃないのでしょうね。邪悪な意思で人を地獄に落とすことを目論む、悪霊なのでしょう。
…なのだけど。説明はないので、どうとでも解釈できる。実際にお母さんであって、死んだお母さんは邪悪なものに成り果てている…と受け取ることもできます。
あの一瞬見えた、永遠に苦しめられる地獄の様子も嘘ではないのかもしれない。
死後の世界は平等に絶望の世界で、生前の思いに関係なく、邪悪なものになってしまうのかもしれない…。
「死者の手」のお気楽なインスタント性を裏返せば、死後の世界はただ闇の中にずっといて、遊びで呼ばれたら自動的にそこへ行かなくちゃならないような、そんな世界であるということになる。
死んだ後もずっと、誰かのSNSに付き合わされる地獄。本作のオチは、そんなふうに解釈しても怖いですね。
最近の憑依ホラー。「オチありき」という点は共通するかもしれない。