君は放課後インソムニア(2023 日本)
監督:池田千尋
脚本:高橋泉、池田千尋
原作:オジロマコト
撮影:花村也寸志
編集:目見田健
音楽:信澤宣明
出演:森七菜、奥平大兼、桜井ユキ、萩原みのり、上村海成、安斉星来、永瀬莉子、川崎帆々花、工藤遥、斉藤陽一郎、田畑智子、でんでん、MEGUMI、萩原聖人
①美しい能登の夏と青春
石川県七尾市。不眠症に悩む高校一年生の中見丸太(奥平大兼)は、学校の天文台で同じクラスの曲伊咲(森七奈)と出会います。彼女が自分と同じ不眠症だと知った丸太は、仮眠場所としての天文台を守るべく、伊咲と共に休眠状態だった天文部を復活させます…。
スピリッツ連載中の漫画を原作とする青春映画です。原作は未読。
互いに不眠症に悩む少年少女が主人公。
なので、美しい夜明けの風景が何度か登場します。
海を照らす朝日。眠れなかった朝に見る朝日の、後悔と憧れがないまぜになったような美しさ。
それに星空。夏の田舎の、天の川まで見える満天の星空。
原作も石川県七尾市が舞台。実際に七尾市や七尾高校、能登半島で撮影をしています。
夏の能登半島の、緑がこぼれそうな瑞々しい自然。
その中を駆け抜ける高校生たち。
夏の青春映画、いいですね。もうそれだけで、ちょっと胸がぎゅっとなってしまいます。
ここまで地域性をはっきり出すなら、セリフも能登弁にすればいいのに…とちょっと思いましたが。
それはさておき、うってつけのシチュエーションを背景にした、とても気持ちのいい青春映画でした。
②物語の要素は多い…
物語の中の要素は、かなり多いです。
不眠症という、人と違う自分に悩み、疎外感を持つ二人が惹かれあっていく、「孤独な二人」の物語。
廃部状態の天文部を再開させて、仲間を集め、イベントを企画し、仲間たちと絆を深めながら頑張っていく「部活もの」の物語。
丸太が「天文写真を撮って入選する」という目標を持って頑張る「夢の実現」の物語。
丸太と伊咲それぞれの家庭問題に少しずつ近づいていく「家族ドラマ」の物語。
伊咲が重い心臓の病気を抱えているという「難病もの」の物語。
そんなあれこれの中で、丸太と伊咲が距離を縮めていく「恋愛もの」の物語。
非常にたくさんの要素があって、それが若干パラパラと、無造作に散りばめられているように見えてしまう。
そこは今も完結していない長期連載漫画ならではの欠点かもしれないな…とは思います。
なおかつ、かなり駆け足にも見えて。丸太と伊咲があっという間に接近していくのはやや安易に感じるし、協力してくれる仲間がいともスムーズに集まるのも。
特に気になったのは、タイトルにもなっている「インソムニア」が途中からどこかに行ってしまうこと。
夜に眠れなくて、昼間に眠る場所を求めて天文台に来たはずなのに、天文部の活動が楽しくなってくると、もう「眠い」という要素はすっかり忘れられています。
昼間もすごく楽しそうに、ずっと活動してる。それで夜も寝てないなら、普通もっとやつれていくよね…。
それなら不眠症は「いつの間にか治った」でいいと思うのだけど、そういうわけでもなさそうなので。
たぶんその辺り、漫画という形式で読んでいれば、そんなに気にならないんじゃないかな…という気がします。(未読なので想像ですが)
何巻にも渡る漫画と、2時間以内で完結する映画では、本来ストーリーのまとめかたも違うはずなので。
映画サイズに落とし込むためにもっと大きくアレンジすれば、ノイズは減ったのだと思うけど。でもそうなると原作ファンは不満だろうし、そこは難しいところですね。
③背景ある元気少女の説得力と魅力
と、先にちょっと気になるところを書いてしまいましたが。
そんなノイズを補って余りある、大きな魅力に満ちた映画だと思います。
伊咲を演じる、森七菜が素晴らしい。
夏の少女を体現する、見事な躍動感。
あ〜こんな青春過ごしたかったなあ…と、ありもしない過去に思いを馳せてしまうような。
オーバーオール着て表情豊かに跳ね回る伊吹は、若干やりすぎ感というか、わざとらしさのようなものも感じるのだけど。
でもそれ、むしろ伏線なんですよね。体に重いハンデを抱えていて、いつどうなるか分からないという不安を抱えているからこその、その反動としての元気さ。
彼女が元気で躍動的であることが、切なさにもつながっていくという。
多少漫画的な「元気少女」にしっかりバックボーンを与えていて、より感情移入度を増しています。
④大人になる前の恋愛という刹那の美しさ
そして、奥平大兼が演じる丸太の、いかにもこの年齢の男の子っぽいムードの佇まい。
最初、鬱屈としていて、暗い。なんか子供っぽく拗ねていて、人と話す時に目を合わせない。
それが伊吹との出会いと、目標の獲得を経て、どんどん変わっていく。
この年齢の子の特有の「可塑性」を、いかにも自然に見せてくれます。
高校一年生という設定をしっかり反映して、大人に見えてしまわないのが素晴らしいと思いました。
ちゃんと、年齢相応の子供に見える。子供ならではの未熟さや反発、正義感だったり、それが空回りしてしまうもどかしさだったり。
子供ならではの傷つき方だったり。そこは、とても丁寧に描かれていたと思います。
子供として描かれているから、男女の物語なんだけど、恋愛要素はかなり希薄で。
むしろ、同じ気持ちを分かち合う同志という繋がり方で、それがむしろ羨ましく感じてしまいます。
この二人が互いに「好きだ」と伝え合うニュアンスは、もうちょっと時間が経って大人になってしまったら変わってしまう、一生の中でこの時だけのものなんですよね。
そんな奇跡的な「瞬間」を捉えているという点で、本作は優れた「青春映画」だと思います。
原作漫画版。
アニメ版もあります。
奥平大兼出演作。映画の評価は辛めだけど彼はとても良かったです。
近作でグッとくる夏の青春映画その1。
その2。