Scarface(1983 アメリカ)

監督:ブライアン・デ・パルマ

脚本:オリバー・ストーン

製作:マーティン・ブレグマン

製作総指揮:ルイス・A・ストローラー

撮影:ジョン・A・アロンゾ

編集:デイヴィッド・レイ、ジェリー・グリーンバーグ

音楽:ジョルジオ・モロダー

出演:アル・パチーノ、ミシェル・ファイファー、スティーヴン・バウアー、メアリー・エリザベス・マストラントニオ、ロバート・ロッジア、F・マーリー・エイブラハム、ポール・シェナー

 

①洗礼!だった映画体験

立て続けに80年代の映画を紹介していますが。これも懐かしい…ですね。

日本公開は1984年。公開当時、僕は中学生でした。この前後には、「トワイライトゾーン」とか「プロジェクトA」とか「さよならジュピター」とか「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」とか「超時空要塞マクロス」とか「スーパーガール」とか、そういう中学生らしい映画ばっかり観ていたんだけど、どういうわけか友人と観に行ってるんですね、「スカーフェイス」

中学生が観ても、そりゃもう面白い映画でしたよ。

乱暴で悪趣味で残酷で偏屈でヤク中で、もうロクでもない奴が主人公で、そいつが成り上がって成金になって調子に乗って自滅して没落する、言ってしまえば自業自得のどうしようもないクズのストーリーなんだけど。

そんな社会的も道徳的にもどうにもダメな奴の話が、こんなにも面白く観られる。それが面白い映画というものなんだ…という、そんな発見をさせてくれた映画だったと思うのです。

 

映画の面白さっていうのは、主人公が善人であるとか、行動が理にかなっているとか、正義のために戦うとか、そういうことじゃないんだ…ということ。

それまで思っていた映画というものの枠が、何倍にも大きく広がる。そんな経験となった映画体験でしたね。今にして思えば。

 

ついでに今にして思えば、1984年、なかなか濃厚な年ですね…。

「うる星やつら2ビューティフル・ドリーマー」「風の谷のナウシカ」「フットルース」「ライトスタッフ」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」「ポリスアカデミー」「ゴーストバスターズ」「グレムリン」「クリスティーン」「ゴジラ」「スパルタンX」もこの年。

「麻雀放浪記」「瀬戸内少年野球団」「パンツの穴」もこの年ですね。

なんかすごい楽しそう。タイムスリップして映画館に通いたい。

 

②過剰なイケイケ描写の圧倒的魅力

本作はハワード・ホークス「暗黒街の顔役」のリメイクという名目なんだけど、ほとんど原型をとどめない。テイストもまったく違うものになってますね。

禁酒法時代のアル・カポネの物語から、1980年代のキューバ難民のギャングがコカイン取引で成り上がる物語へ。

夜のシカゴの暗黒街から、陽光溢れるマイアミの真っ昼間へ。

 

本作の前半は、欲望をむき出しにギラギラさせたトニー・モンタナが、ガツガツとのし上がっていくサクセス・ストーリー。

その一つ一つが、過剰なんですよね。一個一個やり過ぎ。

取り引きに来てみたらいきなりチェーンソーで切り刻まれ、スプラッタ状況になってしまう。やり過ぎですよね。トニーも狂ってるけど、その周囲の奴らも大抵狂ってる。

この辺の過剰なイケイケ描写は、タランティーノや北野武の映画に確実に影響を与えてますね。

 

難民キャンプの皿洗いから、おのれの度胸と根性のみでのし上がり、やがて莫大な富と、ボスの女を手に入れていく。

欲望に正直で、まったくてらいがない。もう気持ちがいいほどに。

トニーがいよいよすべてを手に入れて、夜空の飛行船に"The World Is Yours"の文字が光る。本当に心から、トニーと一緒に成功の気持ち良さに酔うことができます。

 

昇りつめたら、後は当然、落ちるだけ。

これまた絵に描いたように、成功に溺れるトニーはやがて疑心暗鬼に陥り、古くからの仲間すら信じられなくなり、裏目裏目を引いていって、成功の座から転げ落ちていくことになります。

そして、どんどん孤独になっていく。

ある種、ステレオタイプではありますけどね。ここも本当にてらいなく、栄光と没落の定石に沿って進んでいくので、いっそ気持ちがいいんですよね。

③極端な物語が描き出す、普遍的な「人生」

本当に素晴らしいなと思うのは、「人生」を描いちゃってるんですよね、この映画は。

トニー・モンタナという狂犬みたいな極めて特殊な人の「人生」ではあるんだけど。

でも、トニーがいかに特殊でも、そこにはしっかりと普遍的なものがある。

 

自分の「夢」と「野望」に向かって、懸命に突き進んでいく前半。

トニーの「夢」と「野望」はそりゃギトギト脂ぎったもので、その手段は血と脳漿にまみれているんだけど、でもそこで描かれているのはやっぱり普遍的な、「欲しいものを手にいれるために努力する人生」なんですよ。

普通の人はもっと欲望が薄いし、「そこまでして手に入れなくても…」とか思っちゃいはするんだけど。

でも、そこに向かう心の動きは、誰も共感できないものではないはずで。

むしろ、トニーという極端なキャラで数十倍濃縮で見せてくれるので、人生のある種の濃縮還元みたいになってる。

頑張って頑張って、遂に欲しいものを手に入れた時にはそれはやっぱり本当に嬉しくて、世界が晴れやかに、素晴らしいものに見えたりする。

 

でも、そのピークを超えて、目標を見失って、あれほど欲しがって手に入れたはずのものが、手に入れてみると急に色あせて見えたりして。

あれ?ってなるんですね。あんなに欲しかったのに。なんで今、俺はこんなにつまらないんだろう?

夢を持って突き進んで、そしてそれを自分なりに達成することにつきまとう、どうしようもない虚しさ。

それもまた、人生というものの、避けられない特性だったりするのだと思うのです。

 

それでも、トニーはめげない、諦めない。

自分の運命に屈服することは、絶対にしない。どんなにヘタを打っても、何もかもを失っても、手に入れたものを全部自分で壊してしまっても、それでもファック!言って唾吐きながら、機関銃を構えて立ち続ける。

その姿はやっぱりカッコいいし、感動するんですよね。たとえ無様に殺されるとしても。

人生が過酷でも、時に虚しくても、それでも諦めないこと。それは普遍的なことだから。

④この時期だけの、作り手たちの濃厚な個性

その上で、本作の魅力はやはり作り手の個性が濃厚であること。

ストーリー自体は割とありがちでも、この時期の、この作り手にしか出せない味。それがこってり濃い口味なんですよね。

 

ブライアン・デ・パルマの、ケレン味あふれる演出。

「殺しのドレス」(1980)「ミッドナイトクロス」(1981)ときての、「スカーフェイス」ですね。まさに乗りに乗ってる。

スリラー/サスペンス映画への趣味を全開にしつつ、過剰でドギツイ暴力描写で原典を蹴っ飛ばし、カルト的な偏愛を刺激する作風が、いちばんいい具合に発揮されてた頃じゃないでしょうか。

いい塩梅のB級感。これが悪い方に転ぶと、底抜け大作みたいなことになっちゃうんだけど、本作では80年代という時代性とも相まって、いい感じになってると思います。

 

オリバー・ストーンの脚本。

「プラトーン」(1986)でヒット監督に躍り出る前、ですね。

後年は何かと政治的な問題作を連発することになる彼ですが、「ナチュラル・ボーン・キラーズ」(1994)あたりに通じるB級感あふれるやりすぎスリラー映画の人でもあって。

そっち方面の持ち味がうまいこと出ていて、でも重厚感もあって。この辺りから、タランティーノにもつながっていく

 

ジョルジオ・モロダーの音楽。

これはまさに80年代ならでは、ですね。ピコピコ軽いシンセサイザーの音楽なんだけど、本作では見事にマッチしてる。ヤシの木と原色とアロハシャツのマイアミにぴったり合ってます。

 

そして、アル・パチーノ

ギャングの役が多いパチーノだけど、本作を観てても、「ゴッドファーザー」のマイケル・コルレオーネを思い出すことは一切ないんですよね。他の映画のキャラを思い出さない。それだけ個性的で、役になりきってる。

 

この時期のこの作り手たちの、いちばんいい味が結集した作品だと思います。

たぶん今リメイクしても、同じ味は出せないでしょうね。