The Nun(2018 アメリカ)
監督:コリン・ハーディ
製作:ピーター・サフラン
原案/製作:ジェイムズ・ワン
原案/脚本/製作総指揮:ゲイリー・ドーベルマン
撮影:マキシム・アレクサンドル
美術:ジェニファー・スペンス
音楽:アベル・コジェニオウスキ
出演:デミアン・ビチル、タイッサ・ファーミガ、ジョナ・ブロケ、ボニー・アーロンズ、イングリッド・ビス、シャーロット・ホープ
①ここから見始めても問題のないシリーズ構成
「死霊館」シリーズの第5作。とは言え、このシリーズは時間軸が錯綜していて、
1:1971年、ロードアイランド州ハリスヴィルの幽霊屋敷事件を調査するウォーレン夫妻を描いた「死霊館」(2013)
2:「死霊館」の冒頭で語られた、呪いの人形アナベルの来歴となる1967年の出来事を描いた「アナベル 死霊館の人形」(2014)
3:1977年、ロンドンのポルターガイスト事件を調査するウォーレン夫妻を描いた「死霊館 エンフィールド事件」(2016)
4:1957年、呪いの人形アナベルの誕生を描く「アナベル 死霊人形の誕生」(2017)
そして、
5:死霊館の事件やアナベルの事件の影に存在し、「エンフィールド事件」で姿を見せた尼僧の姿の悪魔ヴァラクの来歴を、1952年のルーマニアを舞台に描く「死霊館のシスター」(2018)
が本作となります。
作品中の時系列としては、5→4→2→1→3となります。
つまり、最新作である本作が、時間軸としてはいちばん古い。もっとも前に位置する作品ということになります。
シリーズ構成はややこしいのですが、特に前作の知識は必要ない。
ウォーレン夫妻が登場するプロローグやエピローグは前作を知ってる方が楽しめますが、特に知らなくても理解できないことはないし、それ以外の箇所では別段つながりは多くないです。
前日譚なので、登場人物や設定はリセットされているから、初見でも見やすいんですね。この辺り、続編を重ねるほど予備知識が膨大になって、初見殺しになってしまう「ユニバース」系映画の問題をうまくクリアしていると思います。
②王道のゴシックホラー
上記のように、本作の焦点は悪魔ヴァラク。
不気味な尼僧姿をしたマリリン・マンソン似の悪魔が、どのようにしてこの世界に現れたのか、どうして尼僧の姿をしているのか…が語られます。
舞台はルーマニア。森の奥にそびえる、不気味な古い修道院で、すべての物語は展開します。
ドラキュラ伝説に彩られる、東ヨーロッパの暗い森。
古城のような重厚な修道院。
修道院を取り囲む墓地、立ち並ぶいくつもの十字架。
迷信深い村から、馬車に乗って森を抜け、不吉な噂に満ちた修道院を訪ねて行く…。
あらゆる面で、古風なゴシック・ホラーの様式を織り込んだ作品になっています。
この映画、実際にルーマニアでロケを行っています。修道院も、コルビン城、ベトレン城、モゴショアヤ要塞という、中世に建てられた3つの建物を使って撮影が行われています。
だから、意外と臨場感がある。セット撮影のチャチさがなくて、結構重厚なリアリティが構築されています。
ほとんどのシーンが修道院の中で展開する映画なので、その舞台そのもののリアリティは重要です。本作では手間をかけたロケが功を奏していて、画面の迫力でとりあえずは白けさせずに、恐怖へと誘うことができています。
廊下の奥の闇…扉を開けた先に淀む、闇。
闇の深さが、濃厚なんですね。作り物ではない、本物の闇。
現代の都市を舞台にしたこれまでのシリーズとは一味違う、闇の深さが修道院の地下に潜む悪魔の存在感を高めています。
ショックシーンは基本的には、その闇の中から怖い顔のヴァラクがばあっと顔を出す、「いないいないばあ」式の脅かし。その繰り返しではあるんだけど。
でも、舞台設定に手抜きがないのでね。気持ちよく、その脅かしに乗っかっていくことができると思います。
③王道のオカルト映画
修道院で修道女が自殺するという、教義的にあってはならないスキャンダル。
それを調査するために、バチカンからバーク神父が派遣されます。
神父に帯同するアイリーンも見習いとはいえ聖職者。神に仕える者たちが、悪魔の巣食う修道院に挑んでいくことになります。
…と、この映画ではキリスト教という宗教の要素が前面に出ています。これまでのシリーズでも、聖職者による悪魔払いの儀式などは描かれていましたが、主人公が聖職者で、完全に宗教の文法で語られていくのは初めてです。
そういう意味で、本作は極めて王道のオカルト映画。キリスト教の思想を背景に、聖職者を代理人として神と悪魔の闘争を描く、「エクソシスト」式の本格的オカルト映画になっていると言えます。
逆さになる十字架、首が落ちるキリスト像など、禍々しいサインもいろいろ。
最後の戦いのキーになるアイテムも、聖遺物、キリストの血。その実在がもっともらしく語られるのも、オカルトの醍醐味ですね。
舞台となる修道院が男子禁制であり、アイリーンのみが中に入るのを許されます。夕方から始まって、朝まで続く祈り。
現世と隔絶された世界だから、そこで何が起こっていても不思議でないように思えます。常識自体が外部と異なっている、現実世界と違う時間が流れる場所の面白みがあるんですね。
そしてさらに、そこが幽霊屋敷でもあるということ。
ゴシックホラー、オカルト、そしてゴーストストーリー。いくつもの、古き良きクラシックなホラー要素が融合されています。
④ユルい部分もいろいろ
いろいろと、ユルい部分もあります。
バーク神父は結構不用意で、オカルト方面に経験を積んだ人物には見えないですね。
過去のトラウマがあるとは言え、既に死んでいるとわかってるはずの人物を見てふらふらとついて行って、案の定罠にはまる。しかもそのパターンを何度も繰り返す。
案内役となるフレンチーはところどころでコメディ的な役回りになるが、かと言ってはっきりコメディリリーフというわけでもなく、またアイリーンの相手役的なヒーローというわけでもない。なんだか中途半端な役回りです。
そしてアイリーン。ただの修道女見習いの少女だったはずが、明らかに異常なことが起こっていてもほとんど恐れずズンズン立ち向かう。やたら強くって、いつの間にそんなに強くなったの?と思わされます。
そして、登場人物が基本この3人しかいないので、ヴァラクの攻撃を受けても殺されない、逃げ延びちゃう。最初は怖いんだけど、それが繰り返されるとだんだん怖さが下がって行ってしまいます。
ヴァラクは死霊館シリーズに共通する大黒幕なんだから、最強の悪魔であるはず。それこそ、「見てしまったら即死」レベルの凶悪な存在であるはず…なんだけど、アイリーンたち3人が何度遭遇しても殺されず、互角に渡り合ってしまうのを見せられると、どんどん株が下がっていく。
まあ、もちろん、主役の3人がヴァラクに会うなり死んでたらお話にならないので、仕方がないんだけど。
この辺、「IT/イット それが見えたら終わり」にも共通するところでしたね。物語の都合上、主要人物たちは死なないので、敵の攻撃が何度も繰り返されるほど、こけおどしに見えてきちゃうんですね…。
「死霊館 エンフィールド事件」で大いに高まっていたヴァラクの恐怖、神秘性は、本作でだいぶ薄れてしまったように思います。
あと、不満点としては、ヴァラクの誕生を描く…と言いながら、はっきり描いてはいないですよね。
過去のシーンで「狂った公爵が悪魔を召喚した」ということは描かれるんだけど、ヴァラクが現在の尼僧の姿になった顛末は描いていない。
当時の修道院にいた尼僧の一人に取り憑いた…ということなんだろうけど。でもそこは本作では描かれていないです。
たぶん、続編があるとしたらそこになるんじゃないですかね。常に遡っていくのが本シリーズの流儀なので。
⑤古典的ホラーのハッタリを楽しもう!
…というわけで、いろいろと粗の多い作品ではあります。
でも、「死霊館」シリーズを離れて見れば、1本の新しいモンスター映画として見れば、そこそこバランス良くまとまった作品と言えるんじゃないでしょうか。
アイリーンが強すぎる…感はあるんだけど、でもモンスター映画のヒロインとしては、悪魔に負けない強い少女は魅力的。男たちがモゴモゴやってる一方で、堂々と悪魔に対峙していく様は見ていて気持ちがいいです。
様々なホラーシーンも、ルーマニアの修道院というロケーションを上手く活かして、これまでの「死霊館」シリーズとは違うホラーシーンを工夫して作っていたと思います。
だから、「死霊館」シリーズらしさ…実録モノのいかがわしさとか、心霊フイルム的な現実感とか、そういったものを求めちゃうと、ちょっとがっかりしちゃうのは否めない。
そうではなくて、本作はやっぱり古典的なゴシックホラー、ドラキュラや古城の幽霊モノを思わせるような、クラシックなモンスター映画。
そのハッタリを楽しむつもりで臨めば、きっと楽しめるんじゃないでしょうか。