【夏組】チョコレート争奪戦!②
「…と、いうわけなの」
天文科の教室で、夜久は困ったようにため息をついた。
「また変なことを…。で、どうするつもりなんだ?」
東月が呆れたように言うと、夜久はすがるように東月の裾をつかんだ。
「だから、美味しいチョコが売ってるお店とか…錫也なら知らないかなって」
「買うの!?」
東月が心底意外そうに返す。
「え、変かな?私、料理苦手だし…私の手作りじゃ景品として見劣りするっていうか…」
モゴモゴと尻すぼみしていく夜久の言葉を聞きながら、東月は弓道部の面子に心から同情した。
「…たぶん、それじゃ大会は開催されないと思うよ」
「なんで!?」
「皆は美味しいチョコじゃなくて、バレンタインのチョコが欲しいんだろ?美味しいのが食べたいだけなら、宮地くんに聞けばいい」
「そ…そっか」
完全にスイーツ男子と認識されている宮地に聞けば確実だと、妙に納得して頷き合う。
「…しょうがないな。俺も哉太とお前用に作るつもりだったし、一緒にやるなら教えてやるよ」
ため息をついた東月の申し出に、夜久は目を輝かせる。
「いいのっ!?」
「ただしお前が作るんだぞ。俺は弓道部に義理はないし。あと、味見役は俺だからな」
「うん!ありがとう、錫也!」
東月の思惑には気づきもしないで大きく頷き、笑顔を見せる。
「じゃ、今日から特訓だな。部活終わる頃、迎えに行ってやるよ。食堂のキッチンも借りとく」
「…お世話になります…」
東月は微笑んで、下げられた夜久の頭を撫でる。
「俺は味見っていう特権がもらえるからいいよ」
「えー、欲しいなら錫也の分も作るよ?」
「いや、それはいいよ」
夜久の料理音痴をよく理解している東月は、一番賢明な方法で夜久を独占する権利を確保して、満足そうに微笑むのだった。
「よし、今日はここまで!各自後片付けに入れ!」
宮地の力強い声が道場に響く。
「お疲れ様でしたっ!」
部員が揃って号令し、構えていた弓を下ろし、緊張した空気が解けていく。
「月子!終わったのか?」
そして今日も、東月が狙いすましたように現れる。
「錫也!うん、今終わったとこ。片付けと着替えあるから、先行ってていいよ?」
「いや、待ってるよ。もう外は暗いしな」
「ほんと錫也は心配性だね」
片付けを済ませ、東月と親しげに道場を去る夜久を見て、白鳥が怒りを露にする。
「なんだよ東月の奴!ここんとこ連続じゃねぇか!」
「あれ?白鳥先輩怒ってるんですか?」
「木ノ瀬は怒ってないのかよ?」
「えぇ。だって、料理上手な東月先輩と、バレンタイン前に何かしている…。期待こそすれ怒る理由がありませんね」
白鳥もようやく理解したように手を叩く。
「そう、か…!夜久、俺たちのために頑張ってくれてるんだな…!」
急に機嫌がよくなった白鳥を見て、木ノ瀬が呆れたように微笑み、小声で呟く。
「まぁ、妬けはしますけどね…。待っててくださいよ、必ず僕が射止めますから…」
「ん?何か言ったか?」
「…いえ!じゃあ僕は、優勝するために居残り練習でもしますかね」
天才型の木ノ瀬にはあり得ない発言に、道場は騒然とする。
「本気だ…!」
「やべぇ、木ノ瀬は本気だぞ…!」
犬飼と白鳥がビビって立ちすくむなか、小熊が恐る恐る木ノ瀬のもとに歩み寄る。
「あの!木ノ瀬くん!」
木ノ瀬は黙って振り向く。
「ぼ、僕もご一緒していいですか!?その…居残り練習…」
木ノ瀬は少し驚いたように小熊を見つめ、微笑んで視線を前に戻す。
「別に、いいんじゃないの?」
「ありがとうございます!」
一年二人が再び準備を始め、犬飼たちはたじろぐ。
「おい…小熊まで居残るみたいだぞ…」
「宮地は…!?」
二人が視線をやると、部長は当然のように袴のままで、自身の弓を手入れしていた。
「だよなぁ…」
「だけど俺らもう着替えちまったし…」
「あぁ…それに同じように残るんじゃ意味ねーよな!」
二人は解りあったように腕を組み、頷き合う。
「俺たちは作戦会議してくるぜ…!」
そして後ろを振り返ることなく道場を去っていった。
小熊がその様子を心配そうに見つめる。
「作戦会議って…また良からぬこと考えてなきゃいいんですけど…」
「そんなことより、優勝目指して特訓したいんじゃないの?」
木ノ瀬に言われ、少し照れたように頭をかく。
「あはは…そりゃあ夜久先輩からチョコ貰えたら嬉しいけど…木ノ瀬くんたちには敵わないし。それより僕は、皆さんと真剣勝負出来るのが、嬉しい。この一年、僕がどれだけ成長できたのか…」
握る手に少しだけ、力を込める。
「ふーん…まぁ、頑張ってね。とりあえず、もうちょっと自信をもって的前に立つことだね」
木ノ瀬が少しだけ嬉しそうな顔で、小熊の背中を軽く叩く。小熊は舞い上がりそうなくらい嬉しくなって、思わず叫んだ。
「ありがとう!木ノ瀬くん!僕、頑張ります!」
不敵に微笑んで、自分の弓を手に取る木ノ瀬。張り切って弓を構える小熊。一部始終を遠目に眺める宮地。
食堂で景品作りにいそしむ夜久。
図書館で勉強している金久保。
そして何やら不穏な動きを始めるバカ2人…。
たくさんの思惑を乗せて、いよいよ14日は目前…。
天文科の教室で、夜久は困ったようにため息をついた。
「また変なことを…。で、どうするつもりなんだ?」
東月が呆れたように言うと、夜久はすがるように東月の裾をつかんだ。
「だから、美味しいチョコが売ってるお店とか…錫也なら知らないかなって」
「買うの!?」
東月が心底意外そうに返す。
「え、変かな?私、料理苦手だし…私の手作りじゃ景品として見劣りするっていうか…」
モゴモゴと尻すぼみしていく夜久の言葉を聞きながら、東月は弓道部の面子に心から同情した。
「…たぶん、それじゃ大会は開催されないと思うよ」
「なんで!?」
「皆は美味しいチョコじゃなくて、バレンタインのチョコが欲しいんだろ?美味しいのが食べたいだけなら、宮地くんに聞けばいい」
「そ…そっか」
完全にスイーツ男子と認識されている宮地に聞けば確実だと、妙に納得して頷き合う。
「…しょうがないな。俺も哉太とお前用に作るつもりだったし、一緒にやるなら教えてやるよ」
ため息をついた東月の申し出に、夜久は目を輝かせる。
「いいのっ!?」
「ただしお前が作るんだぞ。俺は弓道部に義理はないし。あと、味見役は俺だからな」
「うん!ありがとう、錫也!」
東月の思惑には気づきもしないで大きく頷き、笑顔を見せる。
「じゃ、今日から特訓だな。部活終わる頃、迎えに行ってやるよ。食堂のキッチンも借りとく」
「…お世話になります…」
東月は微笑んで、下げられた夜久の頭を撫でる。
「俺は味見っていう特権がもらえるからいいよ」
「えー、欲しいなら錫也の分も作るよ?」
「いや、それはいいよ」
夜久の料理音痴をよく理解している東月は、一番賢明な方法で夜久を独占する権利を確保して、満足そうに微笑むのだった。
「よし、今日はここまで!各自後片付けに入れ!」
宮地の力強い声が道場に響く。
「お疲れ様でしたっ!」
部員が揃って号令し、構えていた弓を下ろし、緊張した空気が解けていく。
「月子!終わったのか?」
そして今日も、東月が狙いすましたように現れる。
「錫也!うん、今終わったとこ。片付けと着替えあるから、先行ってていいよ?」
「いや、待ってるよ。もう外は暗いしな」
「ほんと錫也は心配性だね」
片付けを済ませ、東月と親しげに道場を去る夜久を見て、白鳥が怒りを露にする。
「なんだよ東月の奴!ここんとこ連続じゃねぇか!」
「あれ?白鳥先輩怒ってるんですか?」
「木ノ瀬は怒ってないのかよ?」
「えぇ。だって、料理上手な東月先輩と、バレンタイン前に何かしている…。期待こそすれ怒る理由がありませんね」
白鳥もようやく理解したように手を叩く。
「そう、か…!夜久、俺たちのために頑張ってくれてるんだな…!」
急に機嫌がよくなった白鳥を見て、木ノ瀬が呆れたように微笑み、小声で呟く。
「まぁ、妬けはしますけどね…。待っててくださいよ、必ず僕が射止めますから…」
「ん?何か言ったか?」
「…いえ!じゃあ僕は、優勝するために居残り練習でもしますかね」
天才型の木ノ瀬にはあり得ない発言に、道場は騒然とする。
「本気だ…!」
「やべぇ、木ノ瀬は本気だぞ…!」
犬飼と白鳥がビビって立ちすくむなか、小熊が恐る恐る木ノ瀬のもとに歩み寄る。
「あの!木ノ瀬くん!」
木ノ瀬は黙って振り向く。
「ぼ、僕もご一緒していいですか!?その…居残り練習…」
木ノ瀬は少し驚いたように小熊を見つめ、微笑んで視線を前に戻す。
「別に、いいんじゃないの?」
「ありがとうございます!」
一年二人が再び準備を始め、犬飼たちはたじろぐ。
「おい…小熊まで居残るみたいだぞ…」
「宮地は…!?」
二人が視線をやると、部長は当然のように袴のままで、自身の弓を手入れしていた。
「だよなぁ…」
「だけど俺らもう着替えちまったし…」
「あぁ…それに同じように残るんじゃ意味ねーよな!」
二人は解りあったように腕を組み、頷き合う。
「俺たちは作戦会議してくるぜ…!」
そして後ろを振り返ることなく道場を去っていった。
小熊がその様子を心配そうに見つめる。
「作戦会議って…また良からぬこと考えてなきゃいいんですけど…」
「そんなことより、優勝目指して特訓したいんじゃないの?」
木ノ瀬に言われ、少し照れたように頭をかく。
「あはは…そりゃあ夜久先輩からチョコ貰えたら嬉しいけど…木ノ瀬くんたちには敵わないし。それより僕は、皆さんと真剣勝負出来るのが、嬉しい。この一年、僕がどれだけ成長できたのか…」
握る手に少しだけ、力を込める。
「ふーん…まぁ、頑張ってね。とりあえず、もうちょっと自信をもって的前に立つことだね」
木ノ瀬が少しだけ嬉しそうな顔で、小熊の背中を軽く叩く。小熊は舞い上がりそうなくらい嬉しくなって、思わず叫んだ。
「ありがとう!木ノ瀬くん!僕、頑張ります!」
不敵に微笑んで、自分の弓を手に取る木ノ瀬。張り切って弓を構える小熊。一部始終を遠目に眺める宮地。
食堂で景品作りにいそしむ夜久。
図書館で勉強している金久保。
そして何やら不穏な動きを始めるバカ2人…。
たくさんの思惑を乗せて、いよいよ14日は目前…。