俺が一番楽しく生き生きとしていた時期がある。2004年だ。高校を卒業して、大学進学のために東京で一人暮らしを始めた。俺の住んでいた町は東京の中心ではなかったが、地元に比べれば別世界もいいところだった。中央道が走り、最寄り駅の近くには、日本有数の競馬場がある町。人は本当に忙しそうに歩いているし、人が多くいる。そんな町が大好きだった。
大学生。授業、バイトの時間を差し引いても多くの時間があった。自分の好きなことをやって、拘束されることが少ない空間。本当に毎日が楽しかった。高校卒業後の3月には、ずっと気になっていた人に告白して、彼女もできた。もっとも彼女は長野の短大に進学したので、会えるのは月に1回。それもバイトを3個も4個も掛け持ちし、バンドでドラムをたたく娘で、まったく会えなかった。それでも、性格が強く、かわいかった彼女に俺はぞっこんで、彼女も「私のことを理解してくれるところが好き」と言ってくれたので、何も問題は無かった。メールも毎日して楽しかった。友人に「つらくないの?」「俺なら浮気しちゃう」なんて言われたが、なんとも思わなかった。本当に大好きで尊敬していた。もちろん浮気なんてしていない。
そんな生活が続き、付き合って丸2年が経とうとした冬につらいことが起こった。今思えばあの頃から、人間というものに疑問を持ち、距離を置いて接してしまうようになったのかもしれない。その日は、毎日していたメールが来なかった。「バイトで忙しいんだろう」などと思い、こちらから連絡することは無かった。翌日彼女から電話がかかってきた。彼女は泣いていた。聞くと、女性として最悪のことをされたというのだ。俺はそのときに何もできなかった。慰めるべきかどうかもわからなかった。「彼女を苦しめた奴を殺したい」、そう思うばかりだった。ショックを受け、俺には当分会えないと告げられた。俺はとにかく、彼女を助けたい、何ができるだろう、そのようなことばかり考える毎日だった。「どうしてあいつがこんな目に」「神様がいたらぶん殴ってやりたい」そう思った。
それから1ヶ月。彼女と地元で会った。俺は彼女が悪いなんて少しも思わなかったし、これからも変わらないと告げた。彼女は泣いて「うん」と言ってくれた。「彼女をとんでもない目に遭わせてしまった」「俺は何も守れなかった」。のん気に東京で暮らしている自分が憎たらしかった。でもこれからは何が何でも守りたいと思った。
そして彼女は就職。地元の小学校で養護教諭になった。俺は引き続き、大学生活。そんな中、なんとなく彼女との交際に違和感が生まれた。そして付き合って3年目の7月、彼女に言われた言葉が「人として好きだけど、彼氏としては好きじゃない」だった。俺たちは別れた。もちろん彼女が大好きだったので、考え直してもらいたかったが、彼女の意思は固かったし、一度言ったことを曲げるような人ではなかった。別れは俺から告げた。彼女の心には俺はもういなかったと感じたし、最後の最後まで彼女に好かれようとしていた俺だったからだ。
俺は落ち込んだ。初めてというくらい大泣きした。その頃は、俺の弟が進学のために上京していたので、中央線沿線のアパートに二人暮らしをしていた。弟に泣いている顔を見られたくなかったので、自分の部屋の布団にもぐりこんで出なかった。翌日の心理学のテストも欠席した。