Miroslav Vitous/Jan Garbarek『Atmos』 | ハシケンブログ

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Miroslav Vitous/Jan Garbarek『Atmos』

テクニックとは罪なもので磨けば磨くほどピュアさが失われてしまうものではないのでしょうか。
こと音楽においてはその傾向が強いように思う。
テクニックが聴き手に与える衝撃は"サプライズ"であっても"感動"ではないだろう。 


今回ご紹介するのは、技工派ジャズベーシストであるミロスラフ・ヴイトゥスとサックス界の吟遊詩人ヤン・ガルバレクとのデュオアルバム。
主体となってるのは明らかにヴイトゥスで、ガルバレクが抜けた曲もいくつか。
どちらも紛れもない一流の音楽家でありながら、テクニックに溺れることなく、純度の高い音楽を実現している貴重なデュオ。

ヴイトゥスと言えば初期ウェザーや『Infinite Search』のようなミステリアスでヒリヒリとしたジャズを演っているイメージで、ガルバレクと言えばキース・ジャレットのヨーロピアンカルテットの流麗なイメージがあったため、この2人の共演と聞いても今ひとつ腑に落ちないところがあった。


間を重んじた2人の対話は低温でジワジワと熱せられているような感触。
基本的にはベースとサックスだけが空間を埋めるので音が鳴っていない時の静寂すらも楽しめる。
もちろん両者ともテクニックはありながら音数はそう多くなく、そのエゴが排されたような音選びは音楽自体の純度を高めている。

一口に「ベース」と言ってもヴイトゥスのそれは非常に音楽的であり、度々パーカッションのようにボディを叩いて鳴らし、それが効果的にデュオのマンネリ化を防いでいる。
驚くことに数曲ではモロにクラシック音楽からのサンプリング音を織り交ぜていて、デュオなのにド迫力なアンサンブルが刺激的。それもわざとらしくなく。

空間をたゆたうようなイメージ通りのガルバレクはもちろん、マイケル・ブレッカー並みにシリアスなブローをする瞬間もあり、彼の度量の広さを知れたことも新たな発見だった。


このデュオ、コード楽器がない中でドラマチックなのが凄いところ。
全体を通して物悲しく神秘的な対話であることは間違いないのだが、その中でもラストの「Hippukrene」が珠玉の出来。
茫洋としたメロディーの楽曲が多い中で、この演奏だけはストレートに美しいメロディーがたまらなく泣ける。
それまでのアンニュイな雰囲気を救済するような素晴らしい楽曲が最後に配置されている。

ジャケットのイメージカラーである翠色がこの2人の音を何より表している静かな名盤。


1992,2 (ECM)

Miroslav Vitous (ba)
Jan Garbarek (ts,ss)

1.Pegasos
2.Goddess
3.Forthcoming
4.Atmos
5.Time Out - Part Ⅰ
6.Direvision
7.Time Out - Part Ⅱ
8.Helikon
9.Hippukrene