これはまだハジメと郁子が結婚する前のお話。
ある週末の夜。
東京の実家に帰省していたハジメは郁子と食事をして、帰る途中だった。
「ねえ、ハジメくん今日の店どうだった?」
「うーん、安くて美味しかったけど、ちょっと量が足りなかったな」
「わたしもちょっと足りなかった」
「じゃあ、ラーメンでも食べていく?」
「いいねぇ。福岡まで飛んじゃお♪」
「え!今から?」
「私なら1分もかからないわ^^」
自信ありげに腕を曲げ逞しい二の腕を見せ付ける郁子。
「ハハ、さすがスーパーウーマン^^」
「あ、そうだ、友達から美味しい店を教えてもらったんだった」
「へぇ、じゃあそこ行ってみよ♪」
二人のが話が盛り上がり、交差点に差し掛かった時だった。
「ハジメくん、危ない!」
「おわっ!?」
話に夢中になっていたハジメは猛烈な力で後方に引き寄せられた。
キキーッ!!
それと同時にけたたましいブレーキ音が響き渡る。
軽トラが交差点に猛スピードで突っ込んできたのだ。
「おい!!あぶねーだろ!」
軽トラに乗ったオッサンが窓を開け二人を怒鳴りつける。
「ちょっと!そっちこそ危ないじゃないの!」
温和な郁子すかさず言い返した。
これにはハジメも驚きを隠せない。
「そもそも一時停止の標識があるじゃない!!」
一時停止の標識を指差す郁子。
「あ?標識?しらねーよ」
一方、運転手のオッサンは悪びれる様子も無く言い放った。
「コイツ、マジむかつく・・・」
郁子は怒気のこもった声でつぶやいた。
「ねえ、ハジメくん、ちょっとやっちゃっていい?」
「やっちゃうって、何を・・・?」
「見てれば分かるって♪」
郁子は軽トラの正面に立つと、おもむろにシャツのボタンを外す。
そして、両手で力強く胸をはだけた。
「なんだ、姉ちゃん?サービスでもしてくれるのか?ギャハハハ・・・」
それを見て下品に笑うオッサン。
が、しかし、郁子のの豊満な胸に輝く「S」のエンブレムを見て言葉を失った。
「ねえ、おじさん。喧嘩売る相手間違えたんじゃない?」
シャツを脱ぎ捨てると郁子は腰に手を当てると、真紅のマントをバサッと翻した。
愛らしい童顔に不釣合いな逞しい身体にぴったりとフィットしたブルーのボディスーツ。
今にも弾けそうなダイナマイトバストには「S」のエンブレムが力強く輝いている。
「スーパーウーマン・・・」
その神々しい姿に、ハジメは思わずつぶやいた。
そう、郁子は宇宙最強のスーパーウーマンなのだ。
「これが『一時停止』わかる?」
郁子、いやスーパーウーマンは道路わきの標識のポールを掴むと、アスファルトからずぼっと引っこ抜いた。
「ちゃんと守らないと、事故っちゃうよ、こんな風に・・・」
スーパーウーマン郁子はそう言いながら、頑丈な鉄製のポールをグニャグニャに折り曲げ、ただの鉄塊にしてしまった。
オッサンは、ただただ、唖然としている。
「あれー? 聞こえてないのかな?」
スーパーウーマン郁子はわざとらしくそう言うと、今度は運転席のドアの取っ手を掴む。
バリィッ!!!
「ひぃっ!?」
ドアを易々と引っぺがしたスーパーウーマン郁子。
オッサンが恐怖のあまり甲高い声で悲鳴を上げる。
「これで聞こえるよね?」
「ひぃぃ、き、き、き、聞こえてます!」
スーパーウーマン郁子のあまりの迫力に、強面のオッサンは運転席で震えている。
「おいおい、郁子、オジサン怖がってるじゃないか?」
さすがに哀れに思ったハジメが助け舟を出す。
「え~、そうかなぁ^^」
郁子はハジメの方へ振りかえると悪戯っぽく微笑む。
「交通違反者講習だよ、スーパーウーマン流のね^^」
「スパルタすぎだろ^^」
思わず苦笑いで突っ込むハジメ。
その時だった。
ドサクサに紛れて逃げてしまおうと、オッサンは軽トラのエンジンを掛けた。
ブルンブルンとエンジンが音を立て、オッサンはアクセルを思いっきり踏み込むが・・・
「あ、あれっ?」
しかし、軽トラはピクリとも動かなかった。
「な、な、何でだ!?」
オッサンは慌てて何度もアクセルを踏み込むがタイヤがギュルギュルと空転するだけで軽トラは一向に前に進まない
「あら、どこに行くの?」
スーパーウーマン郁子が軽トラのボディを右手で掴んでいた。
何と、アクセル全開で逃げ出そうとする軽トラを片手で押さえ込んでいたのだ。
「まだ講習は終わってないんだけど?」
「・・・え? え? ええっ!?うわぁ!!」
郁子はそのまま、軽トラを軽々と宙空高く持ち上げてしまう。
「ひぃぃっっ!!!」
遥か上空からエンジンとタイヤの空転する音に混じってオッサンの悲鳴が聞こえてくる。
「このまま、月まで放り投げちゃおうか?」
スーパーウーマン郁子は軽トラをバスケットボールのように指先でクルクル廻していた。
「た、た、た、助けてーー!!」
「それとも、このトラックぐちゃぐちゃに潰して、キーホルダーにでもしちゃおうかな?」
圧倒的なスーパーパワーを見せ付けながら、くすくすと笑うスーパーウーマン郁子
ポーンと宙高く放り投げたトラックを片手で器用に受け止める。
やがて男の悲鳴がやむと、郁子はようやく軽トラを地面に降ろした。
「おーい、オジサン生きてる?」
オッサンは、運転席で気絶していた。おまけに失禁までしている。
「あちゃー、ちょっとやりすぎたかな?」
郁子は苦笑いしながら頭をかいた。
「やりすぎたって、これでもかなり手加減したんだろ?」
「当たり前だよ、本気だったら、1秒でスクラップにしてるし^^」
郁子はかわいらしくペロっと舌を出した。
「さすがスーパーウーマン^^」
「あ、こんなところに停まってたら、邪魔だよね」
スーパーウーマン郁子は軽トラの横っ腹に蹴りを入れる。
軽トラは軽々と道路わきに吹っ飛んだ。
「やっぱ、歩くよりこっちのほうが安全だよね」
スーパーウーマン郁子はハジメを抱きしめると、ふわりと浮かび上がった。
「ハジメくん、飲みなおそうか?博多で」
「お、いいね^^」
「じゃあ、しっかりつかまっててね^^」
ビュン!!
こうして、スーパーウーマン郁子とハジメは哀れなオッサンを残し、南の空へ向かって飛び去っていった。