まだまだ寒さの残るある日曜日の昼下り。
「寒くないか?」
「ううん、平気だよ」
ハジメは娘と二人で近所の公園に散歩に来ていた。
「あ、ワンちゃんだ!」
子犬を見つけて3歳の娘が走り出す。
「お、おい、郁乃待ちなさい」
ハジメの娘、郁乃は鋼鉄の身体を持つスーパーガールだ。
子犬とはいえ、じゃれついて噛み付こうものなら、子犬の歯がへし折れてしまう。
「ワンちゃん♪ワンちゃん♪」
子犬にギュッと抱きついた郁乃。幸いにも大人しい子犬のようだ。
首輪をしているから飼い主も公園内にいるのであろう。
「パパ、ワンちゃんもいっしょに遊ぼうー」
「そうだな」
ハジメは公園の片隅に落ちているゴムボールを拾い上げた。
「いくぞー、えい!」
ハジメがボールを投げると、子犬が走り出す。
そして、口にボールを咥えて戻ってきた。
「よーし、いい子だ」
ハジメが頭を撫でると子犬は尻尾を振りながらワン!と答えた。
「郁乃もやるー!」
「周りに気をつけて投げろよ」
「はーい」
郁乃はハジメからゴムボールを受け取った。
「いくよー!えいっ!」
郁乃が投げると同時に子犬が走り出すが・・・
郁乃の手から放たれたボールは猛スピードで、冬空の遥か彼方に消えていった。
「こらこら、ちょっとは手加減しろよ」
「えー、手加減したもん」
子犬は振りかえると首を傾げた。
まるでボールはどこに行ったの?とでも言いたげだ。
「ごめんね、ワンちゃん・・・」
そんな子犬の頭を優しく撫でてあげる郁乃。
子犬はうれしそうに郁乃の頬をぺろりと舐めた。
その時―――
“ガシャーン!”
公園の外から大きな音がした。
見に行くと、公園前の通りで大きなトラックのタイヤが側溝にはまって動けなくなっていた。
「あちゃー、やらかしちゃったみたいだな・・・」
音を聴いた人たちが、トラックのところに集まってきて、なんとかタイヤを側溝から持ち上げようとしている。
しかし、大の男が5人、6人と集まっても巨大なトラックはびくともしない。
「配達がまだたくさんあるんです・・・」
運転手らしき男が涙目で狼狽している。
ハジメと郁乃はお互い顔を見合わせた。
「郁乃、あれ持ち上げられるか?」
「うん♪」
郁乃は頷くと、その場でくるりと回った。
白いワンピースががあっという間にかわいらしいスーパーガールのコスチュームに変わる。
「じゃあ、パパ行ってくるね^^」
「がんばれ、パパのかわいいスーパーガールさん^^」
スーパーリトルガールはマントを翻し飛び去っていった。
現場では、8人の男たちが必死でトラックを持ち上げようとしていたが、
依然としてタイヤは側溝にはまったままだった。
「いったん、荷物を全部取り出そうか」
「ロードサービスを呼ぼうか」
皆がそんな話をしていた時。
「もう、大丈夫よ」
かわいい声が響き渡った。
振りかえると、そこにいたのはブルーのコスチューム、深紅のブーツとミニスカートを身に纏った小さな女の子。
「わたしが出してあげるね^^」
スーパーリトルガール郁乃は腰に手を当て力強く言い放った。
「こらこら、お嬢ちゃん。大人をからかうもんじゃないよ」
呆れた表情の運転手。
スーパーリトルガールはそんな彼の横をすり抜けるとトラックの後方に立った。
「おじさんたち、ちょっと離れて・・・」
バンパーの下に両手を入れるスーパーリトルガール。
「よいしょ♪」
なんとも気の抜けた掛け声と共に、大人8人でも持ち上がらなかった大きなトラックが、3歳の女の子1人の力で簡単に持ち上がった。
「ここでいい?」
スーパーリトルガールは巨大な車体を左手一本でで支えたまま、右手で側溝横の車道を指差した。
「あ・・・あぁ・・・」
口をあんぐりと開けたまま頷く運転手。周囲の男たちも信じられないといった表情でお互いを見ていた。
スーパーリトルガールは車体を横にずらすと、トラックを車道に降ろした。ズシーンと大きな音が響き渡る。
「じゃあ、おじさん。運転気をつけてね^^」
女の子はそういい残しあっという間に姿を消した。
残された男たちはバンパーに残った小さな手形を見ながら呆然としていた。
「パパ~♪」
公園で待っていたハジメに駆け寄るスーパーリトルガール郁乃。
街路樹の後ろを通るとコスチュームが、白いワンピースに変わった。
「郁乃、怪我はないか?」
「うん、平気」
にこっと笑う郁乃。
「パパ、郁乃、いい子?」
「ああ、いい子、いい子^^」
ハジメは娘の頭を撫でてあげた。
郁乃はとてもうれしそうに笑った。
「パパ、だっこ~♪」
「ふう・・仕方ないな・・・」
ハジメは苦笑いして娘を抱きかかえる。
まだまだ甘えん坊のスーパーリトルガール郁乃だった。
おしまい
