これはチャット仲間の須賀ハジメさん投稿された義母さんの物語です。
とある冬の休日、須賀家の玄関先にて―――
出勤するハジメを玄関先で見送る妻の郁子。
それはいつもの風景だが、今日はいつもとは逆だった。
「はーくん、夕方までには帰ってくるけど、何かあったらすぐに飛んでくるから」
郁子はそう言うと力強く微笑んだ。
童顔に不釣合いな逞しい身体をブルーのボディスーツで包み込む。
そう、彼女は無限の力を持つスーパーウーマンだ。
「ああ、そっちこそ気をつけて行ってこいよ」
「ありがと^^じゃ、行ってくるね」
真紅のマントを翻すスーパーウーマン郁子。
「あ、忘れてた・・・チュ♪」
郁子は振り返るとハジメに優しくキスをする。
「じゃ、いってきまーす」
「いってらっしゃーい」
スーパーウーマンは勢いよく飛び上がるとハジメの視界から消えあっという間に見えなくなった。
「ふう、今日はなにをして過ごそうかなぁ・・・」
玄関先から、郁子の飛び去った冬空を見上げつぶやくハジメ。その時、
“ピロリロリ~♪”
寝室にある携帯の着信音が聞こえてくる。
ハジメは急いで寝室に戻った。
「もしもし・・・あ、お義母さん!ご無沙汰してます・・・」
電話は郁子の母親の沙織さんからだった。
「え!今からですか!?大丈夫ですけど・・・」
突然の電話に驚いたが、どうやら孫の顔が見たいので、こちらに伺いたいとの事だった。
「はい、わかりました・・お待ちしてます・・・ガチャ」
(大変だ、部屋を片付けないと・・・)
慌てるハジメ。しかし電話を切って数秒も立たないうちに、背後からガラスを軽く叩く音がした。
ハジメが振り返ると、寝室のベランダのガラス戸の向こうにブルーのボディスーツを身に纏った美しすぎるスーパーウーマンの姿があった。
「お、お義母さん!?随分早かったですね」
「あらそう?これでもゆっくり飛んできたんだけど」
沙織さんは郁子を上回るスーパーパワーの持ち主である。
彼女にとって東京-福岡間およそ千kmの距離などあって無いようなものだ。
「と、とりあえず、中に入って・・・」
「おじゃましまーす♪」
ガラス戸を開けて室内に滑り込むスーパーウーマン。
その姿はいつの間にかコスチュームから黒のニットとスリムパンツ姿に変わっていた。
「近頃、なにかと物騒だし、ちゃんと戸締りしないとね♪」
沙織さんがパチンと指を鳴らすと、ひとりでにガラス戸が閉まり鍵がかかる。
「あら、郁子は居ないの?」
「郁子は今日はすごく遠くの銀河系で研修があるんだって、ついさっき飛んで行きましたね」
郁子はスーパーウーマンとして全宇宙で5本の指に入る存在らしく、現在は若いスーパーヒーロー、ヒロインを指導する立場にある。
彼女は一年に一度、銀河連邦主催の研修で講師をしているのだ。
「本当に?郁子と喧嘩でもしたんじゃないの?」
「スーパーウーマンと喧嘩したら命が幾つあっても足りませんよ^^」
「ふふ、それもそうね^^」
上品に笑う沙織さん。
その眩しすぎる笑顔を横目にしながらハジメはキッチンの方へ向かった。
「あ、僕、お茶お淹れますんで、リビングで待っててください」
「あら、お茶ならわたしが淹れるからいいわよ」
「いいから、早く郁乃に顔を見せてやってください」
「ふふ 、ありがと、ハジメくん」
早速リビングへ向かう沙織さん、そこでいつものようにテレビでスーパーガールを鑑賞中の女の子にやさしく声をかけた。
「こんにちわ、郁乃ちゃん♪」
「あ、おばあちゃん!」
少女は声の方へ振り返ると、一目散に沙織さんの胸に飛び込んだ。
「郁乃ちゃん、大きくなったわねぇ」
ハジメと郁子の娘、郁乃は今年で3歳になる。まだ幼い彼女ももちろんスーパーガールだ。
「おばあちゃん、あのね。郁乃、飛べるようになったんだよ!」
「へぇ、すごわねぇ郁乃ちゃん^^」
「へへ~、見ててね♪」
沙織さんの手を離れ、ふわりと浮かび上がると部屋の中をくるりと旋回するスーパーガール郁乃。
「おばあちゃん、見てー♪」
空中で身を翻すと沙織さんに向けてウインクして見せた。
その時、お茶を載せたお盆を持ったハジメがリビングにあらわれた。
「こら、郁乃!降りなさい」
「は~い・・・」
ハジメに怒られ、郁乃は残念そうにフローリングの床に着地した。
「郁乃、部屋の中で飛ぶのは禁止って言っただろ」
「だって、おばあちゃんに見せたかったんだもん・・・」
ぷぅと頬を膨らませるスーパーガール。
沙織さんは、そんな郁乃の頭をやさしく撫でてあげた。
郁乃は一転して満足そうな笑みを浮かべる。
「ふふ、こうしてると郁子の小さかった頃を思い出すわ」
「郁子も小さい頃から飛んでたんですか?」
「ええ、郁子もよく部屋の中で飛んで私に怒られてたわねぇ・・・」
沙織さんは遠い目で昔を振り返った。
「知ってる?あの子、小学生の頃、月まで飛んでいって迷子になったのよ」
「え!?それは初耳ですね」
「夕方近くになっても帰ってこないんで、わたしが探しに行ったの。結局、火星付近で泣いてるあの子を見つけて連れて帰ったわ^^」
凛としたイメージのスーパーウーマン郁子の意外な一面にハジメは思わず吹き出した。
「お義母さんは幾つのときに飛べるようになったんですか?」
「うーん、いつからかな・・・?わたしはもの心ついた時にはもう光速で飛んでたし・・・」
義母さんはそう言って、首を傾げる。
「光速って・・・そんな幼い頃から光の速度で!?」
「おばあちゃん、すごーい!」
ハジメも郁乃も目を丸くして驚いた。
「大丈夫、郁乃ちゃんもすぐにそれくらい出来るようになるわ」
「ほんとに?」
「ええ、本当よ」
「ただ、好き嫌いばかりしちゃ、おばあちゃんみたいになれないぞ」
「だって、郁乃。ニンジン嫌いなんだもん・・・」
ハジメが横から口を挟むと、郁乃はしょんぼり肩を落とした。
「ふふ、ハジメくん。それよりお茶にしましょ♪」
ハジメと沙織さんはリビングのテーブルに向かい合う。
郁乃は軽く飛び上がると、ハジメの膝の上にちょこんと座った。
「ところで、お義母さんは小さい頃、どんな子供だったんですか?」
「あら、私は普通の女の子だったわよ、ちょっとばかり力が強くて、頑丈で、空が飛べたりもしたけど♪」
「ちょっと、それって全然普通じゃないですよ^^」
「ふふ、そうかしら?^^」
沙織さんは笑いながら舌を出した。
「うちは茨城の田舎の方だったから、小さい頃からのら仕事を手伝ったりしてたわね」
「へぇ、えらいですね」
「まあ、年端のいかない女の子が、大の大人を遥かに上回る力仕事をするもんだから周りも驚いてたんじゃないかな^^」
「間違いなく驚きますよ^^」
沙織さんの怪力少女話は続く。
「ある日、路肩に落ちたトラクターをわたしが持ち上げて戻してあげたの、そうしたら近所の男の子に『スーパーマンみたい』って言われたわ^^」
「はは、女の子に向かってスーパーマンはないですね^^」
「でしょう?^^まあ、今だったらそう言われても仕方ないかな」
そう言うと二の腕を曲げて見せる沙織さん。その美貌に不釣合いな逞しい力瘤がニットの下から盛り上がった。
「お義母さん凄い!」
「おばあちゃんの腕、ママよりすごーい!」
ハジメと郁乃が同時に驚きの声を上げた。
沙織さんはエレガントさと力強さが同居する唯一無二のスーパーウーマンだった。
「幼稚園ではどうだったんですか?」
「そうねぇ、幼稚園ではいい子だったんじゃないかな、まあ、たまにいじめっ子を懲らしめてたりしてたけど・・・」
「さすが、お義母さん。その頃から正義の味方だったんですね^^」
「懲らしめるって言ってもそんな酷い事はしてないわよ、どんな体の大きな男の子でも、軽く息を吹くだけで転んじゃうし
持ち上げて高い木の枝に引っ掛けたりもしたかしら?」
「あのね、パパ。郁乃もパパがわるいことしたら持ち上げちゃうんだから♪」
郁乃はハジメの膝の上から飛び降りると、ハジメの座る椅子を片手で軽々持ち上げて見せた。
「こ、こら!郁乃、降ろしなさい!」
「ふふふ~♪」
郁乃は鼻唄を唄いながら何度か椅子を上げ下げした後、満足した様子でハジメと椅子を床の上に降ろした。
「ふふ、頼もしいスーパーガールさんね^^」
そんな二人のやり取りをスーパーウーマン沙織さんは優しく見守っていた。
―おしまい―