…東京の某書店でアイドル恭子の握手会が行われた。
彼女はいま、人気絶頂のアイドルで握手会を開くと長蛇の列ができることはいうまでもない。
しかし、最近になり彼女の秘密が暴露され、さらに人気に拍車がかかっていた。
その秘密とはひとなつこい笑顔からは想像もできない人間を遙に超えた怪力である。
彼女にとってロックされたドアノブを壊したり鋼鉄をねじ曲げるのはもちろん、脱輪をした4WDを持ち上げることは朝飯前である。
普段、人前ではその怪力は絶対に見せないが、時と場合によっては、怪力を発揮し人々を助けることもある。
しかし、正体がばれてしまうといけないので、変装をしている。
ときどき、そのことが新聞に取り上げられ「謎の怪力少女、危機を救う」などという見出しがトップに出ることもあった。
最近でははその怪力を目当てに握手会に参加するファンも増えていた。。
恭子は自分の超人的怪力をすでに自覚しているので、無意識に怪力で人を傷付けたりはしないのである。
最近では抽選で恭子の控え室に招待され、目の前で怪力ショーを見られるという特典もある。
控え室ではファンが自分の宝物ものを持ち込み、恭子に握り潰してもらうなんていうのは日常茶飯事で、なかには鉄アレイを恭子に差出し「好きな動物を作ってください。」と、リクエストをするやつもいた。
美的センスもある恭子はいやな顔もみせず、持ち前の怪力であっというまにオブジェを作ってみせた。
一度、鉄アレイを粘土の塊の様に変形させ、まるで粘土細工を楽しむかのようにオブジェを作ってみせるのである。
「恭子ちゃん、いまの人で1500人目だけどだいじょうぶ?」
「わたしなら、ぜんぜん平気ですけど、握手をした方のほうが心配なんです。わたし、また、力が強くなっちゃったみたいなんです」
そう言いながら恭子はテーブルの上に置いてあったコーヒーのショート缶を手にし、ギュッと握り締めた。缶はアッという間に破裂し、あたりにコーヒーが飛び散ってしまった。
恭子は1800人目のファンと握手をしていた。
「はい、きょうはありがとう」
恭子はそういいながら相手を見つめる。
なかにはこんなやつもいる。
「あのう、僕の手がどうなってもいいので、思い切り握手していただけますか?」
唐突なファンの言葉に戸惑う恭子。
彼女は困惑しながら
「思い切り握ってって言われても…。本当にいいんですか?」
「はい、恭子チャンと握手して、手が粉々になるなら本望です。」
「ほんとうに、いいのね?」
そう言うと恭子は他の人よりも少し力を入れて握手をした。
「£&#%▲★※!!*&!」
男は言葉にならない悲鳴をあげた。一方、恭子は微笑みを浮かべていた。
「…あ~あ、だから言ったじゃない。今日はこれで76人目よ。私と握手して、手の骨が粉々になったのは」
恭子はあきれかえりながらも、握手会を続けていた。
「はい、ありがとう。ぼうや、パパによろしくね。そうそう、ぼうやにおみやげあげるね
」恭子はそういうと、テーブルの上に置いてあった空き缶を握りしめ、小さな鉄の塊を作った。そして、指でつまみながら、なにやら作っているのである。
「はい、おねえちゃんの顔が入ったバッチよ
」恭子は空き缶を握り潰した鉄の塊でバッチを作って子供にあげたのであった。
「恭子ちゃんありがとう」
子供は恭子の怪力がわからなかったのか、バッチを大事そうにしまい、走って行った。
握手会終了後、抽選で当たったラッキーな男5人が恭子の控え室にご招待された。
恭子が最初に声をかけた男は金属バットを差し出し。
「恭子さん、この金属バットにあなたの手形をつけてください」
と、言った。
「はいはい、おやすいおごようです」
恭子はそういうと、金属バットをギュッと握った。
金属バットにはクッキリと彼女の手形が残っていた。
次の男は握力計を出し、握力がどのぐらいか見せてほしいと言った。しかし、恭子の握力では握力計は簡単に壊れ計測不能になるのであった。
最後の男はダンベルを出し「これでオブジェを作ってくれ」と言った。
恭子がダンベルに手を伸ばしたとき、マネージャーがその手を遮り、ダンベルをつかんでいた。
恭子のマネージャーはつい最近、入った女性のマネージャーに代わっていた。
「もう、いいかげんにして!」
彼女は男にどなりつけると、ダンベルを真っ二つに折り曲げ、あっという間に握り締めサイコロを作って見せた、サイの目は指を押し付けて作ってる。
「これで、いいでしょ!」
マネージャーは男を睨みつけた。
「さあ、これで今日のイベントは終了です。これから次の仕事に移動しますので…」
そういうと、マネージャーは恭子の腕を引張り、部屋を出て行った。
マネージャーの車で次の仕事へ向かう恭子。彼女は自分よりもすごい力を見せられ、まだ、信じられないと言った顔でマネージャーを見ていた。
「マネージャーって、すごいんですね。もしかすると、私よりも力が強いんじゃないですか?」
「さあ、それはどうかしら?あ、それより、さっきから、後ろの車が付いてきてるわ。」
マネージャーはミラー越しにその車を見ていた。後ろの車は信号で止まった。
「いまがチャンスね。恭子ちゃん、ちょっと待っていてね。」
マネージャーは車を止め、外へ出て行った。恭子は後ろを振り向き、様子を見ていた。
マネージャーは道路に止めてあった宅急便の4tトラックのバンパーに手を掛けた。次の瞬間、トラックの荷台が横に動いた。恭子のマネージャーがトラックを持ち上げ動かしたのであった。
そして彼女は何もなかったかのように、車に戻ってきた。
「ウェンズデーの連中よ。この前から気になっていたの。もう大丈夫よ。さっき、トラックを動かして車が通れないようにしたわ。さあ、行きましょ
」車はルート246に出た。この通りはいつも渋滞をしてるいるが、すこし我慢をすれば渋滞を抜けることができた。しかし、きょうのルート246はいつもにも増して渋滞をしていた。
「きょうは、ずいぶん渋滞がひどいみたいね」
マネージャーはそういうとカーラジオのスイッチを入れた。
以前は恭子がその役目をしていたが、いつのまにか力が強くなりすぎ、スイッチを壊してしまううので、いまではマネージャーがその役目をしている。
「…ルート246は事故のため横浜方面に向かい、この先渋滞中です」
ラジオでは無常な情報が流れていた。
車が交差点を通り掛かった。そこではトラックと乗用車の事故が起きていた。
「これね。渋滞の原因は…。しかし、これじゃ車線が塞がれて通れそうもないなあ。」
マネージャーが渋滞の先の方を見ながらつぶやいていた。
トラックは荷崩れを起こしたのか横転をし、乗用車はボンネットが潰れコックピットに運転手が挟まれていた。どうやらレスキュー隊を呼んだもののまだ、到着をしていないようであった。
恭子は事故現場を見て叫んだ。
「たいへん!トラックが横転しているわ。こっちでは車の中に人が挟まれて閉じ込められているわ。マネージャー、私助けに行ってきます
」そういうと、恭子は車から飛び出していった。
「ったく、しょうがないわね。ま、いいか。正義のヒロイン、スーパー恭子の出番よ」
マネージャーはあきれた顔をしながらつぶやいていた。
マネージャーが交差点を見つめていると、そこへ大柄の体格の良い女性が現れた。壁のような広い背中、大蛇のような太い腕、電柱のようにたくましい脚、身長は2m近くありそうだ。
その女性こそパワーアップした恭子の姿であった。
「さきにケガ人を助けなきゃ。」
そういうと恭子は潰れた乗用車に駆け寄った。
ドアをはぎ取り、潰れたボンネットを押し広げた。車内に閉じ込められた運転手を救出し抱え上げた。
「救急隊がきたら、この人をお願いしますね」
野次馬にそう言い残し、路肩へ怪我人を寝かせると、目にも止まらぬ速さでトラックの横へ走り出した。まるで瞬間移動をしたような光景である。
「あ、女の子が消えたゾ!」
「いや、トラックを持ち上げている!」
恭子はトラックの横へ駆け寄り、しゃがみこむと道路に指でアスファルトをえぐるようにして手を入れトラックに指をかけた。
「えい!」
恭子が腰を上げると同時にトラックが起き上がった
「ドッスン!」
あたり一面に埃が舞った。
埃ががやみ、あたり一面には日の光がさしていた。しかし、そこには恭子の姿は、いや、スーパーガールの姿はなかった。
「あ、さっきのスーパーガールがいないぞ!」
野次馬の中から声がする。
恭子は元のアイドル恭子の姿に戻りマネージャーの車へ戻ってきた。
「おかえりなさい。いやあ、さっきのスーパーガールの活躍、すごかったわね。恭子ちゃんにも見せてやりたかったわ。」
マネージャーはそう言いながら恭子の腕をマジマジと見ていた。
「もう、マネージャーったら、知っていてそういうこと言うんだから!でも、私空を飛んだり透視ができるわけでもないから、スーパーガールなんかじゃありませんよ」
「いや、あれだけのパワーがあって、目にも止まらない速さで走れれば十分よ。普通の人間にはできないわ。」
「マネージャー、そこのウエットティッシュいただけますか?さっき、手を汚しちゃったみたいなんです。」
「はい、おつかれさま。そうね。こんどからさっきみたいなときに使う手袋でも用意しておこうかしら
スーパーガールみたいな真っ赤な皮手袋を。それともこんどは私が行った方がいいかしら?」いちおう、終わり
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