中学時代の同級生に気になる子がいた。ニックネームは「アラレちゃん」
彼女は普段はメガネをかけていて、けっして美人とは言えなかったが、どうも気になる存在だった。勉強ができて成績はいつも学年の上位。「天は二物を与えず」なんていうことわざがあるが、そんなものは彼女には通じなかったのだ。中学に入って初めての水泳の授業、女子と合同だ。そのとき、一人見た事がない女の子がいた。
「あれ、こんな子うちのクラスにいたっけかなぁ?」
すごく美人でしかも、スタイルはバツグン。身長は普通の中学生なのに体形はもう、大人顔負けだ。しかも、泳ぎは一番の速さだった。
その女の子こそ、あのメガネっこのアラレちゃんだったのだ。
「えー、アラレちゃんってすごいナイスバデーじゃん!」
あちこちでクラスの男たちが騒いでいる。
数日後のある日、アラレちゃんと一緒に帰るときがあった。
「おまえ、メガネはずして服脱ぐと、別人みたいにキレイになるなぁ。メガネやめてコンタクトにすれば?」
「いいの。これは私のトレードマークなの!」
「そういえば、真紀からきいたけど、ほんとうはスポーツも万能なんだって?まるで、スーパーガールがその正体を隠しているみたいじゃん。」
「え、真紀、そんなこと言っていたの?まあ、走るのは早いほうかもね。50m6秒台だもん。」
「おい、それって学年でも一番速いんじゃないのか?」
「うん、そうだいいもの見せてあげようか」
「え、なに?いいものって」
アラレは道端に捨ててあった空き缶を拾い上げ、右手でギュッと握り締めた。メキメキメキ…空き缶はアッというまにペチャンコに潰れた。
「おまえの握力すごいんだな。なんか、信じられないよ。」
「こんどは、これ持ち上げるね
」アラレはそういうと路駐してあったトラックのバンパーに手をかけた。
「あ、これって思っていたより軽いんだ」
そういうとトラックが中に浮いていた。アラレは片手で軽々と持ち上げていたのだ。
「でも、これはナイショだよ。あ、もうこんな時間。塾に遅れちゃう。じゃあ、またあしたね。バイバイ!」
アラレはそういうと走り出して、アッというまに見えなくなってしまった。
「あれなら、50m6秒どころか、時速200kmは出てるな」
おれは、呆然とアラレの走って行った後を見送っていた。
数年後、おれも高校を卒業し、社会人になった。去年のクラス会で、アラレはアメリカ人と結婚してロスにいるという話を聞いた。
ある土曜のお昼時、おれはコンビニに朝飯兼昼食を買いに行った。
「あれ、もしかするとあられかな?いや、あいつはロスに入るって聞いたし…」
「あ、ナベちゃん、久しぶり。私よ。アラレよ」
「あ、やっぱりそうなんだ。なんだ、中学の頃と全然変わってないじゃん。そのメガネもね。あ、その女の子は?」
「あ、これ?私の子よ。もう、3歳になるの」
「へえ、かわいいなぁ。あ、アラレっていまでも怪力レディーなの?」
「もう、そのことは言わないでよ。だんなにはナイショにしてるんだから。こんな怪力ばれちゃったら、離婚よ。きっと」
「そうかなあ、おれだったら、その怪力に惚れちゃうけどなあ。あ、そうだあそこに止めてあるランクル、おれのなんだ。あれ、ちょっと持ち上げてみてよ」
「もう、しょうがないわね。いいわ。ひさしぶりだから見せてあげるわ
」アラレとおれはランクルの前に歩いていった。
「アラレがランクルを持ち上げようとしたとき、アラレの子供が言った」
「ママ、このおじちゃんだあれ?」
「おい、おじちゃんとはなんだ!」
思わず、子供にの頭を叩こうとしたとき、腕をつかまれてしまった。
「いててて」
「こら、ミッチェル。だめでしょ。手をはなしなさい。この人はママのお友達なの」
「はあい。じゃあ、おにいちゃんダッコしてげる。」
女の子はおれの足を抱えると、俺の身体が中に浮いていた。下を見ると、女の子は左手でおれの足首を持って軽々と持ち上げていた。
「あ、このこすごい力。」
「あ、このこ私の怪力が遺伝したみたいね。ミッチェル、もう下ろしてあげなさい。お兄ちゃんがビックリしているわ。じゃあ、こんどは私の番ね
」アラレはそういうと、腕まくりをして、バンパーに手をかけた。エンジンがあり重いほうのフロントバンパーだ。
「どう?昔のパワーは、まだ健在ね」
そういうとランクルを地面に下ろした。
「ママ、あたしもやってみる」
女の子はそういうとランくるの下にもぐりこんだ。フワッ。ランクルが浮き上がった。下をのぞきこむと、女の子が笑顔でランクルを持ち上げていた。
「さあ、もう終わりよ」
アラレがそういうとランクルは元の向きとは反対を向いていた。
「まいったなあ。ここの駐車場中でUターンでいないんだよなぁ…」
そういうと、今度はアラレがランクルを抱え上げ、向きを変えていた。
「これで、いいよね。じゃあ、私帰るけど。あ、そうだ久しぶりの再会の記念に、いいことしてあげる。ミッチェル、こっちにおいで」
アラレが女の子を呼ぶと、道路の向こう側から走ってきた。
「あ、危ない!」
おれがそう叫ぶと同時にアラレは道路に飛び出した。ドン!鈍い音が聞こえた。音の方に目をやると、アラレが大型トレーラーを止めていたのだ。道路のアスファルトには彼女の足跡がクッキリと残っていた。
「ミッチェル、だめじゃないの道路を飛び出しちゃ。車とぶつかったら、車がこわれちゃうんでしょ」
アラレと娘のミッチェルは、不死身でもあったのだ。
「だいじょうぶ?」
「うん、きょうは少し力を加減したから、だいじょうぶよ。すこし車が凹んだけどね。」
「あ、記念にいいことって、なにしてくれるの?」
「私と娘の手形を残してあげるね。車に
」そういうとアラレが左前のドアを手の平でぐっと押した。メコッ!きれいに手の跡が残った。
その手の跡の横に今度は女の子が手を当てた。メコッ!
「どう、こんな記念ないでしょ。じゃあね
」アラレとその娘はクルリと背中を向けると軽く膝を曲げそのままジャンプした。
彼女たちは空へ飛んで行った。2人の姿がグングン小さくなる。
あれから、5年。いまでもあのランクルは大事に乗ってる。彼女たちの手の跡がお守りのようだ。
おしまい。
Android携帯からの投稿