ひろしくんは、小学校4年生。クラスの国語の授業で「僕のお母さん、私のお母さん」という作文を書きました。このひろしくん。子供にしては少し妄想癖があるようです。
…僕のおかあさん 4年3組 わたなべ ひろし
僕のお母さんは、気はやさしくて力持ちです。お父さんがジャムのフタを開けようとしましたが、開きませんでした。お父さんがお母さんに「このジャムのびんのふた、あかないよ。」というと、お母さんが「じゃあ、かして」といいました。お母さんが力を入れると、ふたが開きました。
このまえお父さんと、キャッチボールをしているとボールがくるまの下に入ってしまいました。お父さんと、僕はこまっていると、お母さんが買い物から帰ってきて「どうしたの?」と、僕に聞きました。「ボールがお父さんのくるまの下に入っちゃった」というと、お母さんは、くるまをもちあげて、とってくれました。
ぼくが小さいとき、お母さんといっしょに空をとんだことがあります。ひこうきにのったのではありません。夏休みに、お父さんのいなかに行くとき、特急のきっぷがかえなかったので、お母さんとさきに、いなかにいきました。お母さんが、ぼくをだっこして「おじいちゃんのところに、早くいこうね」といって、スーパーマンみたいに「えいっ」ってとんでいきました。…
ある日、作文が担任の丸山郁子先生から返された。郁子先生は、ひろしに作文を返しながら
「ひろしくん。あとで、職員室にきてね。うそを書いた作文はダメよ」
と、言った。ひろしは、ほんとうのことを書いたのに…
「先生、あの作文、ほんとうだよ!先生ってば!」
「ひろしくん。じゃあ、体育館に行こうね。」
郁子先生は、ひろしをダッコして体育館に行った。
「先生、はずかしいよう」
郁子先生は体育大学を出て小学校の先生になったのだ。高校の体育の教師の免許もあるが、小学生の子供の純粋さに惹かれて、教諭免許を取った努力家でもある。
さすが体育大出身でけあって、体格も大きく、腕っ節も強かった。じつは、学校のどの男の先生よりも、腕相撲が強かったのである。
6年生の子供たちには「スーパーマン」と、呼ばれていた。まあ、先生は女性だから、ホントはスーパーウーマンなんだけれど…。
ここでは、スーパーウーマンと呼ぼう!
郁子先生がスーパーマンと呼ばれるのは、力が強いからだけではなかった。足もどの男の先生よりも速かったのである。それだけではなかった。じつは彼女の身体は不死身だったのである。
郁子先生は毎朝子供たちを笑顔で迎えようと、学校の正門に立ち、生徒一人、一人に声をかけていた。
「おやよう!おっ、ひろしくん、おはよう!さとみちゃん、おはよう!」…と、一人、一人に声をかけていた。
郁子先生が赴任してきた、去年の10月のある日であった。いつものように、生徒一人、一人に声をかけていると、郁子先生が突然「あ、危ない!そこどけ!」と門の前にいた生徒をはねのけた。郁子先生に向かって、居眠り運転のランクルが暴走していた。
ドーン!グシャッ!ガラガラガラ!
郁子先生は、居眠り運転のランクルの餌食となって、塀に挟まれてしまった。
ボロッ!グググググ…
塀が崩れる。ランクルが後ずさりしているではないか!ノーブレーキで突っ込んできたランクルを先生は両手で押さえ込んでいたのだ。スリップのあとは、タイヤではなく、先生のスニーカーの跡であったのだ。そして、ブロック塀に激突。しかし、鋼鉄の筋肉の鎧を身に纏った先生はブロックよりも強靭な肉体であったのだ。
「いててて、みんな、だいじょうぶだった?先生はこの通り全然、平気だよ。さあ、教室に入って。」
このことを見ていた子供たちからは自然と「郁子先生は自動車よりも強い、スーパーウーマン」と言われるようになったのである。
体育館に、ひろしと郁子先生。
「ひろしくん。おかあさんて、そんなにすごいの?」
「うん」
「じゃあ、先生みたいに、こんなこともできるんだ」
こう言いながら郁子先生は、近くに置いてあった、ダンベルを握った。昌代先生に握られたダンベルはクッキリ凹んで、手の跡が…
ひろしは「うーん、わかんない。でも、ママならできるかも…」と、言った。
「じゃあ、これは?」
郁子先生は、ダンベルをUの字に曲げてしまった。
郁子先生はひろしをつれて外へ。
「ひろしくん。お母さんって、空飛べるんでしょ?」
「うん!」
「じゃあ、先生みたいにできるんだ…」
そういうと昌代先生は、校舎の屋上の校旗が掲げてあるポールを見つめ、深呼吸をした。
ビュン

先生がジャンプした。
郁子先生は校舎の屋上のポールの上に立った。
ストン!
郁子先生は、こんどはひろしの目の前に飛び降りた。
「先生、僕、ウソをついていました。先生みたいにキレイで強いスーパーウーマンがママだったらいいのに。って思って、ウソを書いてしまいました。先生ごめんなさい」
「そうだったんだ。しょうがないわね。でも、今度だけよ。そうだ、ひろしくん。海、見に行こうか?」
「え、海を見に行くの?先生」
ひろしが、そういうと先生はひろしを、そっと抱き微笑みながら
「しかっかり、つかまってるのよ」
そういいながら、エイッ!と青空へ飛び立った。グングン小さくなる校舎。
「先生って、すごいや。ママよりも速く飛べるんだ」
ひろしを抱いた郁子先生は砂浜に降りた。そこにはほかにだれもいない。
「ひろしくん。このことはだれにも言っては、ダメよ。ひろしくんと、先生の秘密よ」
「うん、先生ってやっぱり、銀河警備隊からやってきた、スーパーウーマンだったんだね」
「ひろしくん、先生はたしかに普通の人にはできない重いものを持ち上げたりするし、自動車にひかれても平気かもしれないけど、先生はこの地球の人間なのよ。銀河警備隊の星って、遠い、遠い宇宙の果てなのよ。そこからどうやって、この地球にやってくるの?」
「だって、先生って空を飛べるじゃん!いまみたいに。ママが先生をよその星で会ったことあるって、言っていたよ。」
おしまい。
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