「ひろしくん、おはよう!」
「あ、おねえさん、おはよう!まだ、だいじょうぶなの?」
「うん、あとで待ってるわね
」僕が学校に行くとき、いつも声をかけてくれる、となりのゆきえおねえさん。おねえさんは家の前の掃除をしている。
おねえさんとは、小さい頃からの幼なじみで、おねえさんはいつも憧れの存在だった。小学校のころから走るのが速く、クラス対抗リレーではいつもアンカーだった。トップとどんなに離されていても最後には逆転して優勝。クラスではスーパーヒロインだった。
ひろしの家から駅までは自転車で10分ぐらい、でも、いつも駅に着くとおねえさんが電車を待っている。さっきまで、GパンにTシャツ姿だったおねえさんが、颯爽とパンツスーツのOLに変身しているのであった。
「ゆきえおねえさんて、いつもおれより遅く家を出てるのに駅に着くと電車を待ってる。自転車で駅にくれば途中で抜かされるはずなのに、どうやってあんなに早く駅に来るんだろう。まさか、空を飛んだり、車やバイクよりも速く走れるのかなあ。」
ひろしは、中学の頃から妄想癖が強くなったのであった。中学の同級生で3年間クラスがいっしょだった、真紀という女の子にメロメロにされてしまったのだ。真紀は、クラスで一番、頭もよく、スポーツも万能。2年の夏、ひろしの目の前で彼女は空き缶を握り潰して見せたのだ。それいらい、ひろしは真紀にメロメロになってしまった。
いけない、話を元に…
ひろしは、いつかゆきえに「おねえさん、なんでいつも僕より遅く家を出てるのに、駅に早くつくの?」と聞いてみたいのだったが、ひろしの高校は都心と反対の方向にあるので、いつもゆきえの後ろ姿に、そう、問いかけるだけであった。
「まさか、あのスーツの下にコスチュームが…隠れてるわけがナイよな。」
夏の終りのある日、ひろしにチャンスがやってきた。ひろしは卓球部のレギュラーで、この日は都心にある体育館に試合に行く日であった。
「ひろしん、おはよう」
「あ、おねえさん、おはよう。あとで駅で待っててね。」
ひろしはこういうと、自転車でいつものように駅に行った。ゆきえも、いつものように駅に着いて電車を待っていた。
「おねえちゃん!」
「あ、ひろしくん。きょうは、どうしたの?」
「きょうは、卓球の試合で西野町の体育館に行くんだ。おねえさん、次の準急に乗るの?」
「わたしは、そのあとの各駅で行くわ。そっちのほうがすいてるし」
「じゃあ、僕もそっちで、行こう」
「でも、試合間に合うの?」
「だいじょうぶだよ。9:00に西野町の駅で待合せなんだ。」
すると、二人の会話を聞いていたかのように駅のアナウンスが…
…「お知らせいたします。こんどの発車、47分発の準急は途中駅で車両故障のため、20分ほどの遅れとなっています。このため本日に限りまして、そのあと53分発の犬ヶ丘遊園ゆきが先の発車となります。なお、この電車は終点まで先の到着となります。お急ぎの…
「おねえちゃん、次のに乗らないとだめだね。」
「しょうがないわ」
遅れてきた各停に乗る二人。
「もう、きょうはすごい混んでる。座れないわ」
「うわあ!」
朝のラッシュに慣れていないひろしは、あとから乗ってきた客に押されて倒れそうになった。
「あ、ひろしくん!」
ゆきえは、ひろしの腕をつかみグイッと引き寄せた。
「おねえちゃんて、力強いんだね。もう転ぶと思ったらグイーって引き寄せられた。あ、おねえちゃん、ごめんね」
ゆきえに引き寄せられ、勢いがあまったひろしは、ゆきえの胸の顔を埋めるようになっていた。
「おねえちゃんの胸って気持いい~」
「ちょっと、調子にのって、おしりまでさわらないの!」
「おねえちゃん、お尻なんかさわってないよ。おれ」
ゆきえは、おしりにある手を思い切り握った。
「い、イテエ!手がちぎれそうだ」
ゆきえの後ろから痴漢の悲鳴が聞こえた。
彼女は「こら、オヤジ!どこ触ってんだよ!」
と睨みつけながら、痴漢の胸ぐらをつかんだ。小柄な男の顔がみるみるゆきえ上に上がってゆく。
男は足をバタバタさせながら「す、すいません。ゆるしてくださ~い」と言った。
「もう、こんなことするんじゃねーぞ!」
電車が駅に着くと男は顔を真っ赤にしながら、そそくさと降りていった。
「おねえちゃんて、強いんだね。なんかスーパーウーマンみたい」
「そんなこと、ないわよ。学生のときスポーツやってたから、腕力だけはへたな男より、あるかも。」
「おねえちゃん、きょう、試合が終わったら、デートして。」
「えー、ひろしくんと?いいわよ。試合って何時頃終わるの?」
「だいたい、3時頃かなあ、でも、早く負けちゃったらもっと早く終わるけど」
「じゃあ、試合が終わったら、会社に来て。はい。この名刺あげる。あ、もう降りなきゃ。じゃあ、まってるわ」
こいうと、ゆきえは電車を降りていった。
ゆきえの名刺には
「住菱開発営業部営業秘書室 馬場幸江」と書いてあった。
「へえー、ゆきねえちゃんって住菱商事にいってるんだ。社会人になってもすごいんだなあ。美人で頭もよくて力も強くって、やっぱりおねえちゃんて、スーパーウーマンみたいだなあ」
ゆきえとのデートに気をよくした、ひろし。試合は惜しくも準優勝だった。
「え~と、確か、新山手の駅のまえだったよな。あ、あった、あった。」
ゆきえの会社を見つけると、1Fの受け付けに一直線。
「あ、あのう、営業秘書室の馬場さん、お願いします。」
受け付け嬢は、ひろしをアヤシゲな目で見ていた。
「こいつ、なにもの?オタクじゃん」
ひろしは、そう思われているのが判ったのか、ゆきえからもらった名刺を受け付け嬢に見せた。
「あ、馬場さんですね。ちょっと待っててね。」
受け付け嬢は内線電話を取り、秘書室に電話をした。
「あのう、こちら受け付けなんですけど、馬場さんいますか?弟さんが見えてるんですけど。」
受け付け嬢が電話を切るかきらないうちに、ゆきえが現れた。
「ひろしくーん!待った?」
「あ、おねえちゃん
」「あのう、弟さんですか?」
受付嬢がゆきえに聞いた。
「いいえ、私の彼氏です!」
ゆきえは思わず、受付嬢に冗談を言った。
「お、おねえちゃん…」
「さ、まだ早いから、私のオフィスに行こう。」
「えー、いいの?入っちゃって?」
「だいじょうぶよ。そんなにビクビクしないの!男の子でしょ。」
ゆきとひろしはエレベータに乗って、ゆきえのオフィスがある54Fへ。
「ねえ、おねえちゃん、さっき電話を切ってすぐ、下にきたよね。エレベーターできたの?でも、エレベーターと反対側の入り口からきたでしょ。ほんとうのことおしえてよ。」
「う、うん、オフィスに行ったらおしえるね。さあ、ついたわよ。」
エレベーターを降りて秘書室に入る二人。
「ねえ、なんで、デートしてなんて言ったの?」
「けさ、おねえちゃんに電車の中で助けてくれたでしょ。そのお礼を言いたかったんだ。それに、おねえちゃんのこと、前から憧れていたんだ。ずっと、小さい頃から。それと、おねえちゃんに聞きたいことがあったんだ。おねえちゃん、いつも僕より遅く家を出るのに、いつも駅には先にいるよね。どうして?自転車やバイクだったら、道が一つしかないのに、どうやって僕より早く駅に着けるの?」
ひろしは、いままで疑問に思っていたこと、ゆきえへの憧れの思いを全て、ぶつけた。
「ひろしくん、そうだったんだ。じゃあ、おねえちゃんもほんとうのことおしえてあげるね。でも、このことは絶対に、他の人にはナイショだよ。」
「うん。」
「ひろしくん、そこにあるテニスボールかして。」
ひろしは、ゆきえにテニスボールを渡した。そのテニスボールをゆきえがギュッとにぎると、パン!と音がしてテニスボールが破裂した。ゆきえが握り潰したのだ。
「はい、これでわかった?」
「おねえちゃんて、すごい力持ちなんだね。」
「そうじゃなくて、まだ、わからないの?じゃあ、これでわかるかしら」
ゆきえがパソコンに向きなおし、制服のベストとブラウスのボタンをはずし前をはだけた。そして、ひろしのほうに向いて
「これで、わかった?」
ひろしが、ゆきえのはだけた胸元に目をやると、制服のしたにはスーパーガールのコスチュームが…
「お、おねえちゃん!そ、その姿…。やっぱり、おねえさんって、スーパーウーマンだったんだ。じゃあ、いつも駅までは空を飛ぶの?それとも、車よりも速く走るの?」
「駅まではね、ウラの用水を飛び越えればすぐでしょ。だから、いつも部屋で着替えたら窓からジャンプしちゃうの。どう?なっとくした?」
「う、うん…」
「あ、もう4時ね。そろそろ行こうか。ひろしくんが試合で頑張ったから、きょうはおねえさんからご褒美で、ごちそうしてあげるね。」
「え~、うれしいなぁ。やったー!」
「さあ、いくわよ。あ、そっちじゃなくてバルコニーのほうよ。」
「おねえちゃん、バルコニーのほうって…」
「そうよ、バルコニーから出るの。エレベーターから出入りするより全然、早いでしょ。」
「じゃあ、さっきも、そうだったんだ。だからあんなに早く受付にきたんだね」
「さあ、しっかりつかまっててね。」
そういうとゆきえは、ひろしを抱き寄せバルコニーから下に飛び降りた。ストン!あっというまだった。
「おねえちゃん、どこに行く?」
「そうね。ひろしくん、お酒飲んだことあるの?」
「え?あ、ありますよ。一人で旅行に行くときは、夜行列車に乗るときにビールやカンチューハイ買って、飲んでます。でも、これ、家の人にはナイショですよ」
「わかったわ。じゃあ、居酒屋にいこ。いつも行くところは、となりの駅だけど、まだ早いから歩いていこうか
」こうして、ひろしとゆきえはとなりの駅まで歩いていった。
「ねえ、おねえちゃん、朝の痴漢の手はどうなったかな。おねえちゃんの怪力なら骨折してたでしょ。」
「そうね。でも、あれでも少し加減したから、ヒビが入った程度じゃない?もし本気で握ったら、手の骨なんか簡単に砕いちゃうわよ。」
ブッブー!トラックが急ハンドルを切った。
「あ、ひろしくん、あぶない
」ゆきえがそう叫びながら、とっさにひろしをかばうように抱き寄せた。
ドン!ガラガラガラ…
トラックが荷崩れを起こした。二人の上には廃材が降ってきた。
「おい!だいじょうぶか?」
トラックから慌てておりてきた運転手。
ザザザザザ…ゴロン!
廃材の一番上に落ちていた鉄骨が動いた。
「だいじょうぶなわけ、ないでしょ!まったく」
ゆきえが鉄骨を払いのけて、起き上がった。
「ひろしくん!だいじょうぶ
」「う、うー。あ、おねえちゃん、ぼく助かったんだ。ありがとう。おねえちゃんって力が強いだけじゃなくて、不死身なんだ。おじさん!このおねえちゃんがスーパーウーマンだったから、僕たち助かったけど、普通なら即死だったよ!気をつけてよ!」
「おにいちゃん、わるかったね。こんどは気をつけるから、勘弁してくれよ。」
「おねえちゃん、どうする?」
「そうね、私のことはナイショにしてもらうことと、きょうの飲み代出してくれる?二人分で3万で、いいわ
」「わ、わかった。はい、3万円。ったく、ボッタクリやがって!クソガキ」
「おじさん、いま、なんて言った?わたしを怒らせると、このトラックどうなっても知らないよ。」
そういうと、ゆきえはトラックに手をかけていた。
メコメコメコ…
ゆきえがバンパーをつかむと、トラックの荷台が空に向かって上がっていく。とうとう、後輪が浮いてしまった。
「わ、わかった。商売道具のトラックだけは勘弁してくれ~」
運転手は財布をゆきえに渡すと、一目散に逃げていった。
ゆきえとひろしは居酒屋についた。
酔いが周ってきたひろし、饒舌になってくる。
「おねえちゃんてさあ、僕が小さい頃から、走るの速かったよね。いちど、都電に乗ってるときおねえちゃんが走って追い越したの、見たよ」
「うふふ、よっぱらっちゃって。ねえ、ひろしくん、おねえちゃんはね、本気で走れば新幹線よりも速く走れるのよ
」「おねえちゃんの怪力で悪いやつをやっつけて!機関銃なんか、へし折っちゃえ!」
「はいはい、機関銃でも、バズーカ砲でも簡単に折ってあげるよ。もう、しょうがないなぁ」
「ねえ、おねえちゃん、きょう僕が酔っ払ったら、介抱してくれるよね。」
「そうね、酔い覚ましに北極でも行こうか。私が空を飛んだら、あっというまよ
」「じゃあ、いまから連れて行ってよ」
「もう、しょうがないわね。もう、酔っ払ってるの?」
ひろしは、顔を真っ赤にして、ロレツもまわらなくなっていた。
「すみませ~ん、おあいそ!」
ゆきえはレジでお金を払うと、ひろしを担ぎ上げ店を出て近くの公園に行った。
「もう、しょうがないわね。カゼひくわよ」
「おねえちゃん…こんどはこの鉄棒、曲げて見せてよ…ムニャムニャ…」
ゆきえはジャケットを脱いでひろしに着せた。ジャケットを脱いでスーパーウーマンになったゆきえはひろしを抱えて星の瞬く夜空に消えた。
-おしまい-
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