■有名建築家でめぐる大学キャンパス⑤

 

(④からの続き)

 

このシリーズ、④までは時代順にまとめてきましたが、現代まで来てしまいました。

 

というわけで、ここからは完全オムニバスです。

 

有名建築家の建物だから良い建物だってわけじゃないけど、わざわざ有名建築家に頼むぐらい「力を入れた建物」だともいえる。

 

つまり、やっぱり有名な建物は、評判に見合うだけのナニかはあるわけじゃないんでしょうか。

 

①    石上純也(1974~)

 

一部の評論家から「天才」とべた褒めされている若手建築家です。

 

2004年に妹島和世の事務所から独立して今日に至る。

 

大学だと、神奈川工科大学のKAIT工房が有名。最近、その隣に広場も作った。

 

見た感じは、いかにも妹島和世風。SANAA好きなら、行っても損はないのでは。

 

確かに、普通の建築家とは違うなあ、という、ぶっ飛び要素は感じさせられます。

 

え?どこがポストモダンかって?

 

機能的じゃなさそう・・・なところじゃないでしょうか。

 

妹島和世同様、建物とその中にいる人を外から眺めたり、内側から写真をとる分には大変興味深い物件です。

 

自分がこの建物を使う立場に回ったら、それはどうだろう?的なものはありますけど。

 

まあ、この人に仕事を頼むのであれば、坪単価とか建ぺい率とかは気にしてはいけない。

 

神奈川工科大、それ以外の建物も大変充実しているので、見に行って損はありません。

 

 

②    フランク・ロイド・ライト(1867-1959

 

こちらは世界的巨匠です。ローエ、コルビュジエに並ぶ、近代建築ビッグスリーの一人です。

 

余計な説明はいらないと思うけど、日本では旧帝国ホテルとかを設計しています。

 

浮世絵のバイヤーみたいなことをやっていたこともあり、日本人とは美的感覚に共通点が多そうな感じがします。

 

関東で見に行ける建物は、池袋の自由学園明日館。ちょっと、鳳凰院平等堂を彷彿とさせる建物です。

 

おすすめ度合いでいえば、関西まで行って、ヨドコウ迎賓館へぜひ。

 

海へ向かって見下ろす風景がたまらない。

 

でも、床面が上がったり下がったりなので、ルンバは使えなさそうな設計です。

 

 

③    前川国男(1905-1986)

 

言わずと知れた日本建築界の大物。コルビュジエの弟子。

 

詳しくはググっていただくとして、興味深いのは「日本ならではのモダニズムデザインとは、どんなものか」という問いに対して、前川御大は「ヒントは日本の巡洋艦にある」と答えたという逸話だ。

 

日本の巡洋艦は独特な設計思想に基づいていて、たとえば軽量化のため、設備関係を極端に集中配置し、曲面を多用したモノコック構造を活用している。

 

船体はやたらと細長く、艦橋と煙突を合体させて省スペースを図った結果、シルエットも非常に独特だ。

 

ダメージコントロールの観点から見ると、「兵器としてはどうなのよ?」という問題点はあったが、独特の造形美があった。

 

それはさておき、前川国男が設計した大学校舎というと、学習院大のピラミッド校舎が有名だったが、老朽化で取り壊されてしまった。

 

とはいえ、まだいくつか、学習院には前川による物件が残っている。

 

北1号館とか、図書館とか。

 

パッと見、普通の団地風だが、よく見ると細部へのこだわりが見え隠れ。

 

 

④    隈研吾(1954-)

 

いうまでもなく、国立競技場を設計した人。今、一番有名な日本人建築家。

 

とにかく多作で、来る者は拒まずみたいな感じで仕事を受けている。いずれ日本は、隈物件であふれかえってしまうだろう。

 

「和の大家」みたいな言われ方をしたこともあったが、本人が強調する通り、一貫してポストモダン。

 

確かに「木」を多用するのだが、それは伝統的な「木造」というより、軍隊の特殊部隊の人が着用するギリースーツみたいな使い方。

 

ギリースーツっていうのは、草や木片みたいな布片がもっさもっさとぶら下がった服。

 

これを着て茂みに隠れていると、周りと一体化して見つからなくなる。

 

隈研吾の自然素材の使い方も、そんな感じが根底にあるような気がする。

 

細部の木材パーツに視線を引き付け、建物の全体的なフォルムから視線をそらす。その存在感を消す。

 

そういえば隈研吾、相当な大男(190センチぐらい)なのに、そういった印象を与えない。存在感を消してるぜ!

 

大学では、宇都宮とか深谷とか、いろんなところで作っているが、一番最近だと東京工業大の滝プラザだろうか。

 

どうでもいいけど、ぐるなびをベンチャー企業と呼ぶことについては、いろいろな考え方があるに違いない。

 

 

⑤    伊東豊雄(1941-)

 

その隈研吾に、国立競技場のコンペで負けた人。

 

好きな人は好きだろうし、そうでない人はそうだろう。

 

イラストで見た段階では、伊東案の国立競技場のほうがかっこいいと思ったが、いざ完成すると、隈研吾のほうがよく思えてきた。

 

人間の美的感覚なんて、適当なものですね。

 

大学キャンパスでいうと、山梨学院大学でしょうか。なんともおしゃれだ。

 

ただ、隈研吾のような、「よく見てみると、頭がおかしい」感はない。

 

あと、筑波大キャンパスの中というか隣にある立体駐車場も、伊東物件だ。

 

個人的には、「メガネが本体なのか、この人?」と常々疑問に思っている。

 

これまた根拠レスの思い込みだが、絶対この人、(マガジンハウスから出ていた雑誌の)オリーブが好きだと思うな。

 

 

⑥    白井晟一(1905-1983)

 

今回のトリは、白井晟一で。六本木ノアビルが代表作。

 

時代を席巻するモダニズム建築家たちに、敢然と「NO!」と言い続けた?人。

 

詳しくは「縄文・弥生論争」でググってください。

 

建築アカデミズムの中では明らかに非主流派だが、根強いファンはてんこ盛り。

 

なんというか、無口で毛深くて闇を抱えてそうな建物ばっかり作る人だ。

 

たまたま電車の窓から見かけた大学に、白井晟一っぽい建物があった。これは「白井じゃねえか?」と、直感した。

 

後で調べたら、その建物はまったく関係なかった。

 

が、その隣の建物と、さらに奥に立っていた建物が白井物件だと分かった。

 

もちろん僕は、その2件の建物からは全く「白井っぽさ」を感じなかった。

 

我ながら、恐るべき眼力だ。

 

 

(その④はこちら)