IAS37引当金、偶発負債及び偶発資産のPartA,B,Cを通読した。

日本基準と比較して読み進めることで、かなり理解が進んだ。

分量も多くなく、ストレスなく読むことができた。

 

  定義

宝石ブルー「引当金」とは、時期又は金額が不確実負債を言う。

 

宝石ブルー「偶発負債」とは、以下2つの要件のうち、いずれかを満たすものをいう

  1. 過去の事象から生じ得る義務のうち、現在は不確実な将来事象が発生するか、またはそれが発生しないことによってのみその存在が確認される義務、および
  2. 過去の事象から生じた現在の義務ではあるものの、経済的便益をもつ資源の流出の可能性が高くないか、または、その金額を信頼性をもって見積ることができないもの

宝石ブルー「負債」とは、過去の事象から発生した企業の現在の義務が、その決済により、経済的便益を有する資源が企業から流出する結果となることが予想されるものである。

 

宝石ブルー引当金の認識要件(以下3つ全てを満たす)

  1. 企業が過去の事象の結果として、現在の法的義務または推定的義務を有しており、
  2. 当該義務の決済のために、経済的便益をもつ資源の流出が必要となる可能性が高く、
  3. 当該義務の金額を信頼性をもって見積もることができる

  一番重要なこと(個人的に)

下記4つの違いを明確に区別できるようにする必要がある。

①買掛金や借入金等(負債計上)

②引当金(負債計上)

③偶発負債 (注記)

④何もしない

 

宝石ブルーまず、①買掛金や借入金等と②引当金の区別だが、「経済的な資源の移転の時期と金額が確実かどうか」により区別される(これは引当金の定義からも間接的に読み取れる)。つまり経済的な資源の移転の時期および金額が確実であれば、①買掛金や借入金等に区別され、そうでなければ②引当金に区別される。

宝石ブルー次に②引当金と③偶発負債 の区別であるが、経済的便益をもつ資源の流出の可能性が高いかどうか、その金額を信頼性をもって見積ることができるかどうかにより区別される(これは偶発負債の定義からも間接的に読み取れる)。つまり、経済的便益をもつ資源の流出の可能性が高く、及びその金額を信頼性をもって見積ることができる場合には②引当金に区別し、そうでなければ③偶発負債に区別されることになる。

宝石ブルーさらに③偶発負債に該当した場合でも、経済的便益の流出の可能性がほとんどない場合には、③偶発負債にすら該当しないことになり、この場合は何もしないことになる。

 

  個別論点

資産除去債務

  • 店舗の賃貸借契約がある場合、当該契約において借手側に原状回復義務が課せられているときは、法的義務が発生しており、金額が未確定であることから、分類としては「引当金」になると思われる。これは日本基準でも同様に資産除去債務として計上されている。
  • 店舗の賃貸借契約に原状回復義務がない場合でも、「推定的義務」の2要件を満たしている場合には、推定的義務が発生しており、かつ金額が未確定であることから(退去は将来のため)、「引当金」になる。日本基準の場合には「推定的義務」の考え方はなく、通常の引当金4要件に従い判定し、将来の費用又は損失であれば引当金計上できることになる。その意味でいうと日本基準でも「引当金」になると思われるが、ただし多くの日本企業の場合、賃貸借契約にて原状回復義務が課せられている場合のみ資産除去債務を計上しているケースが多いと思われる。日本企業では典型的な引当金を、通常の引当金4要件に従い計上していると思うが、IFRSでいうところの「推定的義務」のような引当金まで計上している会社はかなり少ないのでは、という印象である(もちろん金額が大きければ計上しているはずだが)。
 

リストラクチャリング引当金

IAS37で具体的に記載されている。

要するに今後予定しているリストラクチャリングに関して、推定的義務の要件を満たしたら引当金計上することになる。

また、経済的便益をもつ資源の流出の可能性が高くない、又はその金額を信頼性をもって見積ることができない場合には、偶発負債に変身(格下げ)する。

なお、リストラクチャリング引当金は、日本基準では個別に規定されておらず、日本基準の場合は、通常の引当金4要件に従い判定することになるであろう。

 

不利な契約

IAS37で具体的に記載されている。

ある契約から得られる経済的便益よりも、不可避のコストが大きい場合に引当金を認識する。

前提として契約が結ばれていることから、法的義務としての現在の義務が存在すると思われる。なお、不利な契約は、日本基準では個別に規定されておらず、日本基準の場合は、通常の引当金4要件に従い判定することになるであろう。

 

修繕引当金

明らかな日本基準とのGAAP差で、日本基準では引当金を認識するが、IFRSでは引当金を認識しない。(偶発負債すら認識しない)。

理由は、IFRSの場合、引当金や負債の要件として、「現在の義務」を挙げているのに対し、日本基準ではそういった制約がないためと思われる(日本基準の場合、現在の義務でなくとも、将来予想している費用又は損失であれば引当金を認識する)。

修繕引当金の場合、基本的には将来において修繕することを予想しているだけなので、「現在の義務」には当たらない。つまり将来の予定している修繕は、将来に資産を処分する等の要因によって回避することが可能ということを意味している。

 

有給休暇引当金

明らかな日本基準とのGAAP差で、日本基準では計上しないものの、IFRSでは負債計上する。

これは繰越可能な有給休暇日数を、会社が従業員に与えている場合、それは過去に従業員が働いた結果として有給休暇が付与されているおり(つまり会社は従業員から役務提供を既に受け取っている)、かつ期末時点において未消化のもの(つまり従業員は「働かずに、タダでお金が貰える権利」をいまだ使っていない)に対して、負債が認識される。

従業員が翌期以降に未消化だった有給休暇を取得したときというのは、従業員からみると「働かずに、タダでお金が貰える権利」を行使したことになる。

算定式は、有給休暇の未消化日数 × 日給 × 消化率 となる。

 

有給休暇引当金は、日本基準にはない考え方で、よく「有給休暇引当金」と紹介されていると思う。

しかし、本当に「引当金」なのだろうか。

結論からいうと、「未払費用」が妥当であろう。以下、理由を記載する。

  • 有給休暇は未消化のまま消滅した場合、従業員は「働かずに、タダでお金が貰える権利」を放棄したことになる。つまり条件付債務であり、確定債務ではない。
  • 有給休暇は、消化することで企業が支払い義務を負う条件付債務であるため、未払費用のような単なる決算整理に過ぎない経過負債は不適当と思われる。
  • 一方、賞与引当金に関して、会計基準において「財務諸表の作成時において従業員への賞与支給額が確定しており、当該支給額が支給対象期間対応して算定されている場合には、冬季に帰属する額を「未払費用」として計上する」とされている。
  • またその他の論文で、「それまで評価制引当金として取り扱われてきた減価償却引当金がすでに財・用役の費消の事実があるという理由で、引当金概念から除外された。同じように考えれば、負債性引当金に分類されている賞与引当金や退職給付引当金は引当金としての性格を持たないことになる。なぜならば、これらは、すでに、労働用役を提供した対価に相当するものであり、引当金というよりも未払金や未払費用として計上すべきものである」との記載もある。
  • 以上より、期末時点の未消化の有給休暇は、従業員に労働の対価として付与し、単に従業員が消化していないだけであり、提供を受けた労働役務はすでに費消している。つまり、事象は発生しているため、未発生の事象に対して設定される引当金では計上できないことになり、結論として、未消化の有給休暇は「未払費用」として負債計上するのが妥当となる。

 

ではまたふとん1ふとん2

最近、「グローバル・ミニマム課税制度」や「BEPS」という言葉をよく聞くようになった。

インターネットで調べて見たが、具体例を記載している記事があまりなく、全然イメージが湧かず。

・2024年4月1日以降の開始事業年度の法人税から適用となる。

・対象企業は多国籍企業のうち、総収入金額が約1,000億円以上の会社となる。

 

  誤解を恐れずに具体例を1つ挙げたいと思う。

【ケース1】A社が自国で納付(グローバル・ミニマム課税制度なし)

A社は、日本国内にて研究開発活動の結果、特許権を取得することに成功した。

当該特許権によりa製品を製造・販売を開始し、売上高12億円、売上原価2億円、利益10億円の成績をあげ、法人税率30%の3億円を国に納付した。

 

【ケース2】A社が関連会社B社にライセンス供与(グローバル・ミニマム課税制度なし)

A社は、研究開発活動の結果、特許権を取得することに成功した。

法人税率5%のX国を拠点とする関連会社B社に対し、不当に低い価格(100万円)でライセンス供与し、B社ではライセンスを取得した結果、b製品を製造・販売を開始し、売上高12億円、売上原価2億円、利益10億円の成績をあげ、法人税率5%の0.5億円を日本に納付した。

 

【ケース3】A社が関連会社B社にライセンス供与(グローバル・ミニマム課税制度あり)

A社(親会社)は、研究開発活動の結果、特許権を取得することに成功した。

法人税率5%のX国を拠点とする関連会社B社に対し、低い価格(100万円)でライセンスし、B社ではライセンスを取得した結果、b製品を製造・販売を開始し、売上高12億円、売上原価2億円、利益10億円の成績をあげ、法人税率5%の5億円をX国に納付した。

X国の法人税率5%は、グローバル・ミニマム課税制度で定められた最低法人税率15%に満たないため、差分の10%(1億円)は、親会社であるA社が日本に納付した。

 

  上記3つのケースをまとめるとこうだ。

【ケース1】A社グループは、法人税3億円を納付し、日本は3億円の税収を得る

【ケース2】A社グループは、法人税0.5億円を納付し、X国は0.5億円の税収を得る

【ケース3】A社グループは、法人税1.5億円を納付し、X国は0.5億円の税収を得る、日本は1.0億円の税収を得る

 

つまり、グローバル・ミニマム課税が導入されることで、【ケース2】と【ケース3】の10%差に対し新たに課税され、親会社が追加で1億円を納付しなければならなくなる。

なお、当該10%差に対する課税のことを「トップアップ課税」と呼ぶ。

 

  グローバル・ミニマム課税制度の概要

グローバル・ミニマム課税制度は大きく3つあり、その中でも特に中心となるのが「所得合算ルール」(IIR:Income Inclusion Rule)であり、今回題材にした追加の1億円納付(親会社が納付)の部分となる。

 

詳細は割愛するが、グローバル・ミニマム課税制度の3つとは下記のことである。

  1. 「所得合算ルール」(IIR:Income Inclusion Rule)
  2. 「軽課税所得ルール」(UTPR:Undertaxed Profits Rule)
  3. 「国内ミニマム課税」(QDMTT:Qualified Domestic Minimum Top-up Tax)

なお、グローバル・ミニマム課税制度の申告期限は1年3か月後とのことで、通常の法人税の申告期限が3か月なので、通常よりも1年猶予がある。

 

  BEPSとは何か、BEPSとグローバル・ミニマム課税制度の関係性

「BEPS」とは「Base Erosion and Profit Shifting」の頭文字を取ったものであり、日本語では「税源浸食と利益移転」と訳される。日本語では(ベップス)と呼ばれる。

 

BEPSの歴史

2015年:経済協力開発機構(OECD)とG20諸国が協力してBEPS行動計画(全てで15)に関する最終報告書が公表された。多国籍企業による租税回避は、国際的な問題である。多国籍企業が本来経済活動を行っている国から意図的に利益を移転し、本来納付されるべき税金の源泉が侵食されてしまう。

2021年:経済協力開発機構(OECD)は、BEPS包摂的枠組メンバー国のうち約130カ国・地域が、国際課税ルールを見直しを行い、多国籍企業が事業を行う場所において公平な税を負担することを確保するための新たな二つの柱について合意し、公表した。

  1. Pillar 1(第1の柱):新たな課税権と課税所得の配分
  2. Pillar 2(第2の柱):グローバル課税

 

つまりBEPSプロジェクトの一環のうち、第2の柱として「グローバル・ミニマム課税制度」があるということになる。

 

  各国の法人税の実効税率

ちなみに法人税の実行税率が15%を下回っている国が気になったので調べて見ました(OECD諸国に限る、2022年)。

9.0%:ハンガリー

10.0:チリ

12.5%:アイルランド

(参考)25.8:アメリカ

(参考)29.7%:日本

(参考)35.0%:コロンビア

 

 

以上、なかなか手強そうな内容であった。

当記事ではかなり嚙み砕いているため、適切な理解のためには、適切な文書をご参照いただきたい。

ではまたふとん1ふとん2

日本のリース基準だが、新リース会計基準の公開草案が2023年5月に公表されており、早ければ2027年3月期から強制適用されようとしている。

当記事では、わかりやすさ重視で、誤解を恐れずに新リース基準の影響を示していきたいと思う。

  改正内容を簡単にいうと?

従来:借手のリースについて、ファイナンスリース(資産負債計上)か、オペレーティングリース(費用処理のみ)のどちらかに区分して処理していた。2つのどちらかに区分するのでデュアルモデルと呼ばれている。

新リース基準:借手のリースについては、原則として、全てを資産負債計上(オンバランス)する。資産負債計上の1択なのでシングルモデルと呼ばれている。

 

従来はオペレーティングリースとして判定さえしてしまえば資産負債計上(オンバランス)せずに費用処理だけで済んでいた(つまり契約内容をイジることで判定結果を操作することが出来ていた)。

しかし新リース基準により全てのリースが資産負債計上(オンバランス)されることとなる。そして資産計上された「使用権資産」は減価償却され、負債計上された「リース負債」は利息法により支払利息が計上される。

 

今回の改正の目的は、IFRS16(国際財務報告基準のリース)との整合を図ることである。

公開草案を隅々まで読んだ。なんならIFRS16にも目を通した。

  • 企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」
  • 企業会計基準適用指針公開草案第73号「リースに関する会計基準の適用指針(案)」

  新リース基準を、仕訳から考えてみよう

※簡便化のため、割引計算は除外

<設例1>

店舗の賃貸借契約を賃貸借期間5年で締結した。賃料は月額200,000円である。

虫めがねリース開始日の仕訳

借方 貸方
使用権資産 12,000,000円 リース負債 12,000,000円

※200,000円×60か月(5年)= 12,000,000円

 
宝石ブルー従来のリース基準では、下記のとおり、現在価値基準や耐用年数基準に基づき、ファイナンスリースかオペレーティングリースの判定を行うこととなるが、基本的にはどの企業もオペレーティングリースとして判定していたと思われる(つまりオンバランスせず、発生時費用処理のみ)。
宝石ブルーそれが新リース基準では、上記仕訳のとおり資産・負債計上としてBSにオンバランス処理されることとなるため、これからは新リース基準が導入されることでBSが膨らむこととなる。
 
<従来のリース基準の判定>
現在価値基準:リース料総額12,000,000円÷見積現金購入価額100,000,000円=12%は、ファイナンスリース要件となる90%に満たないため、オペレーティングリースと判定される。
耐用年数基準:国税庁の耐用年数表では「鉄筋コンクリ ート造」かつ「店舗用」は39年である。当設問の賃借期間は5年となり、5年÷39年=13%は、ファイナンスリース要件となる75%に満たないため、オペレーティングリースと判定される。
 
宝石ブルーここで、公開草案には記載がないが、めっちゃ重要だと思われることを記載する。
 →会社法により監査が必須となるのは資本金1億円以上または負債総額200億円が対象となるが、新リース基準の資産負債計上(オンバランス)により、負債総額が200億円を超えてしまうと、なんと会社法監査が必須となり会計監査人を選任しなければいけなくなる。多店舗展開している企業だと従来は店舗の賃借契約をオペレーティングリースで費用処理していたところが、新リース基準により資産負債計上(オンバランス)され、結果として負債200億円を超える→会社法監査が必須の企業として分類されることになる、ということである。恐ろしい。
 

<設例2>

店舗の賃貸借契約を賃貸借期間5年で締結した。

賃料は歩合賃料の契約であり、月の売上高×8%である。

虫めがねリース開始日の仕訳

借方 貸方

宝石ブルーこの場合、資産負債計上(オンバランス)できず、仕訳はなし となる。
宝石ブルー公開草案では、「固定リース料」ではないものを「変動リース料」と呼んでおり、変動リース料の中でも「将来の活動を通じてリース料を支払う義務を回避することができる」場合には、資産負債計上(オンバランス)せず発生時費用処理のみが要求されることとなる。
 

<設例3>

店舗の賃貸借契約を賃貸借期間5年で締結した。賃料は月額200,000円/年である。

なお、賃貸借契約書には追加で5年延長できるオプションが盛り込まれている。

当該店舗に関して、事業計画では10年営業することが計画されており、過去実績としても10年で店舗閉鎖している。

虫めがねリース開始日の仕訳

借方 貸方
使用権資産 24,000,000円 リース負債 24,000,000円
※200,000円×120か月(10年)= 24,000,000円
 
宝石ブルー新リース基準では、資産負債計上(オンバランス)する金額は、「借手のリース料」×「借手のリース期間」で求めることとなっており、「借手のリース期間」は契約における解約不能期間に延長オプションや解約オプションを加えた期間とされている。
宝石ブルー当設例の場合、延長オプションが5年とされており、事業計画や過去実績から見ても延長オプションを行使することが合理的に確実であるため「借手のリース期間」は10年となる。
宝石ブルーなお、従来のリース基準では、上記のような定めはないので、賃貸借契約書に記載の期間(当設例でいうところの5年)を用いての計算のみだったと思います。

 
ちょっと、1つの記事では新リース基準の影響を書ききれないので、
続きはまた別記事にしようと思います。
 
ではまたふとん1ふとん2