ロッキーを育てた名伯楽チャーリー・ゴールドマン！
（Charley Goldman）
ヘビー級の歴史に残る名王者となったロッキー・マルシアーノを育てた専任トレーナーであった名伯楽チャーリー・ゴールドマンは雑誌インタビューで指導した日々を語っている。
先ずはチャーリー・ゴールドマンの経歴から紹介しましょう。
チャーリー・ゴールドマンは元選手で現役時代はニューヨークを拠点に活動していた。
本名：イスラエル・ゴールドマン
出身：ポーランド・ワルシャワ（移民の米国人）
生年月日：１８８７年１２月２２日 生れ。
没日：１９６８年１１月１１日（享年８０歳）
階級：バンタム級
身長：１５５ｃｍ（バンタム級でもかなり小柄だった）
スタンス：不明
★公認試合３６戦２８勝（１９ＫＯ）６敗２分
★非公認試合（記者採点試合）８９戦３６勝２６敗２７分
非公認試合の記者採点とは当時、新聞社のボクシング担当記者が採点した公認試合とは別に開催されていた非公式試合のことをいう。
分かり易く言えば、エキシビションマッチ色濃いキャリアを積むための試合だったようです。
しかし、名のある選手に勝利すれば、当時権威があって世界戦として認定していたニューヨーク州公認（現在のＮＹＳＡＣ＝ニューヨーク・アスレチック・コミッション、現在もニューヨーク州での試合の認定団体）の世界挑戦資格者ランキング名簿に記載されて王座挑戦のチャンスが与えられたといいます。
つまり、現在のプロボクシング各認定団体の礎ともなる公認団体だったということになります。
チャーリー・ゴールドマンは１６歳の時１９０４年６月１８日にヤング・ガードナー（米国）との対戦で引分けデビュー。
公認試合と非公認試合（記者採点）を交互にキャリアを積み上げる。記者採点試合では１９１２年１１月２０日、当時の元ニューヨーク州公認バンタム級世界王者ジョニー・コウロン（米国）とノンタイトル１０回戦を戦い新聞記者（５者採点）判定は（２者がドロー判定、３者がコウロンの勝ち）と判定負けに終わっている。
この元王者に勝っていれば、公認試合での世界挑戦のチャンスもあったという。
その後、名のある選手との対戦もタイトル戦にも恵まれなかった。
１９１８年４月８日、中堅でベテランのボビー・ウォー（米国）戦で反則まけして４連敗となった為、これが最後の試合となり引退となった。
現役時代は技巧派で優れていたものの、非公認の記者採点試合では移民者だったことから「よそ者扱い」を受けて判定負けの半分以上は勝っていた試合も地元贔屓にあって負けにされたという。
公認試合ではかなりいい戦績を残しているのが分かる。
これを切っ掛けに如何にジャッジアピールさせる攻撃が必要なのかを後輩に教えているうちにトレーナーとして転身する。
そして、当時「拳聖」の異名で後に伝説的世界ヘビー級王者となったジャック・デンプシーが所属していた名門STILLMAN’S GYMに招聘されたことで、本腰を入れた専属トレーナーとなった。
その後は指導振りが評判となり、後にC.Y.O. GYMにスカウトされ移籍して専属トレーナーに就任。
後に入門してきたロッコ・フランシス・マルケジャーノ（後のロッキー・マルシアーノ）と運命的な出会いで専任トレーナーとなった。
その他にも、古くはニューヨーク州公認（現ＮＹＳＡＣ）世界ミドル級王者アル・マッコイ、ニューヨーク州公認世界ライト級王者ロウ・アンバース、ＮＢＡ（後のＷＢＡ）世界フェザー級王者ジョーイ・アーチバルド、また、歴史的名選手のシュガー・レイ・ロビンソンやロッキー・グラジアーノと対戦して当時のボクシングファンを熱狂させたＮＢＡ世界ウェルター級王者のマーティ・サーボなども育てあげた名伯楽であった。
チャーリー・ゴールドマンは指導者としてロッキー・マルシアーノに出会った時から日々のことを雑誌インタビューで語っている。
ゴールドマン：「あいつは、最初に会った時、ボソボソともの言う気の弱そうな印象を受けたんだ。アマチュア上がりでそこそこは基本が出来てると思ったが、そうではなかった。デビュー前からワシがずーっと面倒見たが、基本から直す所がいっぱいあったね」
「まず、パンチは人一倍あったが、動きはグニャグニャしてダメだった。まるでアコーディオンのジャバラのようだったなあ。構えるスタンスが悪いからガードもよくなかったし、パンチを繰り出すコンビネーションも悪かった。もう長いラウンドじゃヘタばると思ってもっと動作の速い運動をさせたり、長い距離を走らせスタミナを付けるようにさせたんだ。デビュー戦は運よく３回ＫＯ勝ちしたが、力任せの腕力だけで倒してテクニックは全然ダメだった」
「なにしろヘビー級で戦うには体重が軽くて小さいから長くは続けられないと思ってライトヘビー級を勧めたんだが、あいつは一番重いヘビー級にこだわったんだ。出来るだけ体重を増やそうとも思ったが動きが鈍くなるので無理に太らすことはあえてさせなかった。それよりももっと筋力を付けパワーを付けさせたんだ。数カ月後になって数段逞しくなってた。それが後になって試合に役立ったと言うことだね」
「２年目に入って１２戦全勝１２ＫＯしての連勝中だった時期、攻撃力は徐々にアップしたんだが、動きのなさは相変わらずだった。まだ粗削りな部分もあってパワーだけで倒していた。確かに、パンチの威力だけは増していったんだよ。それでもまだ不安定だったから以前よりもっと走らせ持久力を付けて攻撃テクニックを進化させれば試合に活かせると思ったね。それをメニュー通りマルシアーノはやってくれたんだ」
「あいつは、ワシが今まで見てきた選手の中で一番ハートのある奴だった。教えがいがあったよ。技術じゃまだまだぎこちなかったが、それでも努力してた。それに練習が終わると後輩には面倒見のいい優等生だったね。ただ、リングに上がると自分勝手なところがあって、それだけが唯一心配の種だったがね。あのジョー・ルイスと戦った時はハラハラもしたが完璧だった。もうあの時ばかりはワシも舞い上がったんだが、頂点まで行けると確信したんだ」
「王者のジャーシー・ジョー・ウォルコットや挑戦者のイザード・チャールズやアーチー・ムーアの時にゃどうなるかと思ったが、あいつらしい試合になったね。動きが良けりゃもっと楽な展開になっていたはずなんだ。しかし、パンチの破壊力も増して隙を見るのが上手くなっていた。あいつにはボクサーらしからぬところもあって倒した相手の心配ばかりして泣きそうな顔もしてた。リングの５９分間だけ野獣になったのさ。プロボクサーとしてね。一番の思い出はジャーシー・ジョー・ウォルコットを倒してマルシアーノが王者に就いた時だね。もうそれは足が地に着いてない思いだった。あの日は家に帰って暑い日も、寒い日も、同じ屋根の下で練習に取り組んだ時の事を思い出したよ。それから王者になって４年後に引退した時にゃ心配もしなかった。あいつならもう何の仕事もこなせると心配もしなかったね。ワシのトレーナー人生に神様が与えてくれた選手だったんだ。本当にトレーナー冥利に尽きたとマルシアーノには心から感謝しているんだ。また、いつか何処かで会おう。ありがとうマルシアーノよ！」
（１９６７年スポーツ・イラストレイテッド誌）
（現役時代のチャーリー・ゴールドマン）
スポイラ誌に掲載された翌年の１９６８年１１月１１日、マルシアーノが父親のように慕っていた名トレーナーのチャーリー・ゴールドマンは若い選手を指導中に心臓発作で倒れ、病院に搬送されたがそのまま帰らぬ人となりました。
まさに、ボクシング一筋の人生でした。（享年８０歳）
【１９９２年・国際ボクシング名誉の殿堂博物館 殿堂入り】
〜〜〜〜〜其の１０に続く！
【CHARLEY GOLDMAN WEBSITE &WIKIPEDIA・参照】
【ROCKY MARCIANO OFFICIAL WEBSITE・参照】
