一日30分程度のうっすら汗ばむ程度の有酸素運動…

 血糖値を下げ動脈硬化の進行を遅らせ健康にいいのは分かっている。
 で、暖かくなってぼちぼち家の近くを散歩で回ったりしている。

 田園地帯だった近隣も結構様変わりして新しい家が建っていたり
 小道に入ると田舎の暮らしが残っていたり…
 散歩を始めた当初こそ新鮮だった。

 が、ルートを変えながらあちこち(車いすで)歩いても
 我が家から出て我が家に帰るのだから次第にあちこちの道も見慣れた風景になってくる。

 次第に感動が薄くなる。


 GWが終わった週の水曜日、
 冷蔵庫の中のものをほぼ食べつくし仕方なく身支度をしてスーパーに買い出しに行く。

 昔と違って今ごろは外に出て帰るとぐったりと疲れる。
 その日も昼過ぎに帰って買ったもので昼食を済ませ(外出のため我慢していた)コーヒーで一服。

 常と違ってなぜか少し元気が出る。

 身支度もしたままだし、ちょっといつもと違うところを散歩してみようか…
 
 午後3時を過ぎていたが出かけた。

 車で10分もかからない所に小さな漁村がある。
 夏は海水浴場となる砂浜もあるところだ。

 漁船が繋がれている岸壁近くの空き地に車を置き手袋(必須アイテム)をはめて散策開始。
 この時間の漁港は人っ子一人いない。
 突堤にはよく釣り人がいるものだがそれもない。

 ただ遠くに海鳥が旋回してその鳴き声が聞こえるだけ。

 防波堤の出入り口を抜けて家々が連なる通りに出る。
 狭い道だが元々は参勤交代の隊列も通った旧道らしい。

 ここでもほとんど人に出会わない…

 錆びたトタンの外壁にあの有名な絵を発見。
 他にも幾つかイラストが描かれているが建物は喫茶店とか商店とかではなくごく普通の民家の壁だ。
 しかも通りから少し外れほとんど人目につかない場所。

 まさかバンクシーがここまで来たわけでもないだろうが…

 ときおり前後から来る車を道端に寄って避けながらてくてくてく…
 古民家を改造したと思しき施設が目に入る。

 「デイサービスセンター○○」

 そういえばここに来る途中の道で介護用品の店も目にした。
 この手の看板はけっこう頻繁に見る。

 人間(人生)到る処に青山あり
 日の本至る処に介護施設あり…

 家並みの裏側は砂浜と松原が細長く伸びている。
 対面する家並みの裏手は線路とその向こうは田畑だ。

 通りにはかつては色々な小売店が並んでいた形跡があるが今は店らしきものは1つも無かった。

 しばらく進むと無人駅へ進む短い道とのT字路に出る。
 駅前には駐在さんの住む家。この建物はそう古くはない。

 対面には確か小さな大衆食堂があったはずだが既に空き地となっている。

 この地区を散策するのは初めてではない。
 かなり昔にも夏の暑い盛りにこの地区をやはりうろついた覚えがある。


 かき氷の旗を見て薄暗い店内に入るも誰もいない。
 呼ぶと奥の調理場か居室と思しきあたりからおばさんが出てくる。

 苺のかき氷を頼むと冷蔵庫から四角いブロック氷を取り出し昔ながらの削り機に乗せる。
 ガラスの器とステンレスの匙…子どものころ食べたそのままの景色がその店にはまだ在った。

 皿を私のところに運んだあと、削り機を見てちょっと思案していたおばさんは角氷の残りをセットして削る。
 削り機の前に腰掛けを持ってきて座り黙ってスプーンを口に運ぶ。

 シャクシャクシャク…

 かき氷の山を少しずつ匙で崩しながらひたすら口に運ぶ私。

 シャクシャクシャク…

 同じように少し奥でかき氷を口に運んでいる店のおばさん。

 暑い夏の日の昼下がり。静かな大衆食堂の懐かしい思い出は20年、いや30年くらい前だろうか。
 夏になったらもう一度あそこでかき氷を食べたい…そう思っていた店は既に跡形もなくなっていた。

 駅に着いても列車から降りてくる人もいなければ待合室で列車を待つ人もいない。
 駅前のささやかな広場の片隅、
 ベンチに腰をおろした地元の2人のお婆さんが談笑しているだけだ。

 T字路まで戻り通りを先に進む。

 古い日本家屋に混じって中には洋風の建物もあるがこれも筑後数十年は経っている感じだ。
 海辺の建物らしくフェンスや壁は白く塗られている。
 
 家々が軒を接して連なるこの手の各地の通りの例にもれず
 かつては家があった区画があちこち歯が抜けたように更地になったり、草が伸び放題の空き地になったりしている。
 中には建て替えた新築の家も混じる。

 それらの景色を眺めながら車を置いた場所から1kmあまりも進むともう集落の端だ。
 これから先は道は踏切を経由して幹線道路につながる。

 引き返す道すがらもすれ違う地元の人は数えるほどしか居ない。
 車いすの私を警戒しながら小走りに前方を横切っていく猫の方が多いかもしれない。


 手頃な近場で、一時間あまりのちょっとした旅気分を満喫して帰途につく。
 かつてはこうしてひたすら見知らぬ土地、久しぶりの場所を求めてはうろうろと散策するのが大きな楽しみだった。

 歩き回っても楽しいことは疲れない。
 気が付けば今度はどこを攻めて(歩いて)みるかと思案をめぐらせている。

 で、散策道楽はこの日だけで終わらなかった。

 ようやく虫が騒ぎ始めたか?