ネットで買った持続自己血糖測定器で血糖をはかっている私。
 いままでに無かった低血糖アラートにおののき糖尿病専門外来に行ってみることに。
 どうすれば満足のいく診療を受けられるか? 
 模索する私を面倒極まりない性格のもうひとりの私、「自分X」が悩ませる。

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 4人の常勤医師の中の部長は実は8年前に母が転倒がもとで救急搬送されたときの別の病院にいた。
 その時から専門は糖尿病だったのだが、搬送されたのが大晦日の夕方でその医師が当直だったため主治医となった。

 もともとその公立病院には母は骨粗鬆症の治療で半年ごとに通っていたから、その整形外科医が主治医になるはずだがその先生は非常勤で週に何回かしか病院に出てこない。
 だから母のベッドの上には主治医として糖尿の専門医と整形外科医と二人の先生の札がかかっていた。

 知っている医師だと、そのぶん親身に聞いてくれるかもな…まあ相手が憶えているとは思えないが。

 と「自分X」

 確かに主治医と言っても毎朝の回診にはちらっと病室の母の顔を見てすぐ立ち去る程度だったが
 4カ月半の間、母は不穏が強くて大部屋で大声を出したりして途中から退院日まで私は母のベッドの傍らに寝泊まりするようになった。

 もしかしたら私を憶えているかもしれない…

 糖尿病医師としての腕は分からないが、糖尿病学会専門医等、他にも専門医・認定医の肩書がある。
 所属学会が書いてあるだけの他の二人の医員よりは当然知識豊富だと思うのが自然だ。

 この曜日にしよう。この日は主任部長と部長のどちらかで若手に当たることはない

 Xが言う。外来担当一覧表を見ると確かにどう転んでも若手には当たらない曜日がある。
 もし主任部長の方に回されたところで、こちらも幾つか学会の肩書はある。ただ糖尿の専門医ではなく血液学会の専門医だが。

 おや前からここに居た主任部長の方が2歳若いな。(卒業年)
 部長がこの病院に来たのは2、3年前かな。公立病院から引き抜かれたのかもな…肩書の付け方に病院側の苦心のあとが見えるなあ。


 Xがぶつぶつ呟いている。どうでもいいんじゃないの?そんなことは…
 なんだかんだ言っても結局、資格とか肩書? …と私の心の声。


 それにしても本当にこういう基準でいいのだろうか?
 評価する材料がほとんどないとき診てもらう医師はとしては、まだ医師となってあまり長くない若手より、
 資格も多くて経験豊富な年配の医者の方を選ぶべきだろうか? 特に初診の場合は…

 確かに熟練の医師は、若手だったら聞き逃してしまいそうなシグナルを、キーワードの幾つかを敏感にとらえて隠された病因を的確に探りあてるだろう。
 …患者のとりとめのない心配や訴えを真剣に聞いてくれる医者ならば、だが。


 私は人の似顔絵を書くのがわりと好きだ。
 別に習ったわけでもなく単に素人の戯れなのだが、結構「似てる」と言われる。

 肖像画というより簡単な線描のマンガみたいなものだが、目や鼻や口というパーツごとに幾つかのパターンが自分の中に用意されている。
 で描く相手を見て(この人の口はアレ…鼻はコレ…)と判断して組み合わせるだけ。

 世の多くの似顔絵の絵師もそうしているのかもしれない。

 毎日毎日、外来待合室にひしめく多くの患者を診て来たベテランの医師にも、もしかして多忙さが同じようなことを強いているのでは?

 予め看護師が聴きとった問診票をざっと見る、病歴をざっと見る
 おどおどと診察室に入って来た患者をざっと見る。
(ああこれはこのパターンか…)一言二言患者と言葉を交わすが心の中ではもう診断はついている。はい、次の方…
 充分に準備をして臨まないとたいていこうあしらわれる!
 診断は99%はその通りだろうがもし1%の間違いのケースが自分のときだったらそれでいいのか!?


 またまたXがわめきだす。私は頭が痛くなった…

 では経験の浅い若手医師の方が、初診の場合は望ましいというのか?
 確かに経験の浅い若手だったら、それを補う意味でもベテランの年配よりひとつひとつ真剣に親身に聞いてくれそうな気もする。
 でもシグナルをキーワードを…うーん、うーん。(悩・迷・悩・迷)


 で、診察日当日招き入れられたのは首尾よく第一希望?の部長の診察室だった。

 結論から言うとここに書いた懸念が当たったようなそうでもなかったような…

 (続く)