パッド交換でヘルパーが母のズボンを下ろす。
 ポータブルに座らされた母の足を、改めて間近で見て息をのむ。

 なんと細い足だ…

 ふくらはぎも、膝から上もげっそりと肉が落ちている。
 これではもう立てないはずだ。
 そして保護のアームカバーを外した腕は骨に皮がくっついている。

 前からヘルパーさんが抱えて立たせる。
 足を「く」の字に曲げたまま膝をベッドと直角にしたサポートバーのボード部分に押し付けて、まだ何とか立っていると思っていた。
 実態はヘルパーさんにひっ抱えられて、ぶら下がっているだけなのだ。

 「そろそろリハパンをオムツに変えてもらってベッドの上で…」

 ヘルパー責任者の佐藤さんからかなり前から提案されていたが、浮かぬ顔の私に

 「そのうち様子をみながら…」

 ということになっていた。
 今回の濃厚接触者騒動で、手早く介助を終える必要があると思い、とりあえず、ここしばらくベッドに寝たままの交換を私から申し出た。

 デイではいつの間にかもう寝たままのパッド交換に変わっている模様。
 母の状態では不満は言えない。

 「お願いがあるんですが…」

 「ゆとり村」の鈴木さんと話したときもリハパンの代わりにオムツを持参してくれないかと言われた。
 買い置きが無くなり次第ということに。

 もう踏ん切りをつけるときかもしれない。また一歩、降りる…


 「どうしますか?」

 ショートがキャンセルになった翌朝、パッド交換と車いすへの移乗に来たヘルパーの高橋さんが聞く。
 どう…とは、車いすに乗せるかこのままベッドに寝かせておくか、だ。

 「車いすに…」

 一瞬ためらったあと小さな声で答える私。


 「まだ”寝たきり”にしたくないんですね、分かります!」
 「…とーってもよく分かります!!」

 高橋さんは佐藤さんと同じく5年前から母の介護に携わっている。
 そんなによく喋る人でもないが、立て続けのこのリアクション。

 自分の近親か、或いは訪問する利用者家族の中に私と同じ思いを抱く人を何人も見ているのだろう。


 食べるときもあるが以前にくらべれば口にする量は激減。
 介護食器がなければまだ少ない量だったろう。

 何もしなくても命をつなぐだけで必要なカロリーは1200kcal…

 とてもではないが摂れてはいない。
 飢餓状態になったとき人間の身体は自分の身体から生きていく栄養をとる。

 まず消費されるのは体内の脂肪ではなく筋肉だと聞いたことがある。


 飢えると自分の足を食べるという(実際は違うらしいが)蛸のように…

 飲食を拒む母は自分の手足を食べている。


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 母の濃厚接触者騒動、4日目になっても特に発症の気配はなくどうやら感染は免れた模様。


 (固有名詞は仮名です)