キスからその先は。-15- | もぁらすの遊び場









ゆっくりと横断歩道を戻る。



「ごめん」



胸の奥が軋んで痛い。


田村が俺でいっぱいになったらいいのに、と願っていたはずなのに、



泣き顔を見たら後悔しかなかった。



泣かせたかったわけじゃないのに。

 

 

唇をぎゅっと閉じた田村の口からは、何の返事もない。







「ごめん」



何か返事が欲しい





「先、帰って──ください」


 


震えた声で俯いたまま田村が俺を押し返した。





バカな確認だとは、わかっていても。



男、ってやつは、その言葉が欲しい。


 



「泣かせてるの、って。……俺の、せい?」
 

 

 

 

大谷に言われた言葉を信じてないわけじゃない。


目の前で泣きじゃくってる田村が、演技をしてるなんて思ってない。

 



「早く、行ってくださいよ」


 

ぐいっと、また俺を押して急かす田村のその手を掴む。




「答えて」



「何をっ……」



「泣いてる、理由」

 

 

 

「そんなの……っ」




聞きたいんだ。


溢れ出る感情が抑えきれないその理由が、




俺だ、って。




くい、っと掴んだ田村の腕を引くと、俺は足早に横断歩道を歩きはじめた。



「ちょ、っ……先輩」



点滅していた信号を渡り、タイミングよく変わった信号のある次の横断歩道をまた渡る。



俺は自分のマンションを通り過ぎ、田村のマンションに向かう。

 

 

「……先輩っ」



その田村のこえに、ゆっくりとスピードを落とす。


そして、──田村のマンションの目の前に到着した。







「これ、大谷から」



ポケットから出した合鍵を田村の手の上にぽとりと置いた。


 


「……こ……れ」

 

 

 

「返す、って」



「……大谷くん……が?」



「本当は、すぐ渡そう、って思ってたんだけど」

 



「……」




そこまで言って、罪悪感が胸を締め付ける。



俺がもっと、早くに行動に移していれば。






「……許して、もらえる気がしなくて」



「……何が、……ですか……」



「俺が、田村にしたこと、全部」



「な……に、を──」





 


傷つけて、


泣かせて、




1人にして、



「ごめん」





「ごめんばっかりじゃ、何もわからないです──」




乾いたように見えた田村の瞳は真っ赤になっていて、また潤みはじめる。







 

 

「好きなんだ、ごめん」




「……」








「たぶん、ずっと好きだった」

 

 

 

 

 

 もっと、早くに伝えれば良かった。


自分が傷ついて、被害者ぶって、



また、同じ傷に耐える自信がないから、って




だからって、田村を泣かせて良いはずなんかなかった。



なのに、田村が俺のために泣いてくれることが、こんなにも心を熱くさせる。