本日は、最近読んでおもしろかった書物です本

 

 

 

 

 ・恩田 陸 「蜂蜜と遠雷」(幻冬舎文庫,2019)

 

 

 著者は1964年宮城出身の早大卒。デビュー作はドラマにもなった 「六番目の小夜子」。当ブログでは以前 「ねじの回転」 を記事にしていました。

 

 本作は幻冬舎の 「星星峡」(2009年4月~2013年12月)、「PONTOON」(2014年1月~2016年5月) と7年に渡って連載された長編。2016年9月に単行本になると、同年下半期直木賞、2017年第14回本屋大賞をダブル受賞しました。2019年10月には東宝映画公開、という近年の大ヒット/名作です。

 

 ブロ友さまのドキドキ感さんが記事にされており、このたび読んでみた次第です(↓)。マネっこばかりで恐縮至極。そうでもないと手に取る機会のないジャンルなもんでニコニコ

 

 

 

 

 第6回芳ヶ江国際ピアノコンクール。注目度の高いクラシックピアニストの登竜門に挑む若い天才たちの奮闘を、エントリーから第一次予選、第二次予選、第三次予選、本選と丁寧に描いていく、トータル920頁に及ぶ大著です。といっても文章が優しいので(平易という意味ではありません)、実に読みやすく内容に惹きこまれていきます。

 

 登場人物は群像劇。養蜂家に育ったあどけない16歳、風間 塵と、日本に在住したこともあるアメリカの超エリート、マサル・カルロス19歳、天才少女と謳われながら母親を喪ったことでピアノに背を向けた20歳の栄伝亜夜、妻子ある28歳のサラリーマン高島明石の4人が中心です。

 

 それぞれに生い立ちや葛藤を抱えており、コンクールが進むごとにそれらの背景が明かされながらコンテストの緊張感や精神面の成長が描かれ、音楽芸術の素晴らしさに昇華していく壮大なストーリーです。なるほどこれは本屋大賞だわぁ。

 

 巻末の担当編集者による解題によると、7年71回に及んだ連載はたいへんな労作だったそうで、2006年11月の 《浜松国際コンクール》 の取材に始まり、連載開始は2009年4月。そのあとも同コンクールには3回足を運んだそうです。

 

 演奏だけでなく裏方スタッフの運営の様子、審査員のやりとり、報道陣なども取材するのかと思いきや、なんと恩田さんは2週間ほどの開催期間中、連日7~8時間に渡ってコンテスタントの演奏をひたすら聴いていたそうです。編集者がヘキエキしたという(笑)。

 

 ピアノコンクールというのは年によって特徴があり、東欧が優勢だったり韓国や中国の新星が登場してきたり、非エリート演奏家の健闘があったりだそうなので、現実のクラシック界事情が作品に如何なく活写されているのでしょう。

 

 創作が長年に及んだことで、ストーリーはスポンテニアスというか、当初の著者のプロットを越えて登場人物が勝手に動き出したように見受けられ、あれ、終わってみればこの人の物語だったのか、という印象でした。それは良い方に作用したと思います。

 

 読んでいる終盤の10月3日、偶然にもNHK BSプレミアムで映画版が放映されてました。画で見ると印象変わりそうなので読了のあとちらっとチェックしてみましたが、やはり役者が演じるとキャラクターのイメージがリードされますね(苦笑)。

 

 序盤の印象的な描写、雨の夜に物置小屋のトタンを叩く雨音を 「雨の馬が走ってる」 と例えたつぶやきが、映画だと冒頭の画になってるという...文章の方が詩的ですよねぇ。

 

 音がわからないにも関わらず、本の描写はピアノが鳴ってるかのよう。思わずみつまめ父のダッシュボードにあったクラシックのCD全集から、ショパンのピアノ協奏曲第一番を出して聴いてみたほどその気になった(笑)。おもしろかったです。カメマル。