本日は、最近読んでおもしろかった書物です本

 

 

 

 

 ・恩田 陸 「ねじの回転 FEBRUARY MOMENT」(集英社文庫,2005)

 

 

 2002年12月出版の単行本が2005年12月に文庫化。

 著者はドラマになった 「六番目の小夜子」 でデビューした方ということしか知りませんでした。女性だったんですね(笑)。

 

 前にブロ友さまが感想を記事にされており(→こちら)、かの “二・二十六事件” が題材のSF小説ということに惹かれ読んでみました。

 

 当ブログでは日本史シリーズで二・二十六事件をやっているうえ(→「帝都に降る雪」)、小説ではこれまたブロ友さまに教わった宮部みゆきさんの 「蒲生邸事件」 を読んだこともあり(→こちら)、興味の尽きない題材なのです。

 

 時は1936年2月26日、時間遡行装置を実現させた人類と国連は歴史に介入できることになり、その代償として悲惨な未来を招いてしまいました。

 

 それを修復するため、人類のターニングポイントを日本の二・二十六事件に設定、軍部の暴走から太平洋戦争での破局に至る歴史の流れを改変しようとします。

 

 もし描いた筋書きどおりに事が運ばなかったら不一致としてやり直し。協力者として決起側の安藤輝三大尉、栗原安秀中尉、そして鎮圧側の石原莞爾大佐には真相を知らせています。この3人は実在です。

 

 しかし国連の描いた筋書きとは何なのかの疑心暗鬼、そしてやり直させられ、2月26日を何度も繰り返させられる3人の戸惑いは、思いがけない事態の展開に翻弄されます。

 

 昔流行った架空戦記など、歴史改変のテーマは、“結局、歴史は変えられない” というどうしようもない宿命を抱えています。

 SF小説とはいえ、二・二十六事件は鎮圧され、その後軍部の台頭で日本が戦争に突き進む事実は曲げられない。それをどう収拾するか、の意味ではよく練られ、濃密な物語ではありながら、やるせない結末を迎えます。

 

 人類は過去から学び、より良い未来を作る努力をするしかない- そんな著者の意図は共感できるものでした。

 

 もし二・二十六事件がなかったら、あるいは決起側の主張が通ったら、歴史は変わっていたかについては、自分は懐疑的です。青年将校たちとて対外強硬を主張していたので、国力を越えた膨張政策に奔ったあげくに破局、という結果は変わらなかったでしょう。

 

 二・二十六は謎が多い、と言います。

 それは、明確なビジョンのない、いきあたりばったりな事件だったからです。歴史上の出来事はぜんぶがぜんぶキレイに説明できるものではない。むしろ偶然の産物が多いのです。

 

 ひとつ、終戦工作を渋る軍部が最後まで固執した 「本土決戦」 「一撃講和」 とは何が目的だったのかというと、とりあえず本拠地で犠牲を厭わず戦えば一戦には勝てる。そのあと外交により有利な条件で米英と停戦交渉しよう、という軍部究極の責任逃れだったのです。おれたちは役目を果たした、あとは外務省よろしくね、という。

 

 それは停戦交渉の切り札としてアテにしていた、ソ連の対日宣戦布告によって露と消えます。駐ソ大使は本国に対して、ソ連は交渉どころか戦闘準備に入っている、と何度も報告していたにも関わらず、現実から目を背け、都合のいい期待を抱いた軍部はそれを無視し続けたのでした。

 

 

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