本日は、最近読んでおもしろかった書物です本

 

 

 

 

 ・伊坂幸太郎 「オーデュボンの祈り」(新潮文庫,2003)

 

 

 ブロ友さまのドキドキ感さんが記事にされており興味を惹かれました。

 

 

 著者は1971年千葉出身で、これが2000年単行本初出のデビュー作。

 以後 「重力ピエロ」 「アヒルと鴨のコインロッカー」 「グラスホッパー」 「ゴールデンスランバー」 などなど映画化されたヒット作の多い、当代きっての人気作家さんと言えましょう。

 

 奇しくも、自分も以前読んだ 「マリアビートル」(過去エントリー) がなんとブラッド・ピット主演でハリウッド映画化、本日9月1日に公開されるという話題もあります。

 

 ‟僕” こと伊藤は務めていた会社を辞め、恋人静香と別れ、やぶれかぶれでコンビニを襲い逮捕。護送の途中でパトカーが事故を起こしたので逃走すると、気づいたときには見知らぬ離れ小島にいました。

 

 そこは仙台から離れた荻島。かの支倉六右衛門が慶長遣欧使節からの帰国後に隠棲した場所らしい。幕末から150年に渡って外界との接触を断っているという、信じがたい孤島でした。

 

 島ではなんと人語を話し、未来を見通せる不思議なカカシ・優午(ユーゴ)が住民の生活の指針。ヨソモノである伊藤が出会った人はいずれも ‟クセ強” な性格の持ち主でした。

 

 伊藤が訪れた次の日、優午はバラバラにされ、頭を取られた無残な姿で発見されます。つまり殺害されたのです。

 

 不可思議なカカシ殺人事件。いったい誰がなんのために。それより、未来を見通せるはずの優午はこうなることを予期できなかったのでしょうか...

 

 

 なんともシュールな世界。ブロ友さまの記事である程度の予備知識があり、覚悟のうえで挑んだ本でしたが、馴染むまでに途絶を繰り返しました。デビュー作でよくこんなヘンな小説が採用されたものです。作家も編集者もそのセンスおそるべし。

 

 タイトルのオーデュボン、というのは19世紀の動物学者で、アメリカでリョコウバトを発見し、画集を残しました。

 数十億羽単位で群れをなした鳥。しかし人間の壮絶な乱獲に遭い、発見からたった数十年で地上から姿を消したと言います。自分は初耳でしたが、検索したらまったくの実話だそう。

 

 オーデュボン、そしてリョコウバトの悲劇に仮託して、「人間は失ってみないと、ことの大きさに気づかない。そして悲しい結末に向かうことを誰も止められない。ただ、願い祈ることしかできない-」 との深遠なテーマが底流します。

 

 伊藤をはじめ、登場人物はみな、‟取り柄” と ‟負い目” を持っており、心のありようも多様。カルマ曼荼羅のごときいろんなタイプの人間が出てくるので、読む人は誰でも誰かに共感する仕掛けです。もっとも、伊藤が罪を犯し警察から逃げてる身の上なのは極端ですが...

 

 ストーリーの核は優午に起きた悲劇の真相なので、広義ではミステリー小説の範疇でしょうけど、クライマックスでのとある ‟大カタルシス” と、爽快なエンディングが読了後の大満足感をもたらしてくれました。ラスト約100頁でスパート。良い本でした。