本日は、最近読んでおもしろかった書物です本

 

 

 

 

 ・伊坂幸太郎 「マリアビートル」(角川文庫,2013 初出は2010)

 

 

 ブロ友さまのドキドキ感さまが 「素晴らしい、たぶん今年一番」 と絶賛されていたので、たいへん興味をそそられ読んでみました(→ドキさんの書評)。

 

 東京駅から出発した東北新幹線 「はやて」 の車内を舞台に、アンダーグランドな世界を綱渡りに生きる男たちの運命が交錯します。

 

 幼い息子が何者かにビルから突き落とされ、生死の境をさまようなか、復讐のため車内に乗り合わせた酒びたりの元殺し屋・木村は、あろうことか犯人のワナにかかり、車内で囚われの身になっていまいました。

 

 犯人というのは、なんと中学生。「王子」 の通り名で、優等生の仮面の下に、同級生を支配しオトナを手玉にとる狡猾さをもっています。

 

 腕利きの殺し屋コンビ、「蜜柑」 と 「檸檬」 は、救い出したはずの盛岡のヤクザの親分・峰岸の息子が車内で謎の死を遂げてしまい、アタフタしまくります。

 

 中身の知らぬトランクを運ぶ依頼を受けた七尾は 「天道虫」 のふたつ名を持つ、これまた知られた殺し屋ですが、なにぶん運の悪いことこの上ない人生。当然のごとく、車内でそのトランクを紛失してしまうわけですが、アタフタすることもなく まぁ、こんなことになると思った とあきらめの境地。

 

 主にこの3つのシチュエーションが代わる代わる転換していく筋立てで、慣れない文体の小説なので序盤、けっこう読みにくい思いをしたのですが、要領を得てからはスイスイ読み進むことが出来ました。「小説はついにここまでやってきた」 との宣伝文句に納得の、ジャンルを越えたエンターテインメントと言えましょう。

 

 主軸になるのは、王子に捕縛された木村の運命なのですが、人心を機微を知り尽くしたと豪語する王子の言動は不快のきわみ。同級生を畏怖させるならまだしも、ルワンダ虐殺における国連軍の失策まで引き合いに出して、人間を操るなどたやすいもの、とおもしろがるのですから。

 

 最大の興味は、この王子がどうなるやら、と思いつつ読んでいましたが、最終的に相応しい報いを受けます。最後まで憎まれ口を叩きっぱなしなので、出来れば阿鼻叫喚の描写が欲しかった(笑)。それくらいの極悪人です。

 

 もっとも印象に残ったのは、その王子がオトナを困らせようと発した 「どうして人を殺してはいけないんですか?」 という問いに対する鈴木(著者伊坂さんの別作品にも出たらしい)の回答。

 

 「殺人を犯したら国家が困るんだよ、命を保護しなければ安心して経済活動に従事できない。所有権が保証されなければ誰もお金を使わない。命は最大の所有物だ。だから国家は殺人を禁じる。戦争と死刑は、国家の都合で行われるから許される」

 

 なるほど、明快にして異論・反論がただちに思いつかない。

 完全な真理というには倫理・道徳観念から ん? となる部分もあるにせよ、合理的な解のひとつではあるな、と感心しました。

 

 このくだりだけとっても、読んだ甲斐がありました。