*2月19日付記事 の続きです。
R大学文学部史学科のぜんざい教授と、教え子の院生・あんみつ君の歴史トーク、今回のテーマは 二・二六事件 です。
本日がシリーズ最終回。
事件の経過と収束、その後を概観しましょう。
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*
あんみつ 「先生、皇道派青年将校たちの決起は1936(昭和11)年2月26日。この時期に意味はあったんでしょうか」
ぜんざい 「うん、この年、彼らの所属する東京第一師団に満州移転の話が上がった。言うまでもなく華北侵略が目的だが、一方で危険な存在と認識された一派を遠ざける意図があったのかも知れない。真相は不明だけどね」
あんみつ 「すると、もうやるなら今という感じだったんでしょうか。事件の規模のわりにドロ縄だったのもわかる気がします。いちおう彼らは、皇道派の真崎甚三郎大将を首相にする意向でしたけども、その後の具体的なプランはぜんぜんなさそうです」
ぜんざい 「彼らの “蹶起(けっき)趣意書” では、奸賊を誅滅して大義を正し、神洲赤子の微衷を献ぜん という具合の美文が長々したためられているが、君のいうとおり抽象的で、何がしたいのかサッパリわからない。事実としては官邸を占領し、高橋蔵相や渡辺教育総監、斎藤内大臣らを襲撃・惨殺しただけだ」
あんみつ 「ここから、政府も軍上層部も対処をめぐって迷走を極めます。青年将校たちに共感する軍人も少なくなかったんでしょうか」
ぜんざい 「陸軍省も参謀本部も占領されたから、憲兵隊司令部に軍上層部が集まって処置を議論した。だが報せを受けた昭和天皇が当初から激怒したことで、クーデターの失敗は確定したと言えるだろう」
あんみつ 「岡田総理に加え、鈴木貫太郎侍従長官、牧野伸顕前内大臣(←大久保利通の子)も生死不明でしたから、昭和天皇には側近がいなかったことになります。唯一、近くにいた本庄 繁侍従武官長は、青年将校に好意的な人でしたし」
ぜんざい 「陸軍大臣・川島義之はオロオロするばかりだった。天皇の前で蹶起趣意書を読み上げて叱責されたかと思うと、青年将校の行動を認め天皇に陳情する、といった大臣告示を出してしまう失態までおかしている」
あんみつ 「ですが、自ら近衛兵を率いて反乱軍を討伐する とまで言明した昭和天皇の意思により、青年将校の戦闘意欲はトーンダウンしていきました。官邸や本部を占領していた優位から、首謀者の磯部浅一や村中孝次は軍上層部と直接会談し、要求を突き付けていましたけども」
ぜんざい 「最終的には <奉勅命令> といって、天皇が反乱軍鎮圧を命令した体で解散させられる。実は奉勅といっても、統帥権を盾にする陸軍は何をやっても天皇の意思というタテマエを取るから、実際に天皇が出したわけではない偽装なんだけどね」
あんみつ 「それでも青森の弘前連隊に赴任していた秩父宮 が事件当日に上京したり、徳川義親公爵まで仲介を買って出たり、まさに上流社会を揺さぶった4日間になりました」
ぜんざい 「昭和天皇がクーデターに乗らないのなら、秩父宮を擁立しようという動きがあったのかはわからない。ただ、その気がなかったら誤解を招いてまでわざわざ上京しないと思うよ」
あんみつ 「有名な 今カラデモ遅クナイ や 父母兄弟ハ泣イテオルゾ のビラが撒かれましたね。28日になって鎮圧隊が出動し、攻撃直前になったところで決起隊は投降、内戦は免れました。その後、非公開の特設軍法会議で首謀者17人が死刑、7月に執行されて事件は収束します」
帰順を促すビラと、原隊に戻る兵士たち
ぜんざい 「事件が与えた衝撃は大きかった。だがそれは粛軍という名目で、参謀本部に異を唱えることは許さない締め付けの形になっていく」
あんみつ 「それで翌年の日中戦争から、国家総動員法、独伊との軍事同盟、対英米戦争の泥沼ファシズムに踏み込んでいくんですね。それらを主導したのが統制派の東条英機や小磯国昭、杉山元、石原莞爾などです」
ぜんざい 「一方で政財界に対しては、うちの若い者が何をするかわからない的な脅しをかけ、テロをちらつかせることで反対させないようにした。青年将校たちの <昭和維新> をすっかり利用してね」
あんみつ 「一時は味方になるかと思われた、一部上層部の手の平返しもヒドい話ですね。まさにかけたハシゴを外すような。むしろ、青年将校たちは事件を起こすよう仕向けられたピエロでしかないんじゃないか、とも言われます」
ぜんざい 「う~ん、どうだろう。ただたしかに、彼らの決起が成功し、要望がすべて通ったとしても、歴史が大きく変わったかどうか。指導者が違うだけかも知れない。青年将校たちだって対中・対ソの意欲旺盛で、ぜんぜん平和主義者じゃないからね」
あんみつ 「そうですよねぇ。戦争で経済を活性化させようなんて間違ってます。潤うとしてもごく一部の特権階級だけだし、たくさんの人が不幸になる。ボクがもしその一部の側だったとしても、そんな世の中、イヤです」
・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆゚
「帝都に降る雪」 シリーズは、これで終了です。
長々のお読みをいただきありがとうございました。
また次回のぜんざい教授とあんみつ君の歴史談義でお目にかかります。
それではごきげんよう(^-^)ノ~~。
*** 参考図書 ***
・大内 力 「日本の歴史24 ファシズムへの道」
・遠山茂樹/今井清一/藤原 彰 「昭和史」
・高橋正衛 「二・二六事件-昭和維新の思想と行動」
・NHK取材班 「戒厳指令 『交信ヲ傍受セヨ』」
・中田整一 「盗聴 二・二六事件」
・澤地久枝 「雪はよごれていた」
・松本清張 「昭和史発掘」
・秦 郁彦 「昭和史の謎を追う」
・武田知弘 「大日本帝国の真実」