8年ぶりの再読「妙の宮(たえのみや)」(鏡花全集 巻2)  | 恋着、横着、漂着 遊び盛りゆるゆるのびのび60代

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2年早く退職して機能と効率のタガを外すことが出来ました。
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 明治28年、1895年作の掌編である。

 前回読んだのは2016年9月5日だった。

 再読後、唸った。美しい。そして、ひやりとする。上々の怪談である。

 しばらく前からYouTubeに登録された怪談を視聴しているのだが、何を視聴しても物足りない。

 YouTube怪談数百をもってしても、鏡花の掌編一作に如かず。

 そんなことは今更改まって言うことでもない。方や超一線級の作家による技巧を極めたしつらえであり、方やゆるい駄弁りに過ぎない、適当な「ながら視聴」でも充分頭には入って来る類いのモノなのだ。

 

 さて、本作の主人公は「うつくしき少年士官」である。

 山中の社に友人同士一人ずつが肝試しに訪れる。彼が訪れたのは6日めの月の夜で、それまでの5日間とも「事なく帰りたるはあらざりし」という結果である。

 主人公は道すがら懐中時計がなくなっていることに気づく。

 社前では一条の蛇(くちなわ)が横切り、杉の幹にのぼって行く。

 ささやかな凶事もしくは怪異の前兆のようにも思われる。

 回廊を左に廻って横に折れる所で、主人公は驚いて一歩退く。

 三歳にならない坊主頭の子が腹ばいになっているのである。しかも、よく見るとその子の手に彼の懐中時計が握られている。

 取り上げようとするが、わっと泣かれたので、その子に「取っておけ」と譲ってやることにする。

 抱きかかえようとすると、その子が「危うき所に動かざるやう、堅く勾欄に結へ置きたる、燃え立つ如き緋縮緬の扱帯(しごき)の見えき。」

 

 この一文で完結し、帯の持ち主である女は最後まで姿を見せない。

 怪異と同時に艶めかしさが鮮やかなイメージとして残る。