前回から引き続きお知らせしている、ポールさん。
ガタイの大きい人です。
格闘技で体を磨き上げ、
ケンカの場で腕を発揮していた、というのがご自慢の方です。
自分の家族や友人に悪いことをする人をなぐり倒して、
「正義の味方」をふるまうものの、
その結果、自分が刑務所に入るような騒動を
繰り返し行って来たそうです。
そのポールさんには、
幼い頃から父親に度々殴られてきたという背景があります。
泣くと殴られ、「弱虫だ」と言われる。
言い返すこともできない自分を「弱い」人間だと思い、
いつか父親を倒すことができるように「強い」人間に
なりたいと思って、鍛え上げてきたのだとか。
刑務所に入るのが嫌だから、一応最近は、
ケンカ騒動を抑えてはいるものの、
「悪い」人間を殴って、家族を「助ける」ことの
何が悪いのか、なかなか理解できないご様子です。
そんなポールさんが、目下非常に気にしていることは、
妹さんが連れてきた14歳の娘さんのことだそうです。
この人は本当の娘さんではなく、
妹さんが養子として引き取った子供。
「そうすれば妹は、州から養育費がもらえるから。」
という理由で引き取ったらしいと、
ポールさんは言います。
娘を引き取ったものの、妹は全く世話をしない、
とポールさんは嘆きます。
しょっちゅうボーイフレンドのところに出かけ、
食事も着るものも与えていない、というのが
ポールさんの言い分です。
そんなポールさんは、姪の事が心配で
仕方がないそうです。
妹がしょっちゅう出かけるので、
学校への迎えは、ポールさんが引き受けるそうです。
「悩みがあるけれど、母には打ち明けたくない。」
姪にこう言われると、ポールさんは、
親に悩みを話せなかった自分の過去と
重なってしまうのか、
自分が妹さんを引き取ることができたら
どんなにいいかと考えるそうです。
そして先日は、
「この間、俺が姪に傘と靴を買ってやった。
俺は買い物をするときに値段を見ない。
俺はチープな人間じゃない。そうしたら、
妹が、勝手にものを与えるなって文句を言ってきたんだ。」
母親がいながら、伯父が物を勝手に与える。
どんなにひどい母親だとしても
母親と話をして同意を得る、
というステップを踏む重要性が
今のポールさんには見えていないようです。
妹さんへの「助け」を散々してきたポールさん。
妹さんが「堕落していて困る」と言って嘆いていた
ポールさん自身の中に潜む、
「人助けをして、自分の存在感を得たい」
という無意識の欲求は
ずいぶん意識化されてきましたが
いまだに存続しているように見受けます。
そのポールさんが同時に抱えている問題。
怒ると瞬時に相手にパンチをくらわしたくなる、
衝動はいまだに抑えるのが難しいこと。
父親に繰り返してされた
非常な暴力的なの為、
映画館の席で、隣の人のジャケットが自分に触れたりするだけで、
いつのまにか昔の苦しみがよみがえるらしく、
気づいたら殴りかかっている、
ということもしばしばあるのだとか。
レジで立っていても、後ろの人が自分に触れたりすると
「わざと俺を苛立たせているのか?」と、
相手の胸ぐらをつかんでしまうというのです。
スーパーのレジで、他人と騒動を起こし、
わが子が泣き出すこともしばしば。
今回は、こんなシミュレーションをしていただきました。
妹さんに連絡がつかないとして、
姪御さんが家にいるかどうか、見に行ってみました。
家の中からは、男の大きな声と、
姪さんの大きな声が聞こえます。
ポールさん。
「レイプか?」
何だかわかりません。
けれど、音だけが聞こえて、ドアは閉まっています。
ポールさんはどうしますか?
「ドアをけり倒すか、窓を割って入る。」
中に入ったとします。
男の姿と姪御さんの姿が見えます。
姪御さんが部屋の隅にしゃがみ込み、
男が何かをしようとしています。
姪御さんは泣きながら何かを叫んでいます。
どうしますか?
「男を殴る殺してやる!」
それはどうしてですか?
「姪を傷つける奴は許せねぇ。」
その時点で傷つけたかどうか、わかっていますか?
「そんなことはどうでもいい。」
ではポールさんが殴ったとします。
その結果どうなりますか?
「また牢屋行きだ!俺はかまわねぇ。」
妹さんが姪御さんのケアをしていないとして、
ポールさんが刑務所に入ってしまったら、
姪御さんはどうなりますか?
「...。」
ポールさんにはお子さんも居られますね。
「...。」
こみ上げる、抑えの利かない相当の怒り。
父親を見て育った為に、
父親から「習得した」暴力をふるう姿。
「弱虫」と言われれ育ち、
やっと「強く」なった。
俺はわが子を暴力で黙らせるのではない。
人を助けているのだ。
それが悪いとでも言うのか?
このシミュレーションを行いながら、
ポールさんは、目に悔し涙をためています。
ではポールさん。
ポールさんが殴らなかったとします。
二人の様子はどんなですか?
「たぶん、男はひるむ。
俺の体がデカいから。」
そうですか。ということは、ポールさんが
部屋に入るだけで、何かが防げるということですね。
それは大きいですね。
すると、その後の結果はどうなりますか?
「俺は刑務所に入らない。」
悔しそうに言う、ポールさん。
せっかくやる気満々なのに、
せっかく、身を粉にしても、人を守ろうとしたのに、
なぜ自分は、法にひれ伏さなくてはいけないのか、
と、以前も言っておられました。
それだけではないですよ、ポールさん。
1.殴らなかった
2.危険から姪を助けた
それ以外にもあります。
3.成人になっていない子供の危険な場に、
母親は存在しなかった
4.その場に居たのはポールさんだった
このような場合を(米国の)法廷に持っていけば、
姪御さんの養育権をポールさんが得ることを
訴えることが可能ですよ。
「あ!」
我慢をすることで、
罰を受けないだけではなく
欲しいものも手に入る。
今までは、
「悪い」人間を殴って、家族を「助ける」
ことの何が悪いのか、というかたくな信念により
自分のコンプレックスをサポートし、
自分の衝動をも発散してきたのですが、
ここでこれが初めて崩れかかった様子が
垣間見られました。
この後は、不思議なことに
姪御さんへのサポートも、
突然やめてしまったポールさん。
「姪が色々買ってくれと言うから
最近は妹の家には行かない。」
のだとか。
ポールさんの心の中に何が起こったのでしょう?
今度は又、別のお話を書かせていただきます。