「私がちゃんと仕事したら
怒鳴られたんです。」
バケーションから帰ってこられた
キウイさん。
「私、結婚した娘に
会いに行ったんです。
2週間。本当に楽しかった。
その土地の人達も皆さん
温かくて良い人たちで
久々にゆったりとした気持ちに
なりました。
でも先生、私いつも
バケーションで楽しい時
『ああ、こういう幸せの後
何か悪いことが起こるに違いない』
って思っちゃうんですよ。
それで、存分に楽しめなくて。」
とキウイさん。
普段から、
自他ともに認める
「仕事のデキる人」で
落ち度が無いように確認を重ねる
一方で
何かが上手く終わるまで
常に不安が絶えないので
楽ではないとおっしゃいます。
キウイさん。
常に不安だから
事前に「最悪の場合」に
備えて準備をする、
けれどその為に
気分も落ち込む。
これは、ひょっとして
不安になることが自分に何か
「良いことをもたらす」とは言いませんが
不安になることで
「自分を守っている」ということは
ありませんか?
「うーん。なんかねー
不安が無くなっちゃうと
ちゃんと仕事をしなくなる気が
しますね。
でもね、この幸せな時に限って
不幸がやってくるって考えるのは
わかっているんです。
昔のある出来事が原因だって。」
おお!これは早いですね。
昔どんなことがあったんですか?
「アメリカの大学を卒業して
働き始めて間もない頃。
本当にとんでもない性格の
ドクターのオフィスで働いていたんです。
いつものように、朝早く家を出たんですが
パン屋が開いたばかりで、
朝一でパンを買って
そのホカホカのをエレベーターで食べて
誰よりも早く余裕でオフィスに着いて
ウキウキしていたら...
その後の一日が最悪だった。
バッチリとスーツを着た患者さんが
来たんですが、
ドクターはいつものように
まだ来て居なくて。
その頃始まった
州で決められた書類に
サインしてもらうというのがあったんですが、
受付の子がいつものように忘れていたんで、
私が書類を渡したんです。
そうしたらその患者さん
待たされてイライラしていたのか、
私に怒鳴りつけてきたんです。
「ここ暗くて見えないじゃないか!なんだこのペンは!」
と、ペンも投げて
出て行ってしまったんです。
そこへ丁度ドクターが来て
『キウイ、何をやってんの!』
って私を怒鳴ってから、
その患者さんを追いかけていましたよ。」
なんとキウイさん。
それは、とんだとばっちりですね!
と私は言いました。
「とばっちりも良いところですよ。
でもそれ以来、私は
朝からウキウキ油断していたから
こんな不幸なことが起こったんだ
って思いました。
『バチが当たったんだ』って。
それ以来、自分を律して
生きようと思ったんです。」
そうなんですか?キウイさん。
このご自分のお話を今
ご自分の耳で聴かれて、
実際にどう思われますか?
「いや、頭ではわかっているんです、
私は悪くなかったって。
でも私は幸せに思っちゃうと
悪い事が来るって思ってしまうのは
今も変わらないんです。」
かなりのショックで
しかも誰にも話すことも出来ず、
混乱したまま
ご自分一人で処理をしようとして
この様に結論付けてしまわれた様子。
ではキウイさん、
その一連の事が起こった時
どんな気持ちでしたか?
「すっごい腹が立ちましたよ。
だって、あのドクター。
あの後、患者さんを追いかけて
『あの書類はサインしなくていいですから、
オフィスに戻って来てくださーい』
なんてて。言ったりして。」
キウイさん、最悪ですね、それ。
どう最悪かというと、
普段から仕事に遅れてくるドクターは
ご自分の責任感が薄いどころか、
怒鳴られていたキウイさんに
「何があったの?」とも聞かずに
キウイさんを責めたんですよね?
更に、その書類は州で義務付けられているのに
サイン無しで患者を診るみたいな行為も
マズイですし、
まるで、
『キウイが悪かった
彼女の言う事は聞かなくていいから
オフィスに戻ってきてくれ』と
言わんばかりの
責任転嫁の酷いドクターですね。
私がここまで言ったら
「そうかー、今先生に言ってもらって
そうだったのかーって思いました。
やっぱりそうですよね先生。
あの頃、私、何が起こっているか
正直よくわかんなくて。」
キウイさんの立場だったら誰でも
相当ショックなのではないかと
想像しますが。
「ショックでしたよ、すごく。
私、何も悪い事していないのに。」
ではキウイさん。
今のキウイさんがその場に戻って
何を言っても良いとしたら、
ドクターか患者さんに何を言いたいですか?
「えー私の立場だと...
患者さんに言えることなんて
限られてくるけれど...」
いえいえ、今はキウイさんの心の処理を
しようとしているので
実際の「仕事上の立場」は忘れてください。
「そうですね...やっぱり
ドクターに言いたいかな。
『ドクターが遅れてきたから
怒ってたんですよ、この人。
書類をサインさせるのを忘れていたのは
私じゃなくて受付の子ですよ。
ちゃんと仕事してください。』」
良く言えましたね。
他に言いたいこと無いですか?
心の底から言いたかった事。
「あー、やっぱりムカつく
酷いじゃないかって言いたいですね。
人のせいにして無責任だって。
言えなかったけれど。」
はい、他にもありますか?
「あー、やっぱでも、あの患者
すごいムカつく!」
何にムカつきますか?
「怒鳴ったこと。」
その人には何て言いたいですか?
「怒鳴るなんてヒドイですね。
ペンなんて投げないでください。」
他には、無いですか?
「......。」
本当は言いたかった事、
全部言ってしまわれるといいですよ。
「八つ当たりすんなバカ野郎!
偉そうな恰好してるくせに、
最低だ、お前!」
だいぶ出てきましたね!
ご自分の声と言葉を聞いて
一瞬びっくりした様子のキウイさん。
しばらくしてから
言われました。
「うん、今先生に色々整理してもらって
なんかわかった気がするけれど
でもなんか、やっぱり私
油断したらバチが当たるって
まだ思っちゃう気がする。」
わかりますよ。
キウイさんは、
今はそこに居る
という事ですよね。
この作業はキウイさんにとっては
まだ始まったばかりなので
自然ではないですか?
ただ。
キウイさんが
ご自分に厳しいのは、
その時に始まったわけではないですよね?
ご自分を律しなきゃという考えは
どこか別の所から来ているのではないですか?
「父かなあ?うん、父は厳しかったし
おじいちゃんおばあちゃんもすごく
厳しかったって
先生には言いましたよね。」
いつも仕事をバッチリこなすのも
もしかして、
もう既に亡くなられた
お父さまや
おじい様おばあ様は
居られないのに、
ちゃんとやっていることを
見せなくてはいけないと思っている、
そんな風に見えます。
「ある気がする、先生。
だってその方が仕事上手くいくし。」
幸せな時に、幸せに浸りたくないですか?
「あー、幸せに浸りたいー
幸せな時に、不幸なことを考えるの
嫌だーもう嫌だ。」
油断しないで自分を律する形を
キウイさんはずっと
保ちたいですか?
「あー、そうかー。私
自分に優しく、優しく
なりたいなー。
なれるのかなー?」
時間はかかるかもしれません。
でも
幸せな時には幸せに浸りながら、
かつ
仕事が有能な
そんなキウイさんになれるように。
また一緒に
お話していきましょう。