「探偵を雇ったわ。」
躁うつ病を持つ娘がボストンからNYCに
引っ越してから、娘が無事にやっているかを
彼女に知られないようにチェックするという
スーさん。
スーさんの銀行口座とつながっている
クレジットカードをの明細を見ると
娘さんがどこで何にお金を使ったかがわかり、
ちゃんと食事をしている、と安心したり
バーに毎晩行っていると思ったり。
「私がついていないと娘はどうなるか
わからないから。」
娘さんがスピード違反で捕まった時も
法廷に弁護士を送り、弁護士には
母親から送られたとは言わないように伝える
探偵を雇って、変な男の家に出入りしていないか
調べさせたりも。
私はスーさんに聞いてみました。
これ、娘さん気づいていないと思っていますか?
「判らないわ。気づいているかもしれないし
いないかもしれないし。
でもこうすれば娘は安全でしょ?
こういうのが雇える環境で
彼女は恵まれているのよ。でしょ?」
スーさん。なぜそれをされるのですか?
それは娘さんがあなたに頼んだことですか?
つまりそれは
娘さんのアジェンダですか、それとも
あなたのアジェンダですか?
と聞きました。
批判されていると思ったのか、きっとした顔で
「娘のために決まっているじゃないの!
娘を守っている以外に何があるっていうの?
何?病気の娘を放っておけっていうの?
あなたは親になったことがないんでしょう?」
と私に食ってかかったスーさん。
スーさんがこれ以上戦闘状態にならないように
彼女の気持ちに寄り添うことにしました。
親として。
貴方は、娘さんに何を一番望んでいますか?
本当は、娘さんとの仲を取り戻したいのでは
無かったですか?
それは全く否定しない彼女。
でも私の問いかけに黙りました。
娘さんが遠くにいる。何をしているか見えないと
どんな気持ちですか?
なかなか自分の弱いところを見せないスーさん。
感情を言語化するのには、実は長い月日が
かかりました。
本当は不安なのだ
とは、自分では言われません。
スーさん。
これは私の想像なので、まったく的外れかもしれません。
どんな母親も、精神疾患の持った子供が
遠くに居たら、気にならないわけはないです。
不安に思うのが当たり前だと思うのです。
なんとなくスーさんのしておられることは
ご自分の不安を抑えるためにやっている行動で
もしかして
娘さんはそれを知っていて、
それから逃れるために
母親に監視されているのが嫌で
NYに逃げたのでは、ありませんか?
ハッとした様子でこちらを一瞬見上げる彼女。
そしてその後ゆっくり下を向きました。
「じゃあどうすれば良いと言うの?」
ちょっと怒ったようにつぶやくスーさん。
はい。
娘さんの事を守らなくてはという気持ちが
悪いという事ではない筈です。
そしてスーさんは常に行動的ですね。
その力で成功したキャリアウーマンですね。
でも娘さんはきっと、
頼んでもいないことを
同意なしにお母さまが次々にされることで
ノックなしに部屋のドアを開けられるような
自分が信用されていない感覚だったり
するのではないでしょうか?
又こちらを見上げるスーさん。
娘さんの助けになりたいのだとしたら、
彼女に聞いてみたらどうですか?
「How can I help you?」と。
ドア開けてしまうでもなく、
ノックして出てこなかったら
どこかに居なくなってしまうでもなく
「ここにいるから必要な時は行ってね」と
ドアの傍に座っている
そんなイメージでしょうか。
これは相手の境界線を尊重しながらも
放り出すのではなく
相手の気持ちに合わせたサポートの形
だと思うのです。
どうでしょう?
人のお世話をすることに慣れている人が
このセオリー通りに動くのには
相当な時間がかかることが多いのですが
スーさんはこの後、
ご自分の生い立ちからくる不安症の話を
いくつもされ
怖いお父さまにいつもたてついていた話や
家に閉じ込められた時の話など
いくつも記憶に付いた感情のエネルギーを
セラピーで発散された後、
やがて娘さんへの不安も和らいだのか
執着をしなくなりました。
同時に娘さんは自分で精神科医を
NYで見つけていたらしく、
それもスーさんの不安を落ち着かせる
良い要因となったようです。
そして仕事の事情でセラピーをやめたスーさんは
数年後に連絡をしてきました。
「今度初めて娘がホリデーに戻ってきます。」
子供を追いかけることをやめてから
遠くにいてもそれが娘に伝わったらしいと
感じたとのこと。
子供は親の無意識の世界を
いつも感じているのかもしれません。