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心の歩み、さまざま

米国マサチューセッツ州で、サイコ(心理)セラピーをしています。
そこら辺に転がっている、日常の色々。
心理学の視点、文化の視点から斬ってみると、また別の物が見えてくるかもしれません。

「私は何も悪いことはしていない。

親切にしただけなのに!何故!?

子供を返して!!」

 

ナンシーさんは、半年前、

鬱病とADHD、「その他諸々」の理由で、

私のところに通い始められました。

 

結婚をしていない彼女には

それぞれ父親の違う、

2人の子供がいます。

11歳次男のT君は、

13歳長女のKちゃん。

 

正確に言うと3人いるそうですが、

長男は「ある事情」で

あと2年経って成人になるまで

会うことができないのだとか。

 

そんな、ナンシーさん。

 

ふとした時に、いつも

誰かのお世話をしている、

お世話好きの人です。

 

例えば、

最近行き始めたピザ屋さん。

結構イケメンの店長に、

喋り始めたら、いい感じだった、とか。

 

ナンシーさんも、

子供のいない時は、

どうせ暇だし

店長と話をしているほうが楽しいし、と

通うようになったそうです。

 

まじめに働いている店長さん。

雇ったスタッフ達が

しょっちゅう休んだり、

すぐにやめてしまったり。

 

忙しそうな店長さんは

一人でピザやサブを作り、

電話も取って、

お客さんの相手もし、時には

出前もしなくてはいけない。

 

なので「お客」でありながら、

ナンシーさんは

時折、カウンターから客席まで

ピザを運ぶ手伝いなどを、

してあげるのだとか。

 

そんな話を

セラピーでしていたかと思うと、

次の週に、アポイントメントの直前に

ナンシーさんから電話が

かかってきました。

 

「今日セラピーに行けない。

ピザ屋の手伝いがあるから。」

と、突然アポのキャンセルです。

 

その次のセッションでは、

なんかそわそわ。

「実は彼と、つき合っている。」

という話になりました。

 

ナンシーさん、お店のお手伝いでは、

お給料がでているのですか? 

と聞けば、

 

「私が手伝いたいから、

 お金はいらないの。」

と言われます。

 

行く場所ができたり

会う人ができると、一時はみなさん

幸せそうな顔になられます。

 

けれど、しばらくすると、

現実を帯びた話になってきます。

 

「今日もセラピーキャンセルする。」

との電話が。

 

どうしましたか?と聞けば、

「今度話す。

いまは店の手伝いがあるから。」

 

なんだか曇った声です。

 

一般的に、

以前にセラピーを受けたことのない、

クライエントさん達の場合、

通い始めのころは、

「セラピーはなくても生きていけるもの」

だから、「休んでもやめても変わらない」

と、思いがちのようです。

 

そのキャンセルする瞬間は、

セラピーに行き始めた理由を

忘れようとしてしまっている様子。

 

セラピーを始めた理由が、

症状を改善するという目的の

「治療」であるということも。

 

又、

セラピー以外のものを優先する

クライエントさんの中には、

「人のニーズを優先」して、

「自分のニーズを犠牲」にする、

タイプの人もよく見られます。

 

「自己犠牲」は、日本の文化では

美化されがちではありますが、

「自分の治療より、人のお世話を優先」

となれば

事情は違う、といいましょうか。

 

「自己犠牲」の何がまずいのか、

それをまだ理解していない

ナンシーさん。

 

次のセッションでは、

震えておられました。

 

どうかしましたか?

と聞いてみると、

「殴られた。」と言われます。

 

お店の仕事に遅れていくと言ったら、

店長に怒鳴られた。

仕事にミスがあったら、殴られた。

 

「もう行きたくない。」

セラピーではそういわれるナンシーさん。

 

にもかかわらず、次のセッションには、

またキャンセルの電話があり、

「彼はいい人だし、私にとって大事。」

とおっしゃいます。

 

別れるという話にでも触れようものなら、

非常な抵抗でもって、

なんとかしてその関係をつなげようと

頑張るのは目に見えています。

 

実はナンシーさんの場合、

このような男性との関係のパターンは、

一度ではなかった模様です。

 

ナンシーさんにとって

人生の最大の危機となった

次のお話も。

 

ある日、ナンシーさんの息子さんT君が

家に「お友達」を連れてきたと言います。

それも、大人の男の人だそうです。

 

ナンシーさんは、警戒心を持って、

「誰ですか?息子に何の用ですか?」

と問いかけたそうです。

 

そうしたら、その男性、クリスさんは、

非常に親切な様子で、

『息子さんが学校からの

道を間違えて迷った様子』だったから、

『家に送ってあげたのだ』

と説明したそうです。

 

そして、悪い人でもなさそうだから、

度々家に招いて、家族と一緒に

時間を過ごし始めたとのこと。

 

それからしばらくたった数週間後。

 

真っ青になったナンシーさん。

セラピーで、何かを言いにくそうにしています。

 

何かと聞いても、なかなか答えられません。

その日は何も言わずに、別の事をお話して

帰られました。

 

次の週になって、ようやく話始めた内容は、

といえば。。。

 

息子が連れてきたクリスという男は、

”Level 3 Sex offender”。

つまり州が「非常に危険」と認知した

「性犯罪者」である

と、知ってしまった、

ということでした。

 

”Level 3”というのは、

「性犯罪を繰り返す危険性が高い人」

の事を指し、

それに認定された性犯罪者の

住居位置や経歴などの情報が、

住民を守るために、

州のウェブサイトなどで

一般公開されてる模様です。

 

ナンシーさんは、その事実を

学校からたまたま聞いて

知ったとの事でした。

 

で、その時のセッションでは

「クリスを、もう息子に近づかせない。」と

言っておられました。

 

 

それから数か月後。

なぜか、州の児童保護局から、

私のオフィスに連絡が入りました。

 

「ナンシーD の件についてですが、

 あなたは彼女のセラピストですか?

 いくつか質問させてください。」

 

その時は、いったい何故、私に

ナンシーさんについて、児童保護局が

連絡をしてきたのかが、わかりませんでした。

 

「ナンシーの息子さんのT君が

 性犯罪の被害に遭ったので、

 一時的にナンシーの親権を剥奪します。

 調査はこれから行われます。」

 

え?

 

驚いたのは私です。

 

一体何があったのか?

それを知ったのは、それから数週間後に

ナンシーさんがセラピーに戻ってきて、

本人の口から説明をした時でした。

 

来るや否や、一心不乱に泣き出す彼女。

「私は騙されただけ。

 何も子供を取らなくったって!」

 

ワーッっとしばらく泣いた後、

こんな長いお話を、されました。

 

「息子の誕生日会を、家で催したのですが、

その時に、クリスも呼んだのです。

息子が呼びたがっていたので。」

 

「それに、クリスはいい人以外には

考えられなかったし。」

と。

 

「クリスは友達が一人も居ないって

言っていたし。

寂しそうだった。

寂しそうな人の気持ちはわかります。」

 

といいながら、

『性犯罪者』ということは

頭の端では考えてはいたものの、

その言葉が当てはまらないほどに、

理解しあえる人だった、と言います。

 

そして、一波乱。

 

「誕生日の日、

クリス以外にも、息子の友達とその親達、

そして、(ナンシーさんが当時付き合っていた)

彼も来たんです。」

 

「彼はきっと、

クリスの存在を見た途端、

「誰か知らない男が居る」ことに反応する、

そう思ったので、

クリスのことは何も言いませんでした。」

 

でも、反応したのはクリスさんの方

だったとのことです。

 

「クリスは、

『男がいたのか。

 俺の事をバラしたら、

 承知しないからな。』

って言って、

キッチンナイフを

私の方に向けていました。」

 

体がガクガク震えて止まらなかった

とのこと。

 

クリスさんは

そのままドアから外へと抜けて

帰って行ったとのこと。

 

震え涙目ながらに

お話しするナンシーさん。

 

お話しは続きます。

 

それから数日後のこと。

 

夕方クリスさんが遊びに来た。

断るに断り切れなかったという

ナンシーさん。

 

「ちょうど夕食の時間だったので、

子供たちと一緒に、

食事を済ませました。」

 

そして、ナンシーさんがトイレに

行っていた時の出来事。

 

「しばらくしてトイレから出てきたら。」

 

真っ青な顔のナンシーさん。

 

「息子のパンツが下がった状態で。。。

 

息子の太腿の位置にクリスの顔があった。」

 

その一瞬に驚愕して激怒したナンシーさんは、

怒鳴り散らして、クリスさんを追い払った、

とのこと。

 

「信じられない!信用していたのに!

 親切にもしたのに、裏切るなんて!」

 

ナンシーさんのクリスさんに対する怒りが

セラピーの中で噴火しました。

 

そして、児童保護局の対応は、

「母親が子供を守っていない」為に

「子供に被害が及んだ」。

従って

母親の権利を保持させるには危険、

という運びになってしまった、と

説明してくれました。。

 

児童保護局も罵倒する

ナンシーさん。

 

しかしながら、

私は後から聞いて知ったのですが、

児童保護局からナンシーさんへ

の調査が入ったのは、なんと

今回以外に、以前に数回

あったのだとか。

 

長男と一緒に住んでいない理由は

「自分の責任ではない」と話していた

ナンシーさんですが、

実は、長男が幼少の頃、骨折し、

ナンシーさんは男の家に入り浸っていて、

電話も取らずに過ごしていた為、

救急病院から連絡が入っても、

まったく気づかなかったらしいとの事。

 

そして似たようなことが

半年に2回も

起こってしまったそうなのです。

 

そのような男性の付き合いに

流されるナンシーさんの為、

長男は、州の判決により

里子として父方のおばあさんの家に

預けられてしまったそうです。

 

私からナンシーさんに伺います。

 

どうしてセラピーで

クリスさんのことを

お話しされなかったのですか?

 

「先生に嫌われると思ったし、

 クリスと離れろと言われると思ったから。」

 

「私は、今まで誰と親しくしても、 

 周りの人間は、『あいつはやばい』って

 反対ばかりされてきた。」

 

「それにセラピーで話すと、

児童保護局に連絡されてしまうと

思ったから。」

 

そうですか。

 

事実を隠してでも、

相手と一緒に居たかったのですね。

 

別にクリスさんと付き合っていた

というわけでもなさそうなのに。

 

ここまで引きずってしまった

本当の理由とは

何なのでしょう。

 

実はそれには

もっともっと、深い原因が

あった様子でした。

 

今回は長いので、

続きはまた書かせていただきます。

以前書かせていただいた、

ポールさんのお話です。


奥さんと何か月も、親密な関係がなかったという
ポールさんの前回のセッション


あの時点での結論は、


愛と切り離されたセックスは、
栄養のないポテトチップスと同じく、
なんとなく欲しくなって、
食べても食べても後を引くものの、
満足に至ることのできない
ドラッグと同じようなものある、という話。


同時に、
ポールさんの奥さんへの強い要求は、
ポールさんが幼少の頃、
愛や温もり、信頼や深い理解を
親からもらえなかったために
出来てしまった心の穴を、
奥さんに求めている形で
埋めようとしているのでは、
というお話でした。


つまり、愛情のかけらもない
過酷な環境でそだったポールさんが、
愛情がなしのセックスを
何度も何度も
求めないと気が済まないのは、


ポテトチップスに例えると。。。


愛情のこもった手作りご飯を
食べたことがなくて、
いつもお腹をすかしていた少年が、
青年になって、
心に開いた穴をふさぐがごとく
手軽に入るポテトチップスばかり食べて
肥満状態になりながらも、
まだ満たされていない気持ちがしている。


そんな状態かもしれないというお話し。


今日、セラピーにいらっしゃるや否や、
ポールさんは、いきなり立て続けに、
先日「学んだこと」について、

お話始められました。


「前回、先生が言った
 『昔の飢えていた自分』について
 あの後、家に帰って考えてみた。」

とポールさん。


以前、自分はものすごいエネルギーをもって
女性に「できるだけ激しく長い」パフォーマンスを
行っていた。
それは、そうすれば女性が
自分に、病みつきになり、
自分に戻ってきてくれるから。

戻ってきてくれないことが、不安だった。

 

 そして、
「先生は俺が、セックス中毒だと言った。
 そんなはずがない、と思ったんだけれど、
 自分のセックスは、きっと

 愛がなくて、体だけの 「一時的な満足」。

 でもそれは長続きしないから
 もっと欲しい、もっと欲しい、と
 2-3時間置きでないと満足しなかった。
 そういうことなのかもしれない。」


との分析。鋭いです。


ポールさん、
頭の中が一杯で、それを全部喋って
吐き出したい!そんな感じの勢いで
お話しされます。


「女達は、『もっともっと』と、
 ねだりながら、戻ってきた。
 でも、人生で俺を拒否したのは、
 妻が初めてだった。」


「そんな妻が憎らしかった。

 本当に憎らしくて、殺したかった。」


「でも考えたら、他の女達は、
 ドラッグみたいに、一時的な快感だけの
 中身のないセックスを求めていたから
 俺に戻ってきたがっていたのか、と
 気づいたんだ。」


素晴らしい分析です。ポールさん。


「前から俺は、なんだか他の女達に
 利用されるような気はしていた。
 きっと、今思えば、

 彼女たちは、俺を愛していたんじゃない。
 快感が欲しかっただけなんだ。
 だから

 俺は物扱いだったんだ。」


なるほど。


「妻が自分を拒否するのは、
 本当に悔しかった。

 けれど、
 妻だけは俺を物扱いしていない。
 でも、だからこそ受け入れて
 欲しかったのかもしれない。」


拍手!
こんなにセラピーで得たものを
さらに自分で考えて、掘り下げる人は
なかなかいません。

 

 「そう思ったら、なんか

スッキリしちゃって。」

「妻に怒る気が、消えている。」

 

そこで聞いてみました。

ポールさんは、奥さんにその

「発見」について語られましたか?

 

「言っていない。」

「お互いに腫れ物にはさわらないように

しているから。」

 

奥さんはきっと壁を作って、

守りに入ってしまっているのだと

おっしゃっていましたね。

 

「俺を避けている。」

 

もしお話をされたら、奥さんは

どんな反応をすると思われますか?

 

「...。」

「妻が俺の話を聞いて、

 怒るということは、ないかもしれない。」

 

相手の反応を恐れていた様子の

ポールさん。

 

「そうか、俺がもう、妻のことを

憎んでいないというのは

知らせた方がいいかもしれない。」

 

そんな雰囲気ですね。

奥さんは、ポールさんの押しの強さや

見えない怒りを感じて

壁を作って守りに入っていたのだとしたら、

ポールさんの「気づき」を聞いて

どう思われるでしょう?

 

「安心するかも。」

 

そんなポールさん。
こんなことも言っておられました。

 

「自分はどんどん泣き虫になって
 弱くなっているけれど、
 それでもいい。今までよりはいい。」

 

「弱くなっている」?

その点の考え方について、
もう一度とお話しさせていただいて
いいですか?

と伺いました。


普通は、幼い頃にひどい目に遭ったり
トラウマのある人は、
その頃のお話を簡単にはしたらない人の方が
多いのです。


嫌な記憶は、蓋をしておきたい
というのは、人間の防衛本能

なのだそうです。

古い傷を開いて膿を出す作業は
誰でも痛いはず。


昔の怖くて痛い記憶に立ち戻って、
泣くこともできるほどに
当時の感情もしっかり思い出して
傷口を掘り起こす。


そんなことが出来る人は、
勇気のある、強い人、と言えるのでは
ないでしょうか。


逆に、昔のことなど

なかったことにして、
あたかも平気に振る舞うことは、
弱い人のすることかもしれません。


「ふーん。」
「そんな風に考えたことはなかった。」
と再び言いながら、

しばらく黙るポールさん。


「それは頭ではわかった。」


「けれど、子供の頃から
 父親に「弱虫め」と言われてきた。」

 

「それに、父親にはとうてい怖くて、
 立ち向かうことが出来なかった。」


なるほど。


子供の頃の経験の影響力の強さは
かなり大きくて、根強いものがあるようですね。


子供にとっては、

親や周りの人間の言うことで
自分の自分に対する評価が

決まってしまうほど。


なので、いまだに
「父親の方が、実は自分より

 勇気のない弱い人間」
と思うことなんて、
なかなかできない、とのこと。


わかりました。


時間をかけて、ゆっくりいきませんか、
ポールさん。

 

歩き続けている限り、

いずれは必ず、

ポールの行きたい山の頂上へ、

行くことはできるのですから。


「だめ。今すぐ行きたい。」(笑)


だから。(笑)

セラピーは薬とは
違うんですってば。(笑)


「わかっているけれど。」(笑)


「答えに急ぐ」、という気持ちは
とりあえず、セラピー内では

しまっておいてくださりませ。(笑)


「それが一番、つらいです。」


ドラッグを乱用した経験のあるポールさん。

彼の頭の回路は、いつしか

即効性を求めるようになってしまっていて、
「おちついてゆっくり」、答えを見つけていくことは
かなり厳しいことのようです。


早く回復したいから、
どんなに痛くても、
先へ先へと突き進もうとするポールさん。


同時に、
まるで、顔面にパンチを受けまくっても、
しっかり目を開けて、
先を見据えて闘い続ける、
そんな強さも垣間見られます。


そんな風にクライエントさんが

闘っておられる姿は
なかなか感動的でもあります。


そしてそれを

応援できる立場にいる私は、
光栄だと感じています。

 

ポールさん。

ぜひ、山の頂上に向かって

歩み続けてください。

 

***

 

関連ブログ

 

以前のブログ

俺と何か月も寝たがらない妻が憎らしい。ポールさんの場合・1。

 

この次のポールさんのステップ

許せない親と同じ行動をしているらしい自分。ポールさんの場合・5。

ジョーさんの場合。

改訂版

 

ジョーさんは、綺麗好きです。


もう少し詳しく言えば、

部屋が片付いていないと、気が済まない人です。

ジョーさんは人のお世話が大好きです。


ジョーさんは、精神疾患を抱えた人達が住む、

グループ・ホームに住んでおられます。

 

掃除や料理の担当が曜日ごとに替わる、

皆が順番で行う家事。


自分があの時しっかり綺麗にした。

それなのに、他の人はあまりキチンと片付けない。

汚れも取れていない。

綺麗になるのが、自分が担当の時だけのような

気がする。


何故だろう?

掃除の仕方をしらないのだろうか?

精神疾患を抱えていると、

汚れにも気づかないのか?


ずっと教えてやっているけれど、

誰もちゃんと分かっていない。


翌日。又、皆が飲んだ後のコーヒーのポットが、

置きっぱなしになっている。

また自分が片付ける。


翌日、自分が朝から出かけて帰ってくる。

すると、また汚れたままでポットが放置してある。


誰かが綺麗にしないと、

このホームは住みにくい環境になる。


何度言っても変わらない人間たち。

ここにいる人間の気持ちが理解できない。


そう思っておられるというジョーさん。

責任感が強く、心は優しい方。


グループホームの外で
煙草を吸っていると、

たばこが欲しいと人が寄ってくる。


「そんな時、僕は煙草を奴らに恵んでやる。」
「皆貧しい。貧しい人に寄付をするのは、

 キリストの教えだ。」と、

誇らしくおっしゃいます。

 

けれどそれ以来、

「俺も俺も」と沢山の人が来たり、

同じ人が、何度もジョーさんのところに

煙草乞いを来る。

自分の吸うたばこが減ってしまう。


それに、何だか利用されている気がして来て、

だんだんイライラしてしまう。

「奴らは、自立心がない。」

そう言って、時にはふと、

キレて怒鳴ってしまうのだそうです。


ジョーさんの場合は、このような気質の為に、

人間関係が時折壊れてしまうようです。

それが誰よりもジョーさん自身にとって、

残念であるとの事。


セラピーにいらっしゃる時は、

前半はたいてい、

「今日もトイレ掃除がなっていない。」

と怒っておられます。


そして、その続きに、

「あいつらは皆どうかしている。」

「この社会は腐っている。」

と世の中への鬱憤ばらしへと繋がります。


そして段々と落ち着いてくると、

相手を怒鳴ってしまった

自分への後悔が激しく、

沢山の涙が流され、

気性が激しいご自分を責めて責めて

責め続けておられます。

 

そんなジョーさん。

来院された頃は、よく泣いておられました。

「俺のせいで子供を傷つけてしまった。」


若い頃からずっと薬物と酒におぼれて

麻薬中毒の最中に、

自分の部屋が大火事になり

危うく死にそうになったそうです。


下半身ほぼに大火傷をして、

目が覚めたのが入院病棟。

「これは神が俺に叱咤したのだ。」

そう思って以来、
薬物も酒もやめられたという方です。


ジョーさん、薬物をされていた頃は、

当時幼かった二人のお子さんにも、

なかなかまともに接してあげることが

出来なかったとのこと。


成人になった息子が最近、

自分の人生に正面から

向き合うために書いた書記。

 

息子の手で赤裸々に、そして忠実に書かれた

息子さんにとっての、父親の過去の姿を読んで、

ジョーさんは、涙が止まりません。

「子供がこんな風に感じていたなんて、

 全く気付かなかった。

 自分はなんて馬鹿だったんだ。」

 

ジョーさんは、ご自分以外の人を責めることも、

際限がありません。
結論から言うと、

まずは、ご自分へも他人へも厳しい人、です。


そして、自分を激しく責める時と、

方や他人を激しく責める時の、

「振れ」の大きい人です。


そして、誰でもそうであるように、

表面は乱暴なことを言っている裏側で、

実はとても、人と繋っていたい人です。


そんなジョーさんに、

過去のお話をしていただきました。


イタリア系移民のご両親の元で、

お兄さん二人、お姉さん一人の

5人ご家族で育った人で、

お父さんが料理店を出すほどに、

料理にも腕の自身のある人だったとか。


それよりなにより、

お父さんは気性の荒い人で、

食事中にしょっちゅうお皿が飛んでくるような

「子供がしょっちゅうビクビクしている」

そんな雰囲気のお宅だったそうです。

 

怖いお父さんが設定した「基準」は
いつも高くて、
それに満たないと、
罰せられてしまう。


自分に厳しいジョーさんが、

人に対して厳しいのも、

このお父さんとの関わりが、
深く関係しているように
見えるのです。

 

こんなお話しをするジョーさんですが、

ジョーさんのご自身の認識では、

「自分が子供の当時は、それが当たり前だった。」と。

「当時、イタリア系の家族は皆そうだった。」
と言われるのです。


日本流に言えば、
「いじめられたら、いじめかえしてこい!」

と言われて育った家庭のお子さん、

という感じでしょうか。


どの子供もそうであるように、

本当は愛情や深い理解、そして信頼を

心から欲していたでしょうに。


しかも、
「親父はもう死んだ。
死んだ者の事をいまさら話してもしょうがない。」

と言われます。

 

確かに。

けれど、昔の古傷、感情部を癒すことは、とっても大事なのです。
親の悪口ではなく、自分の心を受け止めるために。

 

でも、ジョーさんの場合、
子供の頃の悲しみや恐怖や怒りが

記憶と共に蘇ることは

なかなか時間がかかりました。


こんなジョーさんには、こんなことをお話ししました。


ジョーさん。

ジョーさんは責任の強い方ですね。

社会の腐った部分をよく見抜いておられる。

なっていない人達に対して嘆いておられる。


けれど、セラピーの中では、しばらくの間、

ご自分へ焦点を置いたお話をしていただけますか?


なぜかというと、これは他人のセラピーではなく、

ジョーさんの、ジョーさんだけのセラピーだから。


どんなに他人の行動がまずくても、
他人を変えることは、

なかなか出来ないので。


たとえ出来ても、それは
このセラピーの目的ではないですよね。


他人ではなく自分の問題にだけ集中して、

自立する力をつけていただきたいから。


そして、3週間試していただきたいことがあります。


― 相手の仕事が変でも下手でも、口を出さない。尊重する。

― 他人からプレッシャーを感じても、自分の行動を変えない。

― 自分がすべきことをすることだけに、細心の注意を払う。


最初は 、難しいかもしれませんが、これは

自立の過程に誰もが必要な、
超えてはいけない壁」のお話です。


これに対して、ジョーさん。

「だけれど、人を助けるのが僕の使命だから。」

「僕の行動は、親切以外の何物でもないはず。」


ここでジョーさんに、伺いました。

 

ジョーさん。

グループホームでは、頑張って禁煙をしている人が

どれくらいいるか、ご存知ですか?

「沢山いる。」


ドラッグを経験したジョーさんならお分かりですね。

ドラッグをやめようとしている人たちに

ドラッグを見せる行為は

どういうことなのか。

「助けにならない。むしろ悪化させている。」

 

ですね。
ジョーさんがもらう立場だったら、どうですか?

「...確かに。

 禁酒をしていた時に、

 姉の家のクリスマスパーティーで
 酒のボトルが沢山飾られてあった。

 禁酒している俺の前で、飲んでいた。

 俺の苦しみを知っているくせに。

 それで姉を怒鳴ってしまったことがある。」


経験がおありのジョーさんは、理解が深いです。

彼らは、中毒患者でもありますね。


では、たばこを欲しがる人に断るとしたら、

ジョーさんはその瞬間、どんな気持ちですか?

「なんか、一人で我がままに思われる

 気がして嫌だ。」


気が引ける、だから煙草を渡す。

「それもある。自分の気持ちのせいだ。」


相手が、お礼を言わなったら、どう思いますか?

「それは、許せない。」

「俺の満足がいかないからだと思う。」

 

そこまで言ってから、ジョーさんは、

ご自分の気性が荒いこと、

自分が我慢できないことを人が平気でいるのが

耐えられないこと。

それが押し付けであると、わかってはいる事などを、

ご自分の口から話されました。


とても深い洞察力です。

ジョーさんは冷静な時はものすごく正直で、

見る眼の鋭い方です。


最初は感情的で、後からものすごく冷静で
深い見方をする。

これはジョーさんとのセッションで、

毎回見られる光景です。

 

バランスを失った時の「振れ」が大きいので、

いかにしてバランスを取り戻すか、

そこが課題の様です。


ジョーさんご自身の言葉。

「自分は、神と一緒に居る時は、

自分自身をコントロールしやすい。」


そして、
「時々、神の事を忘れてしまうから
バランスを崩す。」

とても正直におっしゃいます。


そしてこんなことも。

「自分は時々、神の手を押しのけている気がする。

マイペースで人を叱咤激励している時の方が

気持ちが良いから。」


この飲み込みの早いジョーさんには、

「クマの餌付け」のお喋りもしました。


マサチューセッツ州には、
たまに野生動物が家の近くに

やってくることがあります。

さらに山深い、お隣の

メイン州やニューハンプシャー州には、

クマなどもいることがあります。


山登りが好きだったジョーさんに聞きます。

山でクマを見たら、餌をやりますか?

 

「やるわけないじゃないか!何言ってんだ!?(笑)
 無知で初心者のハイカーどもは
 かわいいからと愚かな理由で、
 餌付けをしてしまうから困る!そんなことをしたら

 クマは餌を探す能力をなくしてしまうんだ。困ったもんだ!」

 

と、さすがです。

では、ジョーさん。
相手が人間だったら?
クマにリンゴをやるのと、人に煙草を恵むのと、

どう違いますか?

 

「いや、人間は怠け者だから…。」と言いかけて、

「いやいや!同じだ同じ!」

なんと。飲み込みが早いです。

 

一度煙草を与えた人が、

2度目にジョーさんのところに
戻ってきた。

それは、その人が悪いのでしょうか?

「…与える俺が悪かったかもしれない。」


こんな感じのやり取りを重ね

ジョーさんの心の中にある

「満たされていないもの」を

少しずつ掘って開拓するお手伝いを
させていただきました。


こんな問答を繰り返しながら、半年。

ジョーさんは、ずいぶん変わられました。


以前は他人を責め続けていたジョーさん。


今日はこんなお話をしておられました。


「コーヒーポットを洗いたい、という奴がいて
 一生懸命なんだけれど、

 知能障害があるらしくて、

 せっかく洗ったのを、床に置いてしまうんだよね。

 床にはゴミも髪の毛もあるのに。

 汚いよ、ホント。

 でも、洗った行為を評価しなくちゃいけないかな。」


いまだに自分の綺麗好きは治らない。

けれど、
人と自分の「超えてはいけない壁」を

大事にすることを覚えられた、とのことです。


以前は自分を責め続けていたジョーさん。

「あの頃は愚かだった。情けなかった。」
と言いながら、

最近はあまり嘆いたり泣いたり
しなくなったとの事。


ジョーさん。
以前のご自分は「愚か」だった?

ご自分に厳しかったジョーさん。

子供の頃に、周りの大人に設定された基準は

相当高かったんですよね?


「親父は本当に怖かった。

 認められることがずっとなかった。」


お父様の罰を避け

お父様に認められるように頑張って、

出来上がってしまった脳の回路。


ジョーさんのせいでは、ないですよね。

 

そしてジョーさん。
来月からは、
グループホームを出て、

息子さん夫婦の家の地下に住むことに
なったそうです。


ジョーさんそっくりの、

おせっかいで、気性の荒い、

「超えてはいけない壁」を超えまくる
息子さんとの生活。


孫息子と、新しい赤ちゃんも居るから、

ベビーシッターを頼まれるかもしれない。

子供の育て方のまずさを

指摘したくなるかもしれない。

または、夫婦の喧嘩に

口をはさみたくなるかもしれない。

逆に、息子さんに、あーしろこーしろと

言われるかもしれない。

 

新たなチャレンジ盛りだくさんの
生活環境のようです。


「大変だろうけれど、大丈夫な気がする。」

とジョーさん。


今まで時間をかけて、

充分自分の中の色々を、
整理整頓してこられました。

そして沢山のスキルを身につけて来られました。

 

そして、セッションの中で、予行練習も沢山しました。


「今は神様とご一緒ですか?」

「もちろん。」

神様とご一緒の時は、
後光がさしたような
とても、安堵した良いお顔をされています。


ジョーさん、ここまで到達されたこと、
私から、ひとまず
「おめでとうございます。」
と言わせてください。


ドリスさんには、別の州に彼氏が居ます。
正確に言うと、一度別れた元彼だそうです。


その人が、ドリスさんを尋ねに来るとか。
「もう何か月も前から言っているのだけれど、
 体の具合が悪いとか、親戚の都合だとかで
 なかなか来ない。」と言います。


尋ねに来る理由も、再びマサチューセッツ州に
引っ越してくるためだそう。
「一緒に住むかもしれない。そうしたら、
 私も家賃がだいぶ助かるわ。」


ドリスさんに聞いてみます。


尋ねてくるときはどこに泊まるんですか?
「私の部屋。」


ドリスさんはその人と今も付き合っているんですか?
「友達。でも、最近電話でよく話をするし。」


相手には他に誰か居たりしませんか?
「よくわからない。」


そんなドリスさん。
鬱と肥満体系があるので、

フィットネスクラブに入ることが、

治療の一環でもありました。
それでも、「彼が来るのにしばらくお金がかかるし
時間も無くなるから、彼が帰ってから」と、
入会するのも後延ばしにされています。


そんな風に、ドリスさんは準備をして待っているのに、
次の週になっても、その次の週になっても、
彼はやって来ないようです。


来ない理由は何だと思いますか?

と聞いてみます。
「よくわからない。電話も来ないし。」


連絡はつきますか?と聞くと、
「しょっちゅう電話するけれど、出ないし
 留守電は一杯で、メッセージが残せないの。」


いつ来るかもわからない、そんな相手を
どうして待つのだと思いますか?
「一度は付き合った彼。今でも好きだから。」


相手はあなたの事を大事にしますか?
「するわ。」


こんなに待たされているのに?
「...。」


一端好きになった人を諦めきれない、
機会があれば、また会いたい。
そう思う人の心を責めることは、誰にもできません。


例えば、その彼が来ない場合、
その時のドリスさんの心はどう反応するのか、

念のため想像していただきました。
すると、「わからない。」と答えられました。


確かに。


これは例えばの話ですが、こんな質問に対して
「来ない悲しさと、
 自分を思ってくれない悔しさと
 別れた後の痛みと、
 その後の人生に対する孤独感を思うと怖い。」
などと言葉にしてはっきり述べられるのであったら、
こんな状態にはなっていないはず、

と考える方が正しいのかも知れません。


つまり、自分の気持ちを、なんとなく遠くへ押しやり
見ないところへ閉まっている状態といいましょうか。


その上、ドリスさんの場合は、生活状況は

単純ではなさそうです。


3人のお姉さんが居られるらしいのですが、
一番押しの強いお姉さんのデビィさんと

今現在ドリスさんは同居している最中で、
二人で家賃を折半しているところ。


これにも深い訳があります。


以前ドリスさんは、ドラッグ中毒になり、
入院してなんとかクリーンになりました。

 

数年前から個人宅で住むことができるようになったものの、
お金の出入は自分以外の第三者が管理しないと
州からの生活保護金がおりなかったのだとか。


第三者を必要とする満期はもう過ぎてはいますが、

いまだに自分の銀行口座の通帳もカードも
お姉さんデビィさんが握っているそうです。

 

なかなか切れない関係。


そして一緒の生活の中では、実のところ
掃除も洗濯も料理も、ドリスさんがされてているらしいです。

 

お姉さんが飼っている犬の散歩も、
「姉が全然しないから」、ドリスさんが毎朝しているのだとか。


毎朝尋ねてくる、2階と3階に住んでいるご近所の
女性達の為に、コーヒーを用意するのも片付けるのも
ドリスさん。


そんな中に、さらに姉のデビィさんの33歳の息子が
出戻りで一緒に住み始め

リビングルームのソファーか彼の部屋と化し始めて3か月。


ドリスさんが自分用に買った食品なども、

甥が食べたり使ってしまう。

それにもかかわらず
甥は家賃には一銭も払わないのだそうです。


ドリスさんがお姉さんに「息子に家賃を折半させろ」と
言おうものなら、お姉さんのデビィさんは大声で

まくし立てるのだとか。

 

ちゃんとしたお話しも難しい様子。


「喧嘩する位なら、黙って言うことを聞いた方が楽。」
このセリフは、以前のマーガレットさんのお話しでも出てきた
共依存の方によくみられる現象のようです。


そんな大変な生活状態を一人で耐えていたドリスさんには、
家の中に、彼のような「仲間」が増えることは、

実は心強いことなのかも知れません。


結局のところ、数か月後にドリスさんの元へ、
沢山の荷物と共に、引っ越すような形でやってきた彼、
キースさん。


新しい生活が始まり、ドリスさん、
「キースは料理もしてくれるし、助かる。」
「姉や甥の色々も、考えないで過ごせるし。」と
最初の頃は、喜々として話しておられました。


けれど、それが暗転するには、あまり時間は
かからなかったようです。


病気がちのキースさん。
食べ物に制限があり、歩くことも荷物を持つこともできないとか。
買い物をキースさんの為に行き、
食事は、自分と姉と甥の分と別に、キースさん用のメニューを
考えて用意する毎日。


自分のベッドは、昼も夜もキースさんに占領されているので
家でも休むところがない、その為
以前よりも落ち着かない状態になってしまった、と
度々嘆いておりました。


この苦しい状態は、実に半年以上続きました。
セラピーでも毎回、
お姉さんと、甥と、キースさんへの不満が一杯出ますが、

なかなか次のステップへの決断がつかない様子です。


この人は、以前のご主人が暴力を振るう人だった
ということと、その人の間にできた子供が4人いて、
その内2人がドラッグ中毒にはまっている、ということですが、

それらの話をセラピーの中でうまく活用するのが

なかなか難しい人でした。


過去の記憶についた悲しみも怒りも恐れも、

セラピーではなかなか出てこない、
涙も流さない人です。


鬱と不安症と闘いながら、薬は飲むものの
あまり体を動かすことも運動も気乗りがしないらしく、
回復の突破口をつかむのが、なかなか難しい様子でした。


状況を変えるにも、家を移り住むお金はないし、
別のお姉さんは遠いところに住んでいます。


ドリスさんは以前住んでいた、
ドラッグ中毒を回復した人々が住むグループホームも
考えておられましたが、
その決断もまた勇気がいるもののようでした。


ただ、毎日の姉やボーイフレンドの理不尽さには
愛想をつかしながらも、
同じ行動を続ける自分の弱さには気づき、
何とかしなくてはいけない、と言う意識は
徐々に高まっていったようです。


そして、生活状況も金銭状況も変わらないものの、
ほんの少しずつ、姉やキースさんと Boundary
と我々が呼ぶ「健康を保つための境目のようなもの」を
徐々に築き上げることも出来、
家を空ける「独立した時間」を増やしていかれました。


度々足を運ぶようになった教会では
ボランティアをして、ずいぶんいろんな知識や技術を
身につけたそうです。


けれど、キースさんの介護の為に睡眠が充分に取れず
毎日続くストレスがあまりに溜まっているのか、
体調を壊すこともしばしば。


そんなドリスさんに、私からお話しをさせていただきました。


ドリスさん、ストレスで死ぬ人はいますよ。


「はい?」


もう一度言います。Stress can kill you.
ご存知ですよね。


今のドリスさんの状態がずっと続くと、
ドリスさんに何が起こっても不思議はない、そう思います。

 

先日も、ストレスを抱え込んだ私のクライエントさんが、

脳卒中で倒れました。

そんなこともあるのです。


ドリスさん自身はどうなさりたいですか?


今の状態は、自分の命を投げ打ってでも
保つに値する大切な状況ですか?


「自分が死ぬなんて、考えたことなかった。」

 

しばらく考え込んでいます。

 

「以前の夫の暴力はもっと酷くて、何年も続いた。
それに比べると、これは大したことない気がしていた。」


そうかもしれないですね。

 

人は順応する能力を持っている。
けれど順応する能力は、時として人を麻痺させる。


一方で、人は死を目の前にした時に、
目が覚めることもある、

そんなものなのかもしれません。

 

「私は今死ぬのなんて嫌。」

 

この声が、ハッとするような、

勇気のある、現実直視した人の声に

聞こえました。


「自分の生活費も、いつの間にか姉と甥が使うし、
 キースの世話も疲れた。
 そろそろ自分で銀行の管理をする申請を出したい。
 先生、私、ちゃんとやっていますよね。
 私ずっと、ドラッグやっていませんよね。
 州に申請する時、書類と一緒に出すので
 よかったら手紙を書いてくれますか?」


そう言ってきました。


強さが見えました。
光っていました。


それからあっという間に、

金銭の自己管理をする許可が
州からおり、それと同時に

いろんな転機が訪れました。


キースさんの健康保険では、
マサチューセッツ州で受ける治療が限られている

ということもわかり、
今の状態のキースさんは、やはり

元居た州に戻らなくてはいけなくなったとか。


キースさんと一緒に別の州に行きますか?

と、一応聞いてみました。
「ふん、行く訳ないじゃない。」


なかなか気持ちの良い、

躊躇いの全くない即答でした。


そんな折、自分の娘からも連絡が入ったそうです。
家を今改築しているけれど、一つ部屋が空くから、
そこに一緒に住まないか、とのことだそうです。


「今までの家賃の半額で良いって言われた!
 孫と一緒に居られるし、
 近くに教会もあるんだって。

 週末にあの子達と過ごせるなんて、楽しみ!」


長い間ずっと暗闇に居たのに、
一つの門が開くと、突然すべての門が開く。
人生にはそんな事が時々ある気がします。


天から降ってきたような幸運にも見えますが、
私には、これはドリスさんの努力と決断が
導いたもののように思えるのでした。

 


そして、いよいよ別の町へ引っ越すドリスさん。


私とのお別れの日もやってきました。


「It has been very nice working with you.」


そう言いながら、
セラピーはつくづく「working together」の場だと
思う私が居ました。


力強さを着実に身に着けられたドリスさん。
もうどこに行っても、大丈夫、そう思えました。


新しい土地で、新しい生活を、楽しんでください。

この日はリズさんと、最初のセッションでした。

 

正しく言うと、最初の受付の話し合いを終えた後の
初めてのセラピーセッションの日でした。

 

バーモント州で大学生活を終え、
今はマサチューセッツ州の地元の大学で

働いておられるという彼女。

 

卒業と同時に、付き合っていた彼は
別の州へ行ってしまい、今は遠距離恋愛なのだとか。

 

その彼女の不満。
「電話を毎晩するんですけれど、電話をするのは
 いつも私なんです。私が電話しないと、彼からは
 来ないんです。」

 

その彼とはまだ付き合っているのですか、と聞くと
「彼はまだ、私の事を好きだと言ってくれます。
 今度の連休には、会いに行く予定なんです。」

 

では相手が連絡してこない理由は、何だと思いますか?
と聞くと、
「別に、他に女の人が居るとは思わないんですが
 私ほど、真剣でない気がして、悲しいんです。」

 

相手はどんな仕事をしているのですか?と聞くと、
「私と同じ分野で、大学で寮生を相手に
 泊まり込みでサポートをしています。」

 

忙しいのですか?と聞くと、
「結構忙しいとは思います。私も忙しいですし、
 週末も寮の子達の世話がありますから。」と。

 

けれど、相手が自分ほど強く、この関係を続ける気が

ないのではないかと不安で、
時々尋ねたり、その事で喧嘩をしたりすると、言われます。

 

以前にも別の人と、そういうことがありましたか、と聞くと、
「友達でも連絡をするのは、いつもたいてい私です。
 クリスマスのカードも、私は沢山の人に
 書くんですが、返事が来る事が少なくて。」

 

それについてどう感じますか?と聞くと、
「皆が書かないのが不思議です。

 それに、せっかく書いても相手に

 自分のカードが着いたのか、読んでいるのかも

  わからないで待っている感じで、嫌です。
 私の事なんて、どうでもいいのかな、って
 思うと、落ち込みます。」と

正直に答えられました。

 

そんな理由で、クリスマスや誕生日の後は、

毎年落ち込むのだとか。

 

そんな気を背負っても、カードを書きたいですか?

と聞くと、
「私が連絡をしないと、誰とも繋がらなくなる気がして。

 私が連絡しない時に、相手から連絡が
 来てくれればいいんですが、

 そういうことがめったにないから。」

 

ここで方向を変えて、別の事を伺いました。

 

少し、家族構成とか、リズさんの生い立ち等

基本的なお話を伺ってもいいですか?
「はい。」

 

ファミリー・ツリー(家系図)を書くので教えてください。

ご両親は?

「私が5歳の時に、母は離婚しました。
 父は南米に居て、それ以来会っていません。」

 

ご兄弟は?
「母が再婚した後にできた、腹違いの妹がいます。」

 

妹さんとリズさんの関係は?
「一応...繋がってはいます。」

 

一応?
幼い頃の、家族関係を教えていただけますか?
「それまで母は、父が仕事をしていなかったので、
 母は仕事をしていました。」

 

お父様は、お仕事をしておられなかった?
「酒が原因だと、母は後から言っていました。」

 

子供の頃、お母さんと一緒に過ごした時のことを
何でも良いのでお話しいただけますか?
「...あまりいい記憶はないです。母はいつも
 疲れているか、イライラしていました。
 あ、仕事をして疲れていたので、それも

 仕方がなかったんだと思います。
 再婚してからは、少しまともになりましたが、
 妹ができてからは、私が妹の学校の送り迎えや
 食事、洗濯をしていました。」

 

リズさんが妹さんの親代わりを?
「はい。南米系の家では良くあることです。」

 

なんとなく、母親をかばうような、もしくは

奥歯にものの詰まるような話し方を感じたので、

ここで一端家系図を書くのを止め、
リズさんにお話をしました。

 

リズさんでなくても、子供は誰だって
自分が必要な時に親が傍にいなかったり、
自分に注意を向けて欲しい時に
親が自分を見てくれないことがあれば、

寂しい思いをする、それは自然だと思います。

 

リズさんの心のどこかに古傷があるのだとしたら、
いつかリズさんの心の準備ができた時に、
良かったら「心の傷の膿を出す作業」をしませんか。
しなくてもいいのですが、お話しだけ聞いてください。

 

古傷というのは、普段全く忘れている様でいて、
無意識に、私たちの思考や行動や感情に
さまざまな影響を及ぼしている、そんなものだと
お考えください。

 

いったん閉じた古傷を開けて、中から膿を出す作業中は、

人によっては痛いかもしれません。
なので、リズさんが嫌であれば、無理にすることは
ありません。


けれど、心の用意ができた時に、
傷の奥にあるものを出して、記憶のお話と共に
記憶についた感情をすべて放電してしまえば
その後は傷が綺麗に治る。

 

古傷が少なくなればなる程、
自分はもっと冷静になれる。
思った通りの事をしやすくなる。
そんなものだと、思ってみてください。

 

これは、サイコダイナミックという形の
セラピーの一例です。


そんな説明をざっとしました。

 

すると、リズさんはこう話ました。

「わかりました。私の心にはきっと、

 すごい沢山の古傷があります。 

 でも、母が悪いんではないんです。
 母も自分の親にずいぶんひどいことをされたそうです。」
そう言いながら、遠慮がちに泣いておられます。

 

そうだったのですね。

大事なお話をしてくださってありがとう。

 

それにリズさん。

泣くことは、心に良い事です。

古傷を治す過程で、大事なことなのです。

この場所では遠慮は入りません。

 

ところで、その涙はご自分への涙ですか?
それとも、お母さまへの涙ですか?
「母が気の毒だったから。」

 

そうですか。

リズさんは、ケア・テイカーなんですね。
どんな時にでも、まず自分ではなく、人の事を考える

優しい人なのですね。

 

サイコセラピーに関して、もう一つ申し上げると、
セラピーは、『ご自分の場』で、
自分「だけ」の場、なんです。

誰に遠慮しなくても良い場所。

 

そして、過去の記憶についている

無意識の悲しみや怒り、恐怖、不安、
そういったものを吐き出して、
力をつけるところ。

 

ご両親やご家族への感情をここで述べることは、
「相手の悪口」ではなく、
自分のそれらの気持ちを整理して、
受け止めることなのです。

 

でも、リズさんのペースで、リズさんの思う形で、結構です。
この方法が合わない場合は、他にも沢山の
方法がありますから。

 

その時、リズさんが、納得したような表情をしたかと思ったら、

突然話し出しました。

 

「本当は、ずっとずっと寂しかったです。
 私は、幼い頃、友達もいなかったので
 いつも一人で、人形と遊んでいました。
 ご飯も独りで食べて、片付けました。
 度々祖母のところに預けられたんですが、
 そこでは、ほとんどテレビを見ていました。

 

 母は仕事から帰ってきて、父に殴られ、
 母が泣いているのを見たこともあります。

 

 そんな母が離婚して。
 『新しいお父さんができるのよ』と知らされました。

 

 そうしたら、すぐに妹ができて。。。
 とっても悔しいですね。
 妹は、最初から両親が居て
 母はちゃんと服や物を買い与えたり、
 愛情を示していました。 

 その頃は母もゆとりがあったし。

 

 やっと新しい父親ができたかと思ったら、
 妹に取られたんです。

 妹は、父親にとっては唯一の実の子供ですしね。

 でも、私は違う。やっぱりずっと独りでした。」

 

そう言いながら、涙が流れ出ています。

溢れんばかりに。

 

ずっと待っていた。
待っていたら、いつかは愛情が来ると思っていた。
でも、待っても愛情はなかなか来ない。
お母さんが帰ってきても、別の人に没頭している。

 

人間は、安心できる誰かが傍にいて、
自分の気持ちを理解してくれて、
今日あったこと、考えたこと、思ったことを分かち合って、
そうやって支え合って生きていくのが、
『自然』のようですね。

 

リズさんのお子さん時代は、
人一倍頑張られたお母さまと
お病気だった、実のお父様の為に、
自然の釣り合いではなかった、
そんな風に聞こえます。

 

蓋をしていた気持ちが爆発して一気に溢れ出した。
そんな風に、後から後から涙が
こぼれるリズさんの目。

 

しばらく間が開いたところで、

聞いてみました。

 

ひょっとして、今ある彼への気持ちと、
リズさんの人生に度々ある事と、
そして、リズさんの幼い頃に親へ抱いた気持に、
繋がりがあるとは思いませんか?

 

「え?」

 

幼い頃、満たされるべき栄養が満たされなかったように
満たされるべき愛情が満たされないと、
心に穴があく、そういうことは良くあります。

 

リズさんに当てはまるか否かはわかりませんが、
リズさんが今やっていることは、もしかして
親に求めていて得られなかった気持ちを
彼に求めて、その穴をなんとかふさごうとしている、
そういうことは、ありますか?

 

「ある。うん。あると思います!」

 

正直、私自身も、一回目のセッションで、

ここまで到達するとは思っていませんでした。

クライエントさん達に比べ、リズさんは洞察力があり、

飲み込みが素晴らしく早い人でした。

 

「そうか。そうですね。

 そう考えたら、私自身の問題なんですね。
 昨日も、彼と電話で大喧嘩したんです。
 でも、彼のせいじゃない気がしてきました。
 今日、また彼と、ちゃんと話してみます。」

 

こんな風に最初のセッションが終わりました。

 

また別のお話を書かせていただきます。