「私は何も悪いことはしていない。
親切にしただけなのに!何故!?
子供を返して!!」
ナンシーさんは、半年前、
鬱病とADHD、「その他諸々」の理由で、
私のところに通い始められました。
結婚をしていない彼女には
それぞれ父親の違う、
2人の子供がいます。
11歳次男のT君は、
13歳長女のKちゃん。
正確に言うと3人いるそうですが、
長男は「ある事情」で
あと2年経って成人になるまで
会うことができないのだとか。
そんな、ナンシーさん。
ふとした時に、いつも
誰かのお世話をしている、
お世話好きの人です。
例えば、
最近行き始めたピザ屋さん。
結構イケメンの店長に、
喋り始めたら、いい感じだった、とか。
ナンシーさんも、
子供のいない時は、
どうせ暇だし
店長と話をしているほうが楽しいし、と
通うようになったそうです。
まじめに働いている店長さん。
雇ったスタッフ達が
しょっちゅう休んだり、
すぐにやめてしまったり。
忙しそうな店長さんは
一人でピザやサブを作り、
電話も取って、
お客さんの相手もし、時には
出前もしなくてはいけない。
なので「お客」でありながら、
ナンシーさんは
時折、カウンターから客席まで
ピザを運ぶ手伝いなどを、
してあげるのだとか。
そんな話を
セラピーでしていたかと思うと、
次の週に、アポイントメントの直前に
ナンシーさんから電話が
かかってきました。
「今日セラピーに行けない。
ピザ屋の手伝いがあるから。」
と、突然アポのキャンセルです。
その次のセッションでは、
なんかそわそわ。
「実は彼と、つき合っている。」
という話になりました。
ナンシーさん、お店のお手伝いでは、
お給料がでているのですか?
と聞けば、
「私が手伝いたいから、
お金はいらないの。」
と言われます。
行く場所ができたり
会う人ができると、一時はみなさん
幸せそうな顔になられます。
けれど、しばらくすると、
現実を帯びた話になってきます。
「今日もセラピーキャンセルする。」
との電話が。
どうしましたか?と聞けば、
「今度話す。
いまは店の手伝いがあるから。」
なんだか曇った声です。
一般的に、
以前にセラピーを受けたことのない、
クライエントさん達の場合、
通い始めのころは、
「セラピーはなくても生きていけるもの」
だから、「休んでもやめても変わらない」
と、思いがちのようです。
そのキャンセルする瞬間は、
セラピーに行き始めた理由を
忘れようとしてしまっている様子。
セラピーを始めた理由が、
症状を改善するという目的の
「治療」であるということも。
又、
セラピー以外のものを優先する
クライエントさんの中には、
「人のニーズを優先」して、
「自分のニーズを犠牲」にする、
タイプの人もよく見られます。
「自己犠牲」は、日本の文化では
美化されがちではありますが、
「自分の治療より、人のお世話を優先」
となれば
事情は違う、といいましょうか。
「自己犠牲」の何がまずいのか、
それをまだ理解していない
ナンシーさん。
次のセッションでは、
震えておられました。
どうかしましたか?
と聞いてみると、
「殴られた。」と言われます。
お店の仕事に遅れていくと言ったら、
店長に怒鳴られた。
仕事にミスがあったら、殴られた。
「もう行きたくない。」
セラピーではそういわれるナンシーさん。
にもかかわらず、次のセッションには、
またキャンセルの電話があり、
「彼はいい人だし、私にとって大事。」
とおっしゃいます。
別れるという話にでも触れようものなら、
非常な抵抗でもって、
なんとかしてその関係をつなげようと
頑張るのは目に見えています。
実はナンシーさんの場合、
このような男性との関係のパターンは、
一度ではなかった模様です。
ナンシーさんにとって
人生の最大の危機となった
次のお話も。
ある日、ナンシーさんの息子さんT君が
家に「お友達」を連れてきたと言います。
それも、大人の男の人だそうです。
ナンシーさんは、警戒心を持って、
「誰ですか?息子に何の用ですか?」
と問いかけたそうです。
そうしたら、その男性、クリスさんは、
非常に親切な様子で、
『息子さんが学校からの
道を間違えて迷った様子』だったから、
『家に送ってあげたのだ』
と説明したそうです。
そして、悪い人でもなさそうだから、
度々家に招いて、家族と一緒に
時間を過ごし始めたとのこと。
それからしばらくたった数週間後。
真っ青になったナンシーさん。
セラピーで、何かを言いにくそうにしています。
何かと聞いても、なかなか答えられません。
その日は何も言わずに、別の事をお話して
帰られました。
次の週になって、ようやく話始めた内容は、
といえば。。。
息子が連れてきたクリスという男は、
”Level 3 Sex offender”。
つまり州が「非常に危険」と認知した
「性犯罪者」である
と、知ってしまった、
ということでした。
”Level 3”というのは、
「性犯罪を繰り返す危険性が高い人」
の事を指し、
それに認定された性犯罪者の
住居位置や経歴などの情報が、
住民を守るために、
州のウェブサイトなどで
一般公開されてる模様です。
ナンシーさんは、その事実を
学校からたまたま聞いて
知ったとの事でした。
で、その時のセッションでは
「クリスを、もう息子に近づかせない。」と
言っておられました。
それから数か月後。
なぜか、州の児童保護局から、
私のオフィスに連絡が入りました。
「ナンシーD の件についてですが、
あなたは彼女のセラピストですか?
いくつか質問させてください。」
その時は、いったい何故、私に
ナンシーさんについて、児童保護局が
連絡をしてきたのかが、わかりませんでした。
「ナンシーの息子さんのT君が
性犯罪の被害に遭ったので、
一時的にナンシーの親権を剥奪します。
調査はこれから行われます。」
え?
驚いたのは私です。
一体何があったのか?
それを知ったのは、それから数週間後に
ナンシーさんがセラピーに戻ってきて、
本人の口から説明をした時でした。
来るや否や、一心不乱に泣き出す彼女。
「私は騙されただけ。
何も子供を取らなくったって!」
ワーッっとしばらく泣いた後、
こんな長いお話を、されました。
「息子の誕生日会を、家で催したのですが、
その時に、クリスも呼んだのです。
息子が呼びたがっていたので。」
「それに、クリスはいい人以外には
考えられなかったし。」
と。
「クリスは友達が一人も居ないって
言っていたし。
寂しそうだった。
寂しそうな人の気持ちはわかります。」
といいながら、
『性犯罪者』ということは
頭の端では考えてはいたものの、
その言葉が当てはまらないほどに、
理解しあえる人だった、と言います。
そして、一波乱。
「誕生日の日、
クリス以外にも、息子の友達とその親達、
そして、(ナンシーさんが当時付き合っていた)
彼も来たんです。」
「彼はきっと、
クリスの存在を見た途端、
「誰か知らない男が居る」ことに反応する、
そう思ったので、
クリスのことは何も言いませんでした。」
でも、反応したのはクリスさんの方
だったとのことです。
「クリスは、
『男がいたのか。
俺の事をバラしたら、
承知しないからな。』
って言って、
キッチンナイフを
私の方に向けていました。」
体がガクガク震えて止まらなかった
とのこと。
クリスさんは
そのままドアから外へと抜けて
帰って行ったとのこと。
震え涙目ながらに
お話しするナンシーさん。
お話しは続きます。
それから数日後のこと。
夕方クリスさんが遊びに来た。
断るに断り切れなかったという
ナンシーさん。
「ちょうど夕食の時間だったので、
子供たちと一緒に、
食事を済ませました。」
そして、ナンシーさんがトイレに
行っていた時の出来事。
「しばらくしてトイレから出てきたら。」
真っ青な顔のナンシーさん。
「息子のパンツが下がった状態で。。。
息子の太腿の位置にクリスの顔があった。」
その一瞬に驚愕して激怒したナンシーさんは、
怒鳴り散らして、クリスさんを追い払った、
とのこと。
「信じられない!信用していたのに!
親切にもしたのに、裏切るなんて!」
ナンシーさんのクリスさんに対する怒りが
セラピーの中で噴火しました。
そして、児童保護局の対応は、
「母親が子供を守っていない」為に
「子供に被害が及んだ」。
従って
母親の権利を保持させるには危険、
という運びになってしまった、と
説明してくれました。。
児童保護局も罵倒する
ナンシーさん。
しかしながら、
私は後から聞いて知ったのですが、
児童保護局からナンシーさんへ
の調査が入ったのは、なんと
今回以外に、以前に数回
あったのだとか。
長男と一緒に住んでいない理由は
「自分の責任ではない」と話していた
ナンシーさんですが、
実は、長男が幼少の頃、骨折し、
ナンシーさんは男の家に入り浸っていて、
電話も取らずに過ごしていた為、
救急病院から連絡が入っても、
まったく気づかなかったらしいとの事。
そして似たようなことが
半年に2回も
起こってしまったそうなのです。
そのような男性の付き合いに
流されるナンシーさんの為、
長男は、州の判決により
里子として父方のおばあさんの家に
預けられてしまったそうです。
私からナンシーさんに伺います。
どうしてセラピーで
クリスさんのことを
お話しされなかったのですか?
「先生に嫌われると思ったし、
クリスと離れろと言われると思ったから。」
「私は、今まで誰と親しくしても、
周りの人間は、『あいつはやばい』って
反対ばかりされてきた。」
「それにセラピーで話すと、
児童保護局に連絡されてしまうと
思ったから。」
そうですか。
事実を隠してでも、
相手と一緒に居たかったのですね。
別にクリスさんと付き合っていた
というわけでもなさそうなのに。
ここまで引きずってしまった
本当の理由とは
何なのでしょう。
実はそれには
もっともっと、深い原因が
あった様子でした。
今回は長いので、
続きはまた書かせていただきます。