ジョーさんの場合。
ジョーさんは、綺麗好きです。
もう少し詳しく言えば、
部屋が片付いていないと、気が済まない人です。
ジョーさんは人のお世話が大好きです。
ジョーさんは、精神疾患を抱えた人達が住む、
グループ・ホームに住んでおられます。
掃除や料理の担当が曜日ごとに替わる、
皆が順番で行う家事。
自分があの時しっかり綺麗にした。
それなのに、他の人はあまりキチンと片付けない。
汚れも取れていない。
綺麗になるのが、自分が担当の時だけのような
気がする。
何故だろう?
掃除の仕方をしらないのだろうか?
精神疾患を抱えていると、
汚れにも気づかないのか?
ずっと教えてやっているけれど、
誰もちゃんと分かっていない。
翌日。又、皆が飲んだ後のコーヒーのポットが、
置きっぱなしになっている。
また自分が片付ける。
翌日、自分が朝から出かけて帰ってくる。
すると、また汚れたままでポットが放置してある。
誰かが綺麗にしないと、
このホームは住みにくい環境になる。
何度言っても変わらない人間たち。
ここにいる人間の気持ちが理解できない。
そう思っておられるというジョーさん。
責任感が強く、心は優しい方。
グループホームの外で
煙草を吸っていると、
たばこが欲しいと人が寄ってくる。
「そんな時、僕は煙草を奴らに恵んでやる。」
「皆貧しい。貧しい人に寄付をするのは、
キリストの教えだ。」と、
誇らしくおっしゃいます。
けれどそれ以来、
「俺も俺も」と沢山の人が来たり、
同じ人が、何度もジョーさんのところに
煙草乞いを来る。
自分の吸うたばこが減ってしまう。
それに、何だか利用されている気がして来て、
だんだんイライラしてしまう。
「奴らは、自立心がない。」
そう言って、時にはふと、
キレて怒鳴ってしまうのだそうです。
ジョーさんの場合は、このような気質の為に、
人間関係が時折壊れてしまうようです。
それが誰よりもジョーさん自身にとって、
残念であるとの事。
セラピーにいらっしゃる時は、
前半はたいてい、
「今日もトイレ掃除がなっていない。」
と怒っておられます。
そして、その続きに、
「あいつらは皆どうかしている。」
「この社会は腐っている。」
と世の中への鬱憤ばらしへと繋がります。
そして段々と落ち着いてくると、
相手を怒鳴ってしまった
自分への後悔が激しく、
沢山の涙が流され、
気性が激しいご自分を責めて責めて
責め続けておられます。
そんなジョーさん。
来院された頃は、よく泣いておられました。
「俺のせいで子供を傷つけてしまった。」
若い頃からずっと薬物と酒におぼれて
麻薬中毒の最中に、
自分の部屋が大火事になり
危うく死にそうになったそうです。
下半身ほぼに大火傷をして、
目が覚めたのが入院病棟。
「これは神が俺に叱咤したのだ。」
そう思って以来、
薬物も酒もやめられたという方です。
ジョーさん、薬物をされていた頃は、
当時幼かった二人のお子さんにも、
なかなかまともに接してあげることが
出来なかったとのこと。
成人になった息子が最近、
自分の人生に正面から
向き合うために書いた書記。
息子の手で赤裸々に、そして忠実に書かれた
息子さんにとっての、父親の過去の姿を読んで、
ジョーさんは、涙が止まりません。
「子供がこんな風に感じていたなんて、
全く気付かなかった。
自分はなんて馬鹿だったんだ。」
そんなジョーさん。別の一面もあります。
奥様とは、10年以上前に離婚をされたとのこと。
彼女が浮気をした為だとか。
「あいつは娼婦だ。
あいつがまともだったら、
俺も離婚なんかしなかった。
あいつのせいで、子供といる時間が奪われた。
もう少し、子供たちを何とか守ってやれた。」
ジョーさんは、ご自分以外の人を責めることも、
限りありません。
結論から言うと、
まずは、ご自分へも他人へも厳しい人、です。
そして、自分を激しく責める時と、
方や他人を激しく責める時の、
「振れ」の大きい人です。
そして、誰でもそうであるように、
表面は乱暴なことを言っている裏側で、
実はとても、人と繋っていたい人です。
そんなジョーさんに、
過去のお話をしていただきました。
イタリア系移民のご両親の元で、
お兄さん二人、お姉さん一人の
5人ご家族で育った人で、
お父さんが料理店を出すほどに、
料理にも腕の自身のある人だったとか。
それよりなにより、
お父さんは気性の荒い人で、
食事中にしょっちゅうお皿が飛んでくるような
「子供がしょっちゅうビクビクしている」
そんな雰囲気のお宅だったそうです。
怖いお父さんが設定した「基準」は
いつも高くて、
それに満たないと、
罰せられてしまう。
自分に厳しいジョーさんが、
人に対して厳しいのも、
このお父さんとの関わりが、
深く関係しているように
見えるのです。
一方、お母さまという方は、
ジョーさんがたとえ兄弟にいじめられても、
友人にいじめられても、
ハグも同情も共感もなかったとか。
こんなお話しをするジョーさんですが、
ジョーさんのご自身の認識では、
「自分が子供の当時は、それが当たり前だった。」と。
「当時、イタリア系の家族は皆そうだった。」
と言われるのです。
日本流に言えば、
「いじめられたら、いじめかえしてこい!」
と言われて育った家庭のお子さん、
という感じでしょうか。
どの子供もそうであるように、
本当は愛情や深い理解、そして信頼を
欲していたかもしれないのに。
しかも、
「親父はもう死んだ。
死んだ者の事をいまさら話してもしょうがない。」
と言われます。
確かに。
けれど、昔の古傷を癒すことは、大事です。
親の悪口ではなく、自分の心を受け止めるために。
でも、ジョーさんの場合、
子供の頃の悲しみや恐怖や怒りが
記憶と共に蘇ることは
なかなか難しかったようです。
別の見方をすると、
ジョーさんの行動の根源は、
「親のしぐさを基準に学習した為」、と言った方が
近いかもしれません。
猫が子供を産んで、
母猫に変わった瞬間から、
母猫は人間を見ると
「シャーッ!」と怖い顔をして
子供を守る。
そして子猫たちも母親のその姿から学んで、
人間を見ると、
小さな口で「シャーッ!」と怖い顔をつくって
自分を守る。
これに似た、幼い頃のジョーさんの、
父親から学んだ、
本能的で、ほぼ無意識の学習について
「思い出して語れ」と言われても、
無理なのかもしれません。
こんなジョーさんには、こんなことをお話ししました。
ジョーさん。
ジョーさんは責任の強い方ですね。
社会の腐った部分をよく見抜いておられる。
なっていない人達に対して嘆いておられる。
けれど、セラピーの中では、しばらくの間、
ご自分へ焦点を置いたお話をしていただけますか?
なぜかというと、これは他人のセラピーではなく、
ジョーさんの、ジョーさんだけのセラピーだから。
どんなに他人の行動がまずくても、
他人を変えることは、
なかなか出来ないから。
たとえ出来ても、それは
このセラピーの目的ではないから。
他人ではなく自分の問題にだけ集中して、
自立する力をつけていただきたいから。
そして、3週間試していただきたいことがあります。
― 相手の仕事が変でも下手でも、口を出さない。尊重する。
― 他人からプレッシャーを感じても、自分の行動を変えない。
― 自分がすべきことをすることだけに、細心の注意を払う。
最初は 、難しいかもしれませんが、これは
自立の過程に誰もが必要な、
「超えてはいけない壁」のお話です。
これに対して、ジョーさん。
「だけれど、人を助けるのが僕の使命だから。」
「僕の行動は、親切以外の何物でもないはず。」
ここでジョーさんに、伺いました。
ジョーさん。
グループホームでは、頑張って禁煙をしている人が
どれくらいいるか、ご存知ですか?
「沢山いる。」
ドラッグを経験したジョーさんならお分かりですね。
ドラッグをやめようとしている人たちに
ドラッグを見せる行為は
どういうことなのか。
「助けにならない。むしろ悪化させている。」
ですね。
ジョーさんがもらう立場だったら、どうですか?
「...確かに。
禁酒をしていた時に、
姉の家のクリスマスパーティーで
酒のボトルが沢山飾られてあった。
禁酒している俺の前で、飲んでいた。
俺の苦しみを知っているくせに。
それで姉を怒鳴ってしまったことがある。」
経験がおありのジョーさんは、理解が深いです。
彼らは、中毒患者でもありますね。
では、たばこを欲しがる人に断るとしたら、
ジョーさんはその瞬間、どんな気持ちですか?
「なんか、一人で我がままに思われる
気がして嫌だ。」
気が引ける、だから煙草を渡す。
「それもある。自分の気持ちのせいだ。」
相手が、お礼を言わなったら、どう思いますか?
「それは、許せない。」
「俺の満足がいかないからだと思う。」
そこまで言ってから、ジョーさんは、
ご自分の気性が荒いこと、
自分が我慢できないことを人が平気でいるのが
耐えられないこと。
それが押し付けであると、わかってはいる事などを、
ご自分の口から話されました。
とても深い洞察力です。
ジョーさんは冷静な時はものすごく正直で、
見る眼の鋭い方です。
最初は感情的で、後からものすごく冷静で
深い見方をする。
これはジョーさんとのセッションで、
毎回見られる光景です。
バランスを失った時の「振れ」が大きいので、
いかにしてバランスを取り戻すか、
そこが課題の様です。
ジョーさんご自身の言葉。
「自分は、神と一緒に居る時は、
自分自身をコントロールしやすい。」
そして、
「時々、神の事を忘れてしまうから
バランスを崩す。」
とても正直におっしゃいます。
そしてこんなことも。
「自分は時々、神の手を押しのけている気がする。
マイペースで人を叱咤激励している時の方が
気持ちが良いから。」
この飲み込みの早いジョーさんには、
「クマの餌付け」のお喋りもしました。
マサチューセッツ州には、
たまに野生動物が家の近くに
やってくることがあります。
さらに山深い、お隣の
メイン州やニューハンプシャー州には、
クマなどもいることがあります。
山登りが好きだったジョーさんに聞きます。
山でクマを見たら、餌をやりますか?
「やるわけないだろう!(笑)
無知で初心者のハイカーは
かわいいからと愚かな理由で、
餌付けをしてしまうが、そんなことをしたら
クマは餌を探す能力をなくしてしまうんだ。」
さすがです。
では、ジョーさん。
相手が人間だったら?
クマにリンゴをやるのと、人に煙草を恵むのと、
どう違いますか?
「いや、人間は怠け者だから…。」と言いかけて、
「同じ!同じだ。」
飲み込みが早いです。
一度煙草を与えた人が、
2度目にジョーさんのところに
戻ってきた。
それは、その人が悪いのでしょうか?
「いや。与える俺が悪かったんだ。」
こんな感じのやり取りを重ね
ジョーさんの心の中にある
「満たされていないもの」を
少しずつ掘って開拓するお手伝いを
させていただきました。
こんな問答を繰り返しながら、半年。
ジョーさんは、ずいぶん変わられました。
以前は他人を責め続けていたジョーさん。
今日はこんなお話をしておられました。
「コーヒーポットを洗いたい、という奴がいて
一生懸命なんだけれど、
知能障害があるらしくて、
せっかく洗ったのを、床に置いてしまうんだ。
床にはゴミも髪の毛もあるのに。
汚いよ、ホント。
でも、洗った行為を評価しなくちゃ。」
いまだに自分の綺麗好きは治らない。
けれど、
人と自分の「超えてはいけない壁」を
大事にすることを覚えられた、とのことです。
以前は自分を責め続けていたジョーさん。
「あの頃は愚かだった。情けなかった。」
と言いながら、
最近はあまり嘆いたり泣いたり
しなくなったとの事。
ジョーさん。
以前のご自分は「愚か」だった?
ご自分に厳しかったジョーさん。
子供の頃に、周りの大人に設定された基準は
相当高かったんですよね?
「親父は本当に怖かった。
10代になってバイトに行き始めても、
『給料はいくらだ』、
『もっといい仕事はないのか』、と
認められることがずっとなかった。」
お父様の罰を避け
お父様に認められるように頑張って、
出来上がってしまった脳の回路。
ジョーさんのせいでは、ないですよね。
「...。
なかなか親を責める気になれなくて。」
「でも、確かにその部分だけは、
自分のせいでは
ないと言えるかもしれない。」
そしてジョーさん。
来月からは、
グループホームを出て、
息子さん夫婦の家の地下に住むことに
なったそうです。
ジョーさんそっくりの、
おせっかいで、気性の荒い、
「超えてはいけない壁」を超えまくる
息子さんとの生活。
孫息子と、新しい赤ちゃんも居るから、
ベビーシッターを頼まれるかもしれない。
子供の育て方のまずさを
指摘したくなるかもしれない。
または、夫婦の喧嘩に
口をはさみたくなるかもしれない。
逆に、息子さんに、あーしろこーしろと
言われるかもしれない。
新たなチャレンジ盛りだくさんの
生活環境のようです。
「大変だろうけれど、大丈夫な気がする。」
とジョーさん。
今まで時間をかけて、
充分自分の中の色々を、
整理整頓してこられました。
そして沢山のスキルを身につけて来られました。
そして、セッションの中で、予行練習も
沢山しました。
「今は神様とご一緒ですか?」
「もちろん。」
神様とご一緒の時は、
後光がさしたような
とても、安堵した良いお顔をされています。
ジョーさん、ここまで到達されたこと、
私から、ひとまず
「おめでとうございます。」
と言わせてください。
そして、
ご家族との楽しい日々が
待っていますように。