今日のポールさんは
怒っておられます。
なんでも、昨夜は、
30年来の友人ジェイさんと
初めて喧嘩をし、
それから「もう会わない」
ことに決めたのだとか。
事の初めは、
こんな状態だったそうです。
相手のジェイさんが、
病院で検査を受ける間、
数時間、犬を預かって欲しい
と言われたので、ポールさんは
快く引き受けたのだとか。
けれど、その犬は
非常に大きな声で鳴き、
飼い主を探し、
家にいるポールさんの息子の
寝る時間も差し迫っている状態。
ポールさんは病院の
ジェイさんのところへ、
「とりあえず、犬は車にいるけれど」
何時頃に受け取れるのか?」
と聞きに行かれたのだとか。
ポールさんの奥さんも、
夜勤でそろそろ出かけなくてはいけない。
病院での検査は長引き、
夜11時を回っても、終わらない様子。
しかも、ジェイさんは、
「犬を車の中に置き去りにしないでくれ!」
とハラハラしていたとの事。
それに対し、
「動物より人間の方が大事」
と言われる
ポールさん。
ポールさんは、
「俺は息子を家に夜中
一人で置いておくわけには
行かない。」
と述べてから、
ジェイさんが大反対する中、
その犬を、ジェイさんの車に移し、
家に帰ったとの事。
ポールさんの言い分。
『数時間預かる』予定だったはずが、
夜中を回るまで、犬の世話をし、
妻は夜勤に遅刻し、
子供は眠れず、
俺は相当疲れた。
その上に、
ポールさんはジェイさんに
「裏切者」呼ばわりされた
のだとか。
ポールさん。
「人が親切にしてやったのに、
感謝の気持ちもないどころか、
裏切者呼ばわりするなんて。」
「友人だと思っていたのに、
許せない!」 と
相当傷ついた、と言った様子です。
ところで、ポールさんに
ジェイさんとの関係や、背景を
もう少し伺ってみると、
ジェイさんは、兄弟が多いのに、
今現在は誰とも話をしなくなっており、
幼少の頃から、両親からも、兄弟からも、
粗悪な扱いを受けて育った、
とのこと。
ジェイさんは綺麗好きで、
いつも部屋はビシッと片付いている
一方で、
何か一つの物の場所が移動していると、
ピリピリとイラついてしまう、
そんなところがジェイさんには
あるとの事です。
世話好きのポールさん。
セラピーの中で、
自分以外の人の問題を
話始めると、止まりません。
ジェイさんには、幼い頃からの
色々な複雑な事情がある。
そう分かっていながらも、
今回のことは、とにかく許せない、
と言ったご様子でした。
「今度会ったら、殴り倒してやる。」
全く疑いもない様子で
語っておられます。
ポールさん。
それをしたら、どうなりますか?
「俺が牢獄へ行くことになる。」
そこで伺ってみます。
ポールさん。
さっき、『動物より人間の方が大事』
と言っておられました。
これについて、もう少し
お話しを聞かせてください。
「そんなの当たり前だ。
おれは、息子を一人にすることは
できないと言っているのに、
ジェイは、犬を車に置いて行かないでくれ
と言う。
答えはもちろん、人間を優先する。」
「ジェイは、犬が盗まれると言っていたけれど、
だいたいあんな大きくて吠える犬
誰が堂々と持っていくって言うんだぃ?」
と言われました。
そしてさらに伺います。
ポールさんは動物をペットとして
飼ったことがありますか?
「ある。7歳から9歳の2年間、
俺が世話していたコリー。」
そう言ってから、うつむいて
ため息を出されたポールさん。
「母親が売ってしまった。」
ポールさんの同意なしにですか?
「俺の母親は敢えて
俺が惨めになることをした。」
「母親の浮気について、
父親が俺に色々聞いてきて、
正直に吐くまで、ずっと殴り続けられた。
その浮気がバレて以来、
母親は俺を恨んでいた。」
「そして、母親は、そのころ
俺が母親とのセックスを
拒み始めたから、
罰として、俺を里親に出したんだ。」
そう言いながら、椅子の腕を
こぶしで叩き、上を向いて、
悔しそうに涙を浮かべるポールさん。
ポールさん。
ポールさんにとって、そのコリー犬は
どんな存在でしたか?
「家族の中で、唯一
俺を裏切らない存在だった。」
家族以上の存在
ということですか?
「そうだ。家族以上だ。
友達でもあり、相棒でもあった。」
それを売られた時の気持ちを
覚えていますか?
「あの時は、一度にいろんなことが
あって。」
嗚咽して泣かれるポールさん。
「今だったら、母親を
殺してやりたい。」
そう言われてから、ポールさんは、
今まで封じ込めていた感情を
吐き出されました。
犬が一匹くらいどうなったって
泣くんじゃない!
そんなメッセージを親から受けた
ポールさん。
当時どうしようもなくやるせなかった
自分の心を収めるには、
「犬なんて」と自分に
言い聞かせていたのかもしれない、
そんなことを言っておられました。
自分の痛い過去の気持ちを
見ないようにしていたポールさんには、
友人の似たようなペットに対する気持ちも
完璧に無視したかったのかもしれません。
ペットが家族と同じような存在である
ことは、実はわかっておられるのでは
ないのですか?
「...。」
いつもすぐに反応されるポールさんが
黙って下を向いたままです。
わかりました。
ポールさんは、傷ついた、と言って
おられるのですよね。
本来は、数時間だけ
めんどうを見るという約束だった。
それが、予定外の時間に
及んでしまい、
そこで、相手が
『迷惑をかけてごめん』と言うのでも
『長時間面倒を見てくれてありがとう』
と言うのでもなく、ポールさんを
『裏切者』と呼んだのですからね。
「本当だ!
友達だと思ったから、
世話してやったのに!」
「感謝の気持ちが一つもないなんて、
俺に対する侮辱以外にの
何物でもない!」
沢山の怒りを発しておられます。
奥様も遅刻してしまわれたのですね。
「妻は言っていた。
俺は一つも悪くないって。」
そう言ってから、ポールさんは、
翌日我慢できなくなって
ジェイさんに電話をしてしまい、
口論に発展してしまった、
その時の内容について、
説明してくださいました。
要約すると、
ジェイさんの言い分は、
ポールさんの息子が
10歳になる小学生なら、
家に一人でいても良かったはずだ。
自分の犬より、息子を優先するなんて。
友人だったら、病院を出られない
自分の要望を聞いてくれても
良かったであろうに。
とのこと。
全てを受け入れてほしい
という感じがにじみ出ています。
一方、ポールさんは、
「俺の息子の話は一切するな!
これ以上したら、おまえの
腕をへし折ってやるからな。」
と言って、相手を黙らせたのだとか。
その後に、
「お前とは金輪際、一生
口もききたくない。」と言って
別れたのだそうです。
この話の中に、
ポールさんをずっと
父親のように慕って、
頼ってきた、まだ精神的に
自立でき切れていない
ジェイさんの姿と、
自分の領域を犯されて、
戦闘態勢に入っている
ポールさんの姿が
垣間見れた気がしました。
以前のポールさんのお話を
読んでくださった方は
ご存知かもしれませんが、
ポールさんには、
心の領域を犯され続けた
厳しい過去があり、
その過去の傷に触れる度、
逆上してしまう傾向が
いまだにあります。
一方のジェイさんの過去は、
私には詳しくわかりませんが、
このお話を伺うだけでも、
実際のポールさんに対してではなく、
全ての要求を満たしてくれなかった
「過去の親か誰かによって
できた古傷」に触れて
乱れている、と言う感じが
推測されます。
ポールさん。
私の推測は
間違っているかもしれませんが、
でも、どちらにしても、
ポールさんが、ジェイさんの反応を
個人的に心に沁み込ませる必要は
ないのではないでしょうか?
「え?」
ポールさん自身が
実はジェイさんにではなく、
ご自分の過去の親や兄弟のしたことに
反応しておられますよね。
同じように、もしジェイさんが、
ポールさんにではなく、
過去の親や兄弟のしたことに
反応しているのだとしたら?
「...。」
天井を見つめて、
考えるポールさん。
「そう言われたら、なんか
怒らなくて良い気がしてきた。」
すっきりした理由を
ポールさんの言葉で
言ってみてください。
「だって、自分が怒っている理由が
冷静に考えてみたら、
昔、俺にひどい事をした親に
向けているって、わかるし。」
「そう考えれば、
ジェイの周りの家族も酷かったし
ジェイは、ちょっと自分の思うことと違うと
耐えられない性格だから、
それは俺の問題とは関係ないわけだし。」
ポールさん、さすがです!
早いですね、いつも見渡すのが。
鋭いです。
「あ~♪ またスッキリしちゃった!」
では、ポールさん、
次にジェイさんに
道でバッタリ出会ったら
どうされますか?
みるみる内に、
怒りで込められるポールさんの目。
「殴り倒してしまいそうで怖い。」
何故ですか?
「わかんない。」
怒りと、やるせなさを
顔ににじませるポールさん。
では、ポールさん。
そんな気持ちになってしまった時の
黄金ルールは
なんでしたっけ?
「別の場所に行く。」
そうでした。
相手を殴りたい。
そんな、脳の感情部の
血流が一杯の時は、
冷静に考えるのは無理
と言った方が安全でしょう。
とにかく別の場所に行って、
深呼吸をし、
落ち着くまで何もしない、
というルール。
と、脳の図を見ながら、
おさらいをします。
「そうか。それなら既に、
ずっとやっているから。」
自信を取り戻した様子の
ポールさん。
こんな風に、
試行錯誤と練習の
積み重ね。
けれど、ポールさんは明らかに、
以前の、
「いつの間にか人を殴って
自分が罰を受けている」
状態から、
人の心も理解できる状態へと
変わって来ておられます。