2010/07/17(土)
LEONです。
浅田次郎の『輪違屋糸里 下』を読み終えました。

いよいよ近藤一派による芹沢鴨暗殺が決行されます。
土方に寄り添うて、十五夜の月を見たいと思っていた。希いが通じたのだろうか。
『お通ししとくりゃす』
華やぐ心が言葉にならぬよう、糸里は声を鎮めて言った。
やがて女将のお愛想に送られて、土方が梯子段を上がってきた。糸里は座敷の
隅に身を屈めた。
いちど廊下の左右を窺ってから忍ぶように襖をしめ、土方は糸里の前に座った。
表情はこごえるように硬い
『明日の晩に決まった。ただし、月が隠れればの話だがな』
そのとき向こう屋根に月が顔を出した。
篠つく雨音に糸里は目覚めた。
床から這い出して雨戸を押しやる。縹色(はなだいろ)に明るんだ空の一面を
厚い雲が蓋い、縫い針を撒き散らしたような雨が降りしきっていた。糸里は窓
辺に俯した。
芹沢が憎い。土方が愛しい。恨みを晴らして好いた人と添いとげることに、ためら
いなどあってはならぬはずである。
ならばなぜ雨を嘆く。雲を怖れる。
唇を噛みしめてひそかに身悶えながら、糸里は苦悩を打ちあける人のひとりとて
ない寂しさを思い知った。
浅田さんの豊かな『雨の表現』が素敵やなあと思いました。
糸里は・・・大切な音羽太夫をいわれの無い無礼打ちで殺した芹沢鴨は確かに憎い。
聡明だが冷徹な土方には不安を感じながらも惚れている。
近藤一派は会津卿から、問題の多い芹沢一派の始末を命じられているが、お互い腕
自慢同士、通常の立ち合いでは必ず勝てる保証は無いと計算した土方は、酒を飲ませ
さらには糸里にしびれ薬を飲ますように命じたのだ。
『この分やと、明日も月夜やと思いますけど。かいづさんのお下知なら、なに
も闇討ちにしやはらへんでも、正々堂々とお立ち合いにならはったらええのに』
とそのやりかたに疑問をもちながらも、このことばに押されてしまうのでした。
万事がうまく運んだなら、俺と所帯を持とうじゃねえか。いやなことさっぱり忘れて
夫婦になろうぜ。
糸里はTBSのドラマで上戸綾が演じたそうです。



それにしても浅田次郎さん、失礼ながらこの顔で、女を書かせたら天下一品。すばらしい作品でした。
