伊与原新『オオルリ流星群』 | のんびり まったり やんごとなき みやびなまいにち

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つれづれなるまゝに、日ぐらし硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとをそこはかとなく書き付くれば、あやしうこそ物狂ほしけれ。

伊与原新『オオルリ流星群』(2022)を先週読みました。なぜ図書館で予約したのか覚えていませんが、もしかしたら「読書メーター of the Year 2022」第1位作品だったからかな。




見えない星が、人生の幸せを教えてくれる。
「あのときのメンツ、今みんなこっちにいるみたいだぜ」「まさか、スイ子か? なんでまた?」スイ子こと、山際彗子が秦野市に帰ってきた。手作りで太陽系の果てを観測する天文台を建てるというのだ。28年ぶりの再会を果たした高校時代の同級生・種村久志は、かつての仲間たちと共に、彗子の計画に力を貸すことに。高校最後の夏、協力して巨大なタペストリーを制作した日々に思いを馳せるが、天文台作りをきっかけに、あの夏に起きたことの真実が明らかになっていく。それは決して、美しいだけの時間ではなかった。そして久志たちは、屈託多き「いま」を自らの手で変えることができるのか。行き詰まった人生の中で隠された幸せに気付かせてくれる、静かな感動の物語。

著者について
●伊与原 新:1972年、大阪生まれ。神戸大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻し、博士課程修了。2010年、『お台場アイランドベイビー』で横溝正史ミステリ大賞を受賞しデビュー。19年、『月まで三キロ』で新田次郎文学賞を受賞。21年、『八月の銀の雪』が直木三十五賞候補、山本周五郎賞候補に。同作は21年、本屋大賞で6位に入賞。

オオルリ


舞台は秦野市。なじみがないので場所を調べてみた。「はたの」じゃなくて「はだの」なのですねびっくり


高校生最後の夏に1万個の空き缶によってオオルリを描くタペストリー作りに明け暮れた現在45歳の同級生たち…1️⃣安定していそうだからとなんとなく安易に父が経営する地元の薬局を継ぐも、業績が思わしくなく、かと言って努力も改善もしようともしないで奥さんから責められる久志 2️⃣「45歳定年説」を唱えて番組製作会社を退職して(←実は辞めた事情あり)司法試験を受験する修 3️⃣もともと獣医になりたかったが学力不足と経済的理由で諦め、タペストリー作りを支援してくれた教育実習生の益井に憧れて教師になったものの、夢とは程遠い教員生活を漫然と過ごす千佳 4️⃣電機メーカーに就職するも心を病んで退職し、自室に引きこもって3年の梅ちゃん (5️⃣タペストリー作りを提案したものの途中で理由を告げずに離脱し、高校卒業後すぐに自殺or事故死した恵介) そこに…6️⃣彗子が希望して入った国立天文台を不本意にも退職して28年ぶりに秦野市に戻ってきて、独力で(たった550万円の資金で)天文台を作ろうとする…


こんなはずではなかった。なんでこうなってしまったのか。ときにそんなため息をつきながら、四十五歳を懸命に生きている。十八歳のときに思い描いていた人生とは、まるで違う日々を。

渡辺君(←中学1年生)も、四十五歳になったらわかるよ


小・中学時代にはクラブ活動や生徒会等いろいろやっていたけど、高校時代には(もちろんプライベートではそれなりに遊んではいたものの、いわゆる進学校だったので)全ての教科から猛烈な宿題が課されるため勉強に明け暮れていたので、この小説に出てくるような思い出はない…だから こういう熱い想いをもって高校時代に何かに打ち込むのは尊いことだと思う。この小説では、さらに高校卒業から28年後にまた集まって、彗子を手伝って天文台を作るという。彗子は完璧な女性だという思い込みから最初は一生懸命になれなかった久志の心の動きとか、引きこもってしまった梅ちゃんを思いやる気持ち、高校生当時や卒業直後に知らなかった事情が少しずつ明らかになってくるなど読みごたえがありました。特に最後の場面に感動。「来年、どんな夏を過ごすのだろう」「脳内物質のメーターが振り切れるような季節にすることは、きっとできる」。遥か彼方にある星を観察するというロマンもあいまったとても清々しい作品。また、若い頃一緒に過ごした友人はかけがえのないものだと改めて思いました。