N響第1851回:カルメン(デュトワ&アルドリッチ) | のんびり まったり やんごとなき みやびなまいにち

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つれづれなるまゝに、日ぐらし硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとをそこはかとなく書き付くれば、あやしうこそ物狂ほしけれ。

NHK交響楽団の創立90周年特別企画を兼ねた第1851回定期公演Aプログラムは、シャルル・デュトワ指揮による『カルメン』(演奏会形式)。2日目を聴いてきました。

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2016年12月11日(日)15時開演
NHKホール
ビゼー:歌劇『カルメン』(演奏会形式)全4幕 字幕付き

『カルメン』は年明けの1月に新国立劇場でも上演されます(こちら)。DVDを久しぶりに出してきて前日に予習。C. クライバーの指揮、ゼッフィレッリの演出、オブラスツォワのカルメン、ドミンゴのホセ。1978年ウィーン国立歌劇場の超有名なDVDです。
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チケットは完売。舞台奥の上手に男声32名、下手に女声48名。児童合唱約45名は必要に応じて下手に登場して歌います。コンマスはマロ篠崎さんで、オケは14型通常配置。この写真は、カルメンの小物でお遊びしているマロさん。
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デュトワさん颯爽と登場、80歳に見えません。指揮する姿もビシッとしていてなんともカッコいい。本当に80歳なのかと思ってしまうほど。私なんかより断然体力がありそうな気がする。

客席のお父さんたちがお待ちかねのアルドリッチさんは、お色気満点の肩を出して胸元が大きく開かれた朱色のドレス。前にスリットが入り、おみ足がチラリ… 裾を引きずりながらなんともなまめかしいです。清純なミカエラを選んでおけばいいものをホセはカルメンにイチコロです。まさにアルドリッチは適役ですね。第1幕ハバネラ「恋は野の鳥」や「セギディーリャ」はとても魅力的。演奏会形式ながら、踊りもクネクネと刺激的〜 カスタネットの腕前も慣れたもので、さすが前評判どおりでした。自由に生きて誰にも束縛されない奔放なカルメンを重めの声で見事に歌うアルドリッチ。歌は本調子でなかったかもしれないですが、迫力があって素晴らしかったです。

ホセのプエンテ。彼もストレスのない伸びやかなテノールで適役。第1幕でのミカエラとの二重唱「母の様子を聞かせて」はグッときました。涙腺が緩み、ウルウルですあせる また、第2幕での彼の唯一のソロ「花の歌」をしみじみと歌いあげてそれは素晴らしかったし、一方で第4幕のクライマックスでは激情したホセをドラマティックに表現。最後にカルメンを刺し殺すに至るのですが、ミカエラがいるのにそこまでしなくても…と冷静に思ってしまいますが、そうしないとオペラにならないもんね… カルメンはまさに Femme fatale なんですね。

ミカエラのシルヴィア・シュヴァルツさんが実に素晴らしい。めちゃ美人だから加点はあるけれど、シュヴァルツの歌が一番素晴らしかったと思う。もちろん、アルドリッチが主役だし、N響アンケートでも第1位は彼女が取るのかもしれないですが、出番はそう多くない割にそれぞれの歌が胸に響く圧倒的な存在感。第1幕では故郷にいるホセの母のことを伝える可憐で健気なミカエラ。紺のシンプルなドレスがカルメンとは対照的なミカエラの清純な性格を現し、それを歌でも見事に表現していたシュヴァルツのなんと美しいこと。歌もね… また、第3幕では、ちょっとモコモコした白い上着を羽織り、さらに美しさを増して登場し、ホセを連れ戻すための決意を歌う「なんの怖いことがありましょう」が実に素晴らしい出来でした。まだ33歳。とても楽しみなソプラノで、ぜひまた聴いてみたいです。
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第2幕から登場するエスカミーリョ。NHKの「サラリーマンNEO」に出てくるセクスィー部長っぽい? 男の色気プンプンじゃないと務まらない役ですが、ダルカンジェロさんは超セクスィー。特に女性のお客さんの期待に十分応えていたのではないでしょうか。彼は先日のウィーン国立歌劇場来日公演『フィガロの結婚』でもアルマヴィーヴァ伯爵を歌っていた実力のある歌手ですが、超有名な「闘牛士の歌」は結構イマイチガーン 一番の聴かせどころなのに、正直、ちょっと驚いた。低音部が全然出ておらず、クリアに聴こえてこない。どうしたのかなと思いましたが、第3幕ではとてもいい感じだったと思います。

日本人ソリストでは、「カルタの歌」などの山下・平井の女声コンビとモラーレス与那城さんが特に印象的でした。

合唱がとても素晴らしかった。新国立劇場合唱団はやはりさすがに上手いですが、児童合唱もとてもよかったです。第1幕から最後までスキがないですが、特に第4幕の男声合唱、女声合唱、児童合唱が歌うところは感動的。N響の演奏も素晴らしいの一言で、ここはめちゃ泣けましたあせるまた、群衆が随所に出てきますが、統制された合唱は実に素晴らしかったです。

デュトワが最初に立たせたのは、Tp 菊本さん。第1幕の衛兵の交代、第2幕での2人の亀裂の原因となる帰営のトランペットなど、安定していました。また、第3幕直前の間奏曲でのフルートは甲斐さん。ここもとても美しかったです。挙げていけばキリがないですが、マロさん率いるN響の弦はとてもレベルが高いと思います。N響の演奏は、第1幕の前奏曲からワクワク感が止まらない。ビゼーは不遇なまま『カルメン』初演から3か月の36歳の若さで死んだのがもったいない。デュトワさんの指揮で、オーケストラの力が十分に発揮されたとても素晴らしい演奏でした。契約とかスケジュールで無理なんだろうけど、1年に1演目だけでも新国立劇場のオペラでN響が演奏してくれないものだろうか。それくらい今回のカルメンの演奏は素晴らしかったです。

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【指揮】シャルル・デュトワ Charles Dutoit
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【カルメン】ケイト・アルドリッチ Kate Aldrich
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【ドン・ホセ】マルセロ・プエンテ Marcelo Puente
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【エスカミーリョ】イルデブランド・ダルカンジェロ Ildebrando D’Arcangelo
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【ミカエラ】シルヴィア・シュヴァルツ Sylvia Schwartz
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【スニーガ】長谷川 顯
【モラーレス】与那城 敬
【ダンカイロ】町 英和
【レメンダード】高橋 淳
【フラスキータ】平井香織
【メルセデス】山下牧子
【合唱】新国立劇場合唱団
【児童合唱】NHK東京児童合唱団

NHKホール前は青の洞窟
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ここ数年でN響の演奏会に50回以上足を運んだと思いますが、ここまで熱狂的な拍手と bravo、brava、bravi は記憶にありません。ソリストが多いとはいえ、15分弱も続きました。また、私の聴いた中では、もちろんソリストが素晴らしくて感動に震えた協奏曲はありましたが、公演全体としてはこの演奏会がベストかな。

さすがデュトワと感服。超一流の指揮者が振るとこんなに素晴らしい演奏になるのか。カーテンコールでは、お気に入りのアルドリッチとシュヴァルツに挟まれて手をつなぎ、満面の笑みを浮かべるエロオヤジぶりを発揮 繰り返すが80歳! していたほか、シュヴァルツにキス! 許せん! 10年後のN響100周年記念では90歳だけど、まだまだやれそうな気がするのでぜひ振ってほしい。

私もあんな80歳になりたい

N響恒例の「最も心に残ったN響コンサート&ソリスト2016」の投票が始まっていますが、デュトワ『カルメン』で100%決まりでしょうね。
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年明け1月に新国立劇場で『カルメン』が上演されますが、新国立劇場合唱団がまた素晴らしい歌を聴かせてくれるでしょう。楽しみです音譜