水曜日
Aさんは付き合い始めた当初から良くお腹が張るだの下しただのピーピーよく言いながら頻繁に市販の薬を飲んでいて、私はそれがとっても気に入らなく、「決めました。検査しましょう。何が悪いか徹底的に調べてもらいましょう」とネットでえいやっと検索して一番クチコミ評判のいい胃腸科の電話番号を調べ速攻で予約を取り「明日、胃カメラと直腸検診やることにしました。事前に下剤を飲まなきゃいけないらしいのでわたくし今から病院行ってもらってきます」と病院に出かけてさっさか下剤をもらってきた。
以前胃カメラでオエオエになってしまったAさんは「え~、またあれやるの…しかも下からも…恐怖…」とおののいていたが、その病院はさすがクチコミ一番なだけに無痛をうたっているところ。「大丈夫だから痛くないからやさしくするよ」と真心ゼロのナンパ師のようにうそぶいておいた。私は胃カメラも直腸検診もやったことがない。
私としては、今は腹が張るくらいの自覚症状しかないから、もしガンがあったとしてもステージはかなり初期なはず、それよりも今腹の中が荒れている状態ならそれをしっかとカラーモニターで彼に見ていただき、この欧米チックな食生活(肉とチーズラブ)を見直してもらわないと!と思っていた。
朝もはよから1.8リットルの水で溶いた下剤を飲むAさん。味はポカリスエットみたいで悪くないみたいだ。シェイクした私の鼻にもレモンぽい匂いが届く。7回近くトイレに行くも、そんなに腹は痛くないらしい。バスと電車を乗り継いで1時間の病院へ。途中、一回だけ乗り換えのときにトイレに行ったけど、おおむね問題なし。電車内でもらすのだけは勘弁とお互い思っていたので。受付に予約の旨を告げ、問診表を埋めて提出。心もとない表情でAさんは検査室に消えていった。私はそこらにあるhanakoやらvogueやらを読み倒し、ふと気づくと1時間半がたっていた。遅いな~通常20分くらいの検査のはずだけど…。と思っていたら、顔面蒼白なAさんが出てきた。安定剤が効いていてかなり気分が悪く眠いらしい。話しかけても返事がはっきりしない(そして後で聞いたら全然話したことを覚えてなかった)。私もこの前の手術のときはそうだったもんな、明けたあとは気持ち悪いんだよね~。
で、1時間くらい待たされてやっと先生と話す。胃は荒れているだけだったけど、腸にポリープが2つあったので切除しました、とのこと。両方とも1cm以内のものなので悪性の可能性はほとんどないけれど、とりあえず病理検査に出してもらう。「今日、検査してもらってよかったですよ~」と言われる。ほ、ほんと良かった。ただ、いつもの腹の不具合はこのポリープとは関係なく単に体質でしょう、とのこと。腸が人より短いので、張りやすいんだって。したがって乳製品や刺激物は避けて、お腹に良いものを食べるようにすすめられた。おっしゃー!これで脱チーズできるわ。私は一人暮らしのときはチーズなんか一度も買わなかったのに、Aさんと暮らし始めてから冷蔵庫に3種類のチーズが常備していることになったのだ。下手するとこれプラス冷蔵ピザが入っている。多すぎ。
帰宅して、Aさんに飲ませるコンソメスープを買いに行ったりおかゆを出したり自分のレトルトカレーを温めていたら、長輔がエサをそこらに撒き散らし、お尻にウンコをくっつけて歩いていた。ああああと思いつつも、後で洗ってやるから!とサークル内に入れ、自分たちの食事を済ませて(Aさんは昨夜から絶食、私も付き合ってパン一個くらいしか食べていなかったので)片付けてから長輔を洗面所のシンクに持っていってシャンプーする(もちろん私はゴム手袋着用)。長輔のエサは半分以上遊んでしまって残され、お腹がグーグーキュルキュル言っている。お腹すいてるなら食べればいいのに…?と思いつつ、ブオーンとドライヤーで乾かしてまたサークルへ。遊んであげたかったが、私は今日午後できなかった仕事が溜まっていたのでおらおらとメール返信と電話対応をする。落ち着いたところで、長輔のお腹はどうなんだろ、と思い、妹②に電話したところ、「今日はじめて6時間留守番したからか…。ストレスだね。エサのぶちまけもかまって欲しいからわざとそうやってんだよ。放っとくしかないよ、そこで甘やかしたらお留守番できない子になっちゃう」と言われた。シーザーに続いてお前もか~と半泣きしつつ、無視することにする。ごめんよ、遊んでやりたいけどよ。
Aさんは普通よりちょっと安定剤の効きが良すぎたみたいで、ずっと具合が悪そう。病気じゃないけど、ふらふらしている人を連れて電車に乗せるのは大変気を使う。バスも一回途中下車して吐いてしまった。看病+犬の世話+仕事をバーっとこなすのは、大変なんだなあ。って言っても私のこんなのは今日一日だけの超プチな大変だ。流産したとき、「ああ…実際、子どもを亡くすってことはこれの何倍も何倍も…辛いんだな…私のこんなのは、プチ体験だな…でも、なんか、1mmくらいは分かった感じ…」と思った。シーザーを亡くしたときも、「でも、実際の人間の子どもが急死することに比べたら…あああ…」と思った。なので最近続いている小さい子が亡くなってしまう事件にはご家族の心情はいかばかりか、と今までよりもずっと悲しくなってしまった。そういえばちょっと話は違うが、長輔は一気に食事しないタイプで、エサをあげてもおもちゃで遊んだり私に絡んできたりトイレをしたりと大変落ち着きがない。「ああ~、小さい子どもがごはんを真面目に食べてくれないで、食べ物で遊んだり、ちゃんと大きくなるのかしらこの子、ああ散らかしまくり、って思うお母さんの気持ちが1mmくらい分かる。むかつくけど、心配なもんだなあ」と思う。私はいつもプチな体験どまりで、なんとなくその「世界」の扉の隙間から見させてもらっている気がする。でも、プチで済んでるあたり、自分はまだまだだと思うし、これからプチじゃなくて本当のすごい大変なことが待ってるに違いないので、ああ、これも練習練習、本番が来たときびっくりしないで対処しなきゃね、と思うことにしている。そして日々の普通の出来事を、本当にもっともっと、かみしめて生きていくしかないってことだ。
土曜日
土曜日、Aさんの仕事が夕方に終わったのでみなとみらいへ行った。シーザーとは良く来た赤レンガのクア・アイナへ。私はハンバーガーより米、な気分だったので、崎陽軒の豚のやわらかく煮たのが乗った丼と温かいウーロン茶。半外のテラスで食べる。ザッ子はここで大人しく出来たが、長輔はこういうところははじめてなのでうるさく鳴いたら困るな、とちょっと緊張した。行き交う人々を面白そうに見ている長輔。でも黙っていられる。よかった。少し離れたところに居た黒いダックスが吠えると、呼応してちょっと吠えた。他のお客さんに迷惑なので「やめなさい」と止める。食後に海沿いを歩き、ワールド・ポーターズに犬は入れるかな?と覗きに行ったが、店の前で小さいチワワとお留守番している女の人がいる。ああ犬はダメなんだなと思ったらやっぱりそうだった。そのまま通りを渡り、馬車道へ。あの気の抜けた花火のような飾りがなくなっていてつまらない。いっぱいの白い丸で出来た球体のところに人が集まっている。見に行ったらちょうどこれからここで踊りが始まると言う。5分もしないうちに、赤いチュチュを着た女性がひょこ、ひょこと赤いやかんを持ってやってきた。前衛的ダンスであった。ここでも、長輔が鳴いたら早急に場所を離れなければ、と緊張して犬を抱いていたが、音にも驚かず、踊りを見るでもなく、じっとしていた。踊りはものすごくアバンギャルドで、意味は分からなかったが、伝わってくるのはなんだか廃退的な哀しいイメージ。…私はドラマでも漫画でも何でも作り物の悲しいものを見るのはすごく疲れる。人生には悲しいことが実際にあるから、悲しいものをあえて見なくてもと思う。「泣ける○○」とかを好んで見る人の気持ちがまったく分からない。なので、踊りの後、がっくりした気持ちになった。Aさんも「…前衛的だったねー」しか言わない。「私はあんまり好きじゃなかったよ。なんか、ああいう踊りを見るなら、ディズニーランドのパレードを見たほうが断然楽しい」と言った。自分で選択して見るものは、愉快で楽しいもんのほうがいい。ネガティブなものは(ヘタとかそういう意味じゃなくて)悪夢を見るのと同じくらい、どっと疲れるんだよなあ。
馬車道を通って、夜の遊園地の脇をゆるゆる歩く。長輔大張り切りでぐいぐいと歩く。彼は夜の散歩ははじめてだけど、気温もちょうどいいし、道は歩きやすいし(車やバイクがすぐ横に走るのはきらいみたいだ)、私もAさんも2人とも揃ってるから嬉しくてしょうがないんだろうな。
大島弓子の「サバ」シリーズと銀色夏生のドバイの本を読んだ。「サバ」の方、猫の本だけどものすごく良く分かる。私もシーザーや長輔を触っても触っても、「遠い」と思う。私は「グーグー」シリーズを読んでからこれらを読んだので、断然面白く、楽しんでしまった。なるほどね、流れの中で読んでいる古参のファンには、グーグーの最新刊なんてどうしちゃったんだろ、っていうスカスカ感。野良も狸も彼女にとっては「サバ」なんだろうな。
ドバイの本を見てAさんが何これと言う。銀色夏生がドバイに行ったんだってー、これ見たらおなかいっぱいで、もうドバイに行った気になったから私もういいわ、と言ったら、ぺらぺらと写真のページを見ながら「そんなことないよ、行きたいドバイ。子どもたち、大きくなったねー」と言っていた。常々私がつれづれシリーズの写真を見せていたので、カーカとさくちゃんの成長が分かったらしい。


