Lを捉えたこの対称性という印象はもう一つの対称性の形と結びついていた。それはフリーダの「ちょっとした刺し傷」と題された有名な絵が差し出すそれであった。彼女はこの絵を妹のクリスチーヌと夫のディエゴが不義の関係になったことを知った直後に、当時新聞の三面記事を賑わした情痴殺人事件にインスピレーションを得て、描いたという。
男は愛人をナイフでめった刺しにして殺害したのだが、逮捕されたさいの尋問で「ほんのちょっと刺したまでよ」と嘯いたという。フリーダはこの新聞記事をそのまま絵にした。ベッドの上に全裸の女が全身朱に染まって絶命しており、その傍らでナイフをもった男が卑しい薄ら笑いを口元に浮かべて突っ立っている。フリーダは男に刺し殺された女の無念と恥辱と苦痛に心を寄せた。彼女は犯される女の側に立って殺害される女の絵を描いた。