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Lにはまだこのとき次の問題の系列に視点をゆき着かせるほどの準備がなかった。後に彼はキャサリン・ブラックリッジの『ヴァギナ 女性器の文化史』を読み、次の直観を得た。フリーダにおけるLいうところの「女性器へのオプセッション」は、旧石器時代に始まり各民族で多様な形態をとるにせよ、バッハオーフェン流にいえば、人類に普遍的な「母権制文化」の全時代を通じて人類的規模でおこなわれた女性器崇拝、その二〇世紀における一人のメキシコ――古代母権制文化の片鱗をなお色濃く残すインディオ文化、アステカ文化の地、D・H・ロレンスの『翼ある蛇』の書かれた――のコミュニストたる女性画家による絵画的継承としても受け取られるべきなのだ。この旧石器時代以来の女性器崇拝においては、ヴァギナは世界の起源・魔を払い・生殖力を増強し・死を再生に導き・「世界とすべての生命を破滅の瀬戸際から引き戻す触媒」[i] ・豊饒と創造と未来の再開のシンボルとして崇拝された。キャサリンはメキシコで発見された「女性(植物であれ人間であれ)の性器と生殖力との結びつきを示している」岩に刻まれた女陰彫刻についても詳細に報告していた[ii]

 バッハオーフェンについていえば、彼は古代母権制文化にとって女性器崇拝がいかに決定的な意義をもったかを『母権論』の随所で強調した。たとえば、「物質的・母性的宗教においては、受胎し子を産むクティス(陰部)に自然の生の領域での優位が認められ、これがデーメーテールあるいはヘーラーの秘儀において彼岸にまで届く希望の中核へと高められる」[iii] と。 


[i]  キャサリン・ブラックリッジ、藤田真利子訳『ヴァギナ 女性器の文化史』河出書房新社、二〇〇五年、三八頁

[ii]  同前、六九頁

[iii]  バッハオーフェン、岡道男・河上倫逸監訳『母権論』3みすず書房、一九九五年、一四四頁